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手紙の言葉には体温がある。初めてのリルケ。

 本との出会いは、人との出会いに似ている。ふと立ち寄った場所で見つけたり、見つかったり、誰かに紹介されたり、読んでいる本の中で引用されていたり。実際に話してみてつまらないこともあれば、運命の人みたいに意気投合することもある。その確率とか、ときめきとか、がっかりとか全部、本との出会いは人との出会いにそっくりだ。

 11月はリルケの名前を目にすることが多かった。具体的には若松英輔さんの著作を何冊か読んでいる中で多数引用されていた。先日友だちと一緒にお気に入りのカフェにいこうとしたら、準備中の古本屋さんを発見した。こちらは15時にオープンするとのことで、カフェの帰りに寄ることにした。旅の本、詩集、ZINE、文芸雑誌にまざって、わたしは一冊の薄い本がこちらを向いているのに気がつく。そこにリルケの名前があった。

 わたしは往復書簡や手紙を読むのが好きだ。不特定多数の読者ではなく、特定のひとりに宛てて書かれている。そこには温度がある。小説よりもあたたかい感じがする。誰かを想うとき、心が川のように繋がって、そこに体温がのっているようになることがある。その川が温かくなり、寒い日のココアみたいに胸に沁みていく。手紙はそんな風に、見ず知らずのわたしの心もあたためる。リルケが若い詩人に宛てた手紙と、女性に宛てた手紙が収録されたこの本は、コートのポケットにいれて持ち運ぶのにちょうどよい。ふとしたときにページをひらけば、いつもわたしに必要な言葉を見つけることができる。その言葉はわたしに向けて書かれてはいない。いつかどこかの詩人に向けて書かれた言葉だ。だけど、世界は開かれた。わたしはあなただし、詩人はわたしだったのだ。

 人間関係でも、誰かに放った言葉がそのまま自分に返ってきたり、誰かに言いたいことをほかの誰かに言ってしまったりすることがある。誰に向けているのかは実はあまり重要ではないのかもしれない。それはただの矢印で、方向で、真ん中のわたしはいつも全方位に開かれている。昔々に書かれた言葉をこんなに受け取ることができる。誰がとか、なにがとか、それよりも大切なのは感じる自分と彼らの想いだ。自分が思っていることを言葉にすること、誰かに宛てて文章を書くこと、創作すること、詩を書くこと、伝えることは、それぞれ微妙に異なっている。どれも「言葉」だけれど、その温度感や性質がまるでちがっている。わたしは、リルケの言葉は「心」に近いような気がした。

だからわたしがあなたにお勧めできることはこれだけです、自らの内へおはいりなさい。そしてあなたの生命が湧き出てくるところの深い底をおさぐりなさい。その源泉にのみあなたは、あなたが創造せずにいられないかどうかの答えを見いだされるでしょう。その響きを、あるがままにお受け取り下さい、その意味を明かそうとしてはなりません。おそらくあなたが芸術家になる使命を持っていらっしゃることがわかるでしょう。そうなれば、あなたはその運命を自分にお引き受けなさい、そしてそれを、その重荷とその偉大さとをになって下さい、決して外からくるかも知れない報酬のことを問題になさってはなりません。なぜなら、創造するものはそれ自身一つの世界でなくてはならず、自らのうちに、また自らが随順したところの自然のうちに、一切を見いださねばならないからです。

リルケ『若き詩人への手紙 若き女性への手紙』17ページ

 芸術は向こうからやってくる。人間はその邪魔をしてはいけないのだし、それを引き受ける人には魂の覚悟がいる。わたしはそういう人が好きだ。孤独で、寂しくて、ほとんどの日々を耐え忍んでいる。だけど、彼らはたった一瞬やってくる「その時」がどんなに素晴らしいのかを知っている。リルケからこの手紙を受け取った若い詩人は、その苦しさに耐えかねている。もしかしたら、成し遂げることができないまま他の道を選んだのかもしれない。読む人によっては、これは芸術の話ではなく人生の話だ。だからわたしはわたしの大切な人たちにこの本を読んで欲しいと思うし、この本から何かを感じ取ることができる人たちとよい友だちになれると思う。

 「答えや意味を探さないで下さい」とリルケは語った。

すべてを生きるということこそ、しかし大切なのです。今はあなたは問いを生きて下さい。そうすればおそらくあなたは次第に、それと気づくことなく、ある遥かな日に、答えの中へ生きていかれることになりましょう。

31ページ

 自分の言葉で、自分の頭で考えること。興味があることを深く一生懸命学ぶこと。生きる上で必要なのはこういうことだと思う。深く深く潜るというのは蠍座的だ。蠍座新月の昨日、わたしは友だちとこんな話をしていた。その会話はポンと中に浮いて、突然はじけて消えてしまった。データは消えてしまう。しかしデータは確実である。一緒に過ごした時間は心に残っている。時を経て感じ方が変わっていく。だからといって、それが真実でなかったのだとは言い切れない。正確に記録することよりも、自らがどう感じたのか、何を思ったのか、わかったのか、そういうことが大切なのだと思う。「想う」ことを書いてみる。誰かに伝えようとしているのではなく、ただそれを表現する。

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