ふたたび、方言と小説

以前、こんな文章を書いたことがある。

自作の小説に方言は取り入れたいが、自分の出身地のそれは読者に理解されず、それ以外の方言は自分が理解できない。
可能であれば、自作キャラに標準語以外の方言もしゃべらせてみたいのだが、やはりこのハードルは高い。


先日、ある小説を読んだ。
各地方に住んでいた登場人物があるきっかけで東京に集まり、話が始まるというストーリー。

以下、すべて個人の感想である。


仮にこのキャラクターたちをA、B、Cとして、AとBはかなり本格的な方言をしゃべるシーンがある。
そして、C。読み進めながら、僕はこのキャラがいつ方言を口にするのか楽しみにしていた。
なぜなら、Cが生まれ育った土地は、僕の出身&在住地だからだ。
しかし、Cは一貫して標準語しかしゃべらない。イントネーションがその土地風、と指摘される描写もない。
さらには、生まれ故郷に触れてもおかしくない帰省シーンがあったものの、最後まで、方言やその県特有の事柄について、口にすることなく終わった。

のちに知ったところによると、A・Bについては実際の出身者による協力があったという。つまり、Cについては、知り合いにその土地の出身者が見つからなかった、と推測されるが、ならばなぜわざわざそこで生まれた設定にしたのだろうか。
ちなみに、Cの生誕地がストーリーに大きくかかわることはない。日本のどこの生まれでも成立する内容になっている。
ちなみに、C、そして僕の育った土地の方言は、テレビなどでは「〇△※◎□~」などと字幕に出るほど難解で、ネタとして小馬鹿にされることも多い。
にもかかわらず、なぜわざわざ、この県を選んだのだろうか。

まさかとは思うが
テキトーに設定した
というわけでもあるまい。


もちろん、地方出身者が必ずその土地の方言をしゃべるとは限らない。
まして、上京した設定であれば、他の地方の人にわざわざ方言で話しかけることもないだろう。
ただ、その小説の中では、A、Bが生き生きとした方言を口にしている分、いかにもしゃべりそうなCがそれをまったく口にしなかったことが、浮いてしまったように感じられたのだ。

訊いてみようにも、残念なことに作者とは面識がない。




方言を小説に取り入れること。
簡単なようでなかなかの難問である。

東北出身の僕で言えば、小説の舞台になるのは東北ではなく、圧倒的に関東地方が多い。
これは、テレビドラマやアニメなどで、特に舞台となる場所に触れない場合、大抵が関東地方である「暗黙の了解」に基づく。
ただ、物語に登場する人物がすべて標準語を話し、関東地方在住という不自然さが付きまとう。
なお、拙作の『勇一・大吾シリーズ』では、全体の舞台は東京だが、主人公①の勇一が通勤する街を「本我生《もとごう》」、主人公②大吾が住む下町の商店街を「遊織《あすおり》」と設定している。いずれも架空の地名である。
これは、成人向け小説という事情もあるが、作者がそこまで東京の地理に詳しくないので、実在の地名を用いると、矛盾が露呈しやすいこともある。

次に多いのが「杜の都」。(具体的に地名を書いてもいいが、まぁエロ小説なので……)
広い意味での「東北」を象徴し、かつ、浪人生時代この街で一年間過ごしていたという事情もある。ちなみに、方言は話させていない。同じ東北でも他県ではまったく異なるし、読者の出生地はバラバラなので、セリフが理解されにくいのを危惧した。
拙作では『ヤリてぇぇぇっっ!!!』『木曜日の男』など。

最後は架空の地名、もしくは地名そのものを出さないパターン。
これであれば、多少いい加げ……ふわっとした方言(らしきもの)でも、そもそも地名を設定していないので、「なんちゃって方言」でもごまか……許されるのではないかと……。
とはいえ、ありがちなフェイク方言――たとえば「オラ、●●だぁ(尻上がりイントネーション)」「●●だべ」――で押し通すのは、自分たちが何度となくそれをされてきた以上、できれば避けたいところ。
なお、『“嫁来いツアー”騒動記』では、「北の大地」としか書いていない。
方言を話すキャラを出したかったのだが、ガチ方言では読者に理解されないため、「特定の地域ではないが、なんか田舎っぽい言葉しゃべってる」感を出したかったから。

ちなみに僕の生誕県の方言は非常に難解であることで知られ、ツイッターなどで何度かガチ方言でつぶやいても、まったくわからない人は圧倒的多数を占める。
よって、その土地でなければならないよっぽどの理由がない限りは、そこを舞台に選ぶことはない。
関西以南の作家の方が自身の方言を作品に取り入れているのを読むと、なんともうらやましい。



ドラマであれば各地域の「方言指導」の担当者がいて、いかようにもリアルな方言のセリフをしゃべらせることができるが、

金ない
友人居ない
同人小説書き

には無理な話である。
なので、現在のところの解決策(?)は

作品の舞台は関東地方が中心
その他の地域の出身者でも、基本的に標準語をしゃべらせる
方言をしゃべらせる場合は、(自分と同じ)「東北弁っぽいもの」

となる。

もちろんストーリーに制約が出てくるのは事実だが、

正直
そこまで
文学的な内容でもないし。


ちなみに、前述の『勇一・大吾シリーズ』の勇一は東北出身だが、どんな時でも標準語をしゃべっている。
これは、本人が内向的で、周りの目を気にするタイプであり、意識して標準語を話そうと心掛けているものと思われる


というのが建前の設定だが、実際のところキャラクターイメージの問題もある。
勇一は、一流モデルのようにイケメンキャラなのだが、そんな彼がたとえば

「おめなんぼはんかくせぇんずや」

などと言ったら、なんか性格まで変わってしまいそうな気がするし。


都会で方言を口にするということは、「田舎者」のレッテルを貼られる危険性もある。
ならばと地方を舞台にしても、方言が日常になっているので、自分が生まれ育った地方以外自信をもって書けないという問題もある。

で、結局、僕の場合はごまかしごまかし書いているわけだが……。


それらの問題はとりあえず横にして、まずは標準語で書いたセリフがたちどころにナチュラルな方言に変換される高性能な「方言コンバーター」が欲しい。(お遊びのサイトなら多数あるが)
グ一グルさん、そろそろどうですかね……。

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