高知トビウオ倶楽部

高知県在住の腐れ大学生です。

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最近の記事

【随筆】 京都

 人生で三度訪れた京都。  一度目は家族で、二度目は高校の遠足で、、三度目は友人との旅行で。  その三度だけで、京都という場所に憧憬を超えて、最早郷愁ともいえる感情を抱くのは、これまで読んだ小説や、聴いた音楽、見た映像によって、私の精神の奥底にある枯山水の様相が大きく描き変えられた結果と考えられるのだろう。  自分が大して訪れた事の無い、若しくは一度も足を踏み入れた事の無い場所に、「帰りたい」とすら思えてしまう感情を作り出す、文章という文字の連なりに私は人の心を掌握し、押し潰

    • 【詩】 枝豆と赤星

       枝豆を食う  麦酒を飲む  明日も生きる為に  枝豆を食う  麦酒を飲む  精神を壊さぬ為に  枝豆を食う  麦酒を飲む  大切な誰かと出会う為に  枝豆を食う  麦酒を飲む  出会った貴方を愛する為に  

      • 【詩】 空

         何か義務が無いと身体が動かないのです  生活も趣味も    かつて私の日常を満たしていた  色彩はそれを失って  今は白黒の無気力と脱力感を伴って  私の身体に杳として所在の分からない  悪意ある重力がのしかかるのです  誰か希望を何処か光を  そう願う私の目の前に有るのは  空けられた一缶の麦酒と三缶の発泡酒

        • 【散文】 月と煙と僕の関係性

          吐き出した煙が夜気に溶けて、私に纒わり付くと私は心の底から安心するのです。 その安心感は深海から光を放って浮き上がり、それは数多の泡の様な、鱗を大量に撒き散らしながら泳ぐ鰯の群れの様な、やがては空中に消え、大魚に蹂躙されてしまう程の儚いものであるのですが、私はその安心感に依存しているのです。 ハイライトをぷかぷかと吸っているその数分だけ、煙が蛍光灯の様に寒い月明かりから、私を隠してくれている気がするのです。 月明かりは美しいもので、ずぅっと眺めていたくもあるのですが、

          【創作】夜蝶

          まだ幼い微熱に駆り立てられて、二人は自転車を必死に漕いでいた。自転車の籠には、彼が実家にある納屋から引っ張り出して来た径の太い麻縄と、隣でペダルを熱心に漕いでいる彼女から、一週間程前に借りた文庫本が入っている。  新月の夜である為、空は一段と黒く、彼らは時々点滅する自転車のライトと、気の狂った蛾がその周りを八の字を描いて飛び回る、白い光を放つ点々とある街灯を頼りに、暗闇の中を突き進んでいた。  彼らは、数分に一度程すれ違う車の灯りに用心していた。パトカーの不吉な赤い光が点る

          【創作】今際の水面

           死にたいと考える事を少し難しい言葉で希死念慮と言うらしい。  この言葉を知ってから、僕は自分が常々抱く死にたいという願望に、名前が付いている事にささやかな安堵を覚えた。  僕だけじゃない。この感情を抱く人々が世の中には多く居る。だからこそ名前が付く。  それ故に僕は生活を送る中で、大きな自信を持って、死に場所を探し、死に様について考えに耽り、死後の世界を想像する様になった。  夜空を眺めれば、あの星は誰かの魂だったものかも知れない、名も知らぬ草木を見れば、あれも誰かの生まれ

          【創作】今際の水面

          【創作】同窓会

          彼は軽く酔っていた。周りには、彼が高校生だった時の同級生達が、それぞれに酒を酌み交わし、思い出話に花を咲かせている。  彼の仲の良い友人が企画した同窓会には、それなりに多く参加者が集まった。 「良くもまぁ、これだけ人を集めたな。」 「当たり前だろ。人望だよ。お前とは違う。」 「自分で言うなよ、ほんまはっ倒すぞ」  幹事の友人とそんな軽口を叩きながら、彼は楽しく麦酒を飲んでいた。久々に会ったクラスメイト達は、進学したその先や、就職したその先で大きく変化した者が多く、垢抜けている

          【詩】幸せの形

          君の笑顔の為なら何だってしよう 少ない給料だって、そのほとんどを君に貢ごう 君の燦然たる笑顔を   一抹の優しさを 旺盛な好奇心を 私の生活を以て満たせるのならば 私はその全てを捧げよう それで私は幸せなのだから 君の為に私は星になり飛行機になり 財布になりサボテンになり釣り竿になりたい 君が望むのなら世界の法則だって変えてみせたい 舞い降りる雪ですら温かくしたい 暑い日には川の清涼な流れになりたい 報われなくとも良い 君が喜んでくれるなら 私は路

          【創作】病床と熱帯魚

          男は病床に伏していた。立ち上がる気力すら無く、時には喀血し、枕元を血に染めたが、それを清めてくれる者は誰も存在しない。男には親兄弟も居なければ、友も居ない。多くの人々が男の普段の振る舞いに眉を顰め、苦言を呈して呆れては、男の元から去って行った。 男は孤独である。彼に残されて居るものは、読まれる事も無く、机の上に高々と積み重ねられた文庫本と、その前に置かれている淡水の入った瓶の中を泳ぐ、長い尾鰭をひらひらと動かす弱ったベタのみであった。 「お前も弱っちまったな。俺も弱っちまっ

          【創作】病床と熱帯魚

          【散文】嘘つき

          虐げるより、虐げられる人間でありたい。痛みを知らない人間より、痛みを知って他人に寄り添える人間でありたい。  自分の犯した罪を認め、それの一生消えない不可逆性に苛まれ、私の嫌悪してやまない奴らに踏みにじられたい。  それでも尚笑顔を崩さず、他人を貶す事でしか楽しみを見出せない悲しい彼らを、今度は私が許してやるのです。  私の考える隣人愛とはこういう事なのです。優しい人とは慈しみを持った対等な関係を。下卑た奴らには、彼らをも許せる永遠の心の海を。  大魚の余裕を持つのです。  

          【散文】ノンポリ

          飲んでる時にポリティカルな話をするのはナンセンスだね。  政治なんて病熱にうなされるのは、素面の時だけで良いのさ。  酔ってる時くらい浮世離れした話をしようぜ。美しい詩や素敵な音楽。意味深長な純文学だって良い。そんなのを褒め称える酒焼けしてヤニに塗れた賛美歌を歌おうぜ。あすこに居座ってる尖った三日月の最先端で、星と手を取って千鳥足のダンスを踊ろうぜ。  酔ってんのかって?無論だよ。俺を誰だと思ってやがる。  そんで何?お前にも好きな女が出来たって?そいつぁめでたい。お前さんが

          【散文】ノンポリ

          【散文】涙の宝石

          私は無力です。私が解決出来る問題は、時間とお金を積めば解決出来るものばかりです。 解決出来る問題しか見ようとしない私は、砂浜に刺さった細い棒切れの様に頼りないのです。 もしも、誰の役にも立てない自分の不甲斐なさに流す涙が、光り輝く夜の宝石となって、あの子の部屋のクローゼットの奥にある、内緒の宝箱に仕舞われたとすれば、それは何よりもの幸福なのでしょう。 でも、私が一番幸せにしたいのは彼女なのです。

          【散文】涙の宝石

          【散文】祖母

           二年前、久方ぶりに老人ホームに居る母方の祖母に会った。このご時世で中々会う事が叶わなかったから、僕は祖母がどんな反応をしてくれるか楽しみだった。  僕や弟にとっても優しくしてくれた祖母。大晦日は毎年祖母の家に泊まりに行って、祖母と僕と父と母と、弟が産まれてからは弟も、紅白歌合戦を見ていたっけ。祖母の布団で一緒に寝た事もあったと思う。元気だった頃の祖母は、換気扇の下で煙草を良く吹かしていた。煙草の灰を流した後の台所は少し臭くて、でも、それも祖母の家という気がして、嫌いじゃ無か

          【散文】女の子は怖い

          僕の部屋のサボテン。 君達、僕が水やらないといつか枯れちゃうんだろ。 可愛いけど、か弱いねぇ。感謝しろよ。 痛い。痛いったら‼︎ 刺さないで。刺さないでって‼︎ 謝るから。謝るからぁ‼︎ 何にだって棘はあるのさ。

          【散文】女の子は怖い

          【散文】抵抗

           幾つもの信念を、幾つもの思い出を、幾人もの人々を自ら手放し、幾人もの人々に見捨てられて来た私は、私を私であると認識する為に、時代外れな音楽を聴き、古い本を読み、思索に耽り、駄文を書き連ねるのです。大衆という大きな潮流に揉まれ、牙がある程度取れて丸くなった私の、せめてもの抵抗。これ以上私を失ってなるものか。  剥がれた鱗の痛みに耐えて、傷付いた鰭で泳ぐのです。泳いで泳いで、生きた魚の目で、私を排斥しようとする人々の目を見つめ返してやるのです。ボロボロだけど立派な尾鰭で、彼らの

          【散文】やかましいわ

          飲んだら病むのか。病んだら飲むのか。読んでも病むし、病んでも読む。飲んだら読むし、読んでも飲む。もう訳分からないね。複雑な三角関係だし、卵が先か鶏が先かみたいな話だ。  ところで君達、コロンブスの卵って知ってる?  そう、あの有名な冒険家さ。彼は卵を取り出して部下達の前で言ったんだ。この卵を立ててみろってな。部下達は悩んだんだそうだ。そうするとコロンブスは卵の一番下だけに割れ目を入れて、見事卵を立てたんだそうだ。物事には発想が大事なんだってな。やかましいわ。その時のコロンブス

          【散文】やかましいわ