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【散文】抵抗

 幾つもの信念を、幾つもの思い出を、幾人もの人々を自ら手放し、幾人もの人々に見捨てられて来た私は、私を私であると認識する為に、時代外れな音楽を聴き、古い本を読み、思索に耽り、駄文を書き連ねるのです。大衆という大きな潮流に揉まれ、牙がある程度取れて丸くなった私の、せめてもの抵抗。これ以上私を失ってなるものか。
 剥がれた鱗の痛みに耐えて、傷付いた鰭で泳ぐのです。泳いで泳いで、生きた魚の目で、私を排斥しようとする人々の目を見つめ返してやるのです。ボロボロだけど立派な尾鰭で、彼らの顔面に塩水を掛けてやるのです。私は大魚。強いのです。とても強いのです。
 そう嘯いても、私は時折、陸から響く足音への憧れを感じてしまうのです。その上に燦然と輝く月は綺麗で、皆を平等に照らすものなのに、私は彼女に、私だけを照らしていて欲しいと思ってしまうのです。

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