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ナンパの怖さを知ろう!(コラム:本当にあった怖い話⑭)vol.321

201◯年3月某日。

新宿での参戦である。

この街の路地はなかなか面白い。

風情があるとも言えるし、おどろおどろしいとも言える。

歌舞伎町二丁目の『THE 歌舞伎町』と言えるギラギラ感漂う街かあるかと思えば、穏やかな雰囲気が包む三丁目のお洒落な佇まいもある。

そうかと思えば、区役所通りと平行して走るゴールデン街などは、細かい路地からいきなり喪黒福造が『ダァー』とやって来そうな裏通り感たっぷりの街並みもある。  

そんな中、俺はある夜更け、この辺りをナンパしていた。

やはりゴールデン街とほぼ平行に位置する◯◯通りである。

ここでナンパしていた。

夜だと、後ろ姿だけでどんなキワモノを摑ませられるか分からない。

スラっとした体つきからはおよそ想像しかねる、ブサイクきわまりない容ぼうの女に豪快にも声掛けしてしまうことは多々ある。

だが、今回の女は違った。

いつもと同じ様に、『会社の◯◯◯◯WAY』から始まり、瞬発力で己の会話力を問う手法である。

これは大体一定のストーリーを展開していくため、女はただ聞き役に回る時間が長い。

その間、実は女の顔を確認しないことも多いのである。

ある程度の区切りのタイミングで、女の笑いを引き出すのが目的であるが、この女の顔の輪郭をまじまじ見て、俺は背筋を凍らせた。

はっきり言って、『エレファントマン』ならぬ、エレファントウーマンである。

『エレファントマン』

見世物小屋にいた男を、何とか治せないかと思い、ある外科医がこの男の面倒を見るが、知恵が遅れているかと思いきや、意外にもしっかりした判断力と記憶力があることを見出し、一人の人間として付き合ううちに、この男との間に友情にも似た想いを抱くことになる。

そんなストーリーだ。

俺は声掛けしながら、この風貌ゆえにこのまま引き下がったら、女の顔ゆえ怯えたと思われ、この女に失礼だろうと思い、何食わぬ顔で話を続けていく。

女とは意外に会話のキャッチボールが成立している。

あらら、ビタドメしてしまった。

おでこが異様に突出していて、目が落ちくぼんでいる。

おまけに前歯が歯槽膿漏の様に歯抜けである。

左の頬はひっつれている。

また左右の目の大きさが違う。

俺の心は別に女の顔の様子をインプットした訳ではないが、あまりにビジュアル的にインパクトがあったので、そのままそのシーンを頭のカメラが激写しまったようだ。

俺はのちにそれを思い出してこうして書いている。

女はバンゲを拒んできた。

それもそうであろう。

極端に自己防衛反応が働く気質に自分を持って行かざるを得ない状況であったろう。

どす黒い血が流れていく感じがした。

兄貴からの話を思い出した。

昔、子供の頃、父親に平塚の七夕に連れて行かれ、戦争によって手足をなくした戦傷者が、アコーディオンを弾き、お情けの寄付を募っていたが、あの時見た光景を思い出した。

兄貴は、あの頃、お金を入れるのが怖くて出来なかったという。

後悔ではないが、自分の怯えとインパクトのある光景が、端的に結びついているとも言った。

あの時の兄貴は踏み込まなかったが、今の俺は曲がりなりにも踏み込んだ。

あの女は、自分がナンパされて、どう思ったのか。

平静を装いながら、暗く光る怯えの瞳に女は気付いたか。

当分俺はこの界隈でのナンパを控えようと思った。

女はこの通りを歩き慣れているような感じがし、また出会ってしまいそうな感じがしたから。(終)


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