【散文】 月と煙と僕の関係性
吐き出した煙が夜気に溶けて、私に纒わり付くと私は心の底から安心するのです。
その安心感は深海から光を放って浮き上がり、それは数多の泡の様な、鱗を大量に撒き散らしながら泳ぐ鰯の群れの様な、やがては空中に消え、大魚に蹂躙されてしまう程の儚いものであるのですが、私はその安心感に依存しているのです。
ハイライトをぷかぷかと吸っているその数分だけ、煙が蛍光灯の様に寒い月明かりから、私を隠してくれている気がするのです。
月明かりは美しいもので、ずぅっと眺めていたくもあるのですが、私は同時にそれを恐れてもいます。真っ暗な夜を照らすその弱くは無い光が、私の精神の奥底の、汚辱に塗れた部分を顕にするのです。
日が暮れて空が暗くなると、昼間は何とか被る事の出来ていた善人の皮が剥がれ、私は自分勝手な期待や厭世観、これまでの罪とかいった、月光に照らされた自分に巣食う狂人と対峙して、内省しなければなりません。
だから私は今宵もライターに手を伸ばし、煙草に火を点すのです。
貴女の純粋無垢な眼差しから逃げる為に。私の本性を隠したい為に。
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