日比谷 虚俊

連句とか俳句とか

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十一月に読んだ本

百合俳句アンソロジー『ひめごと』vol.1 百合俳句と銘打っているものの、明確に百合と解釈できる句は少ない。短さゆえに使える言葉や素材は少なく、その中で俳句としての完成度を求めていけば解釈は普遍的になっていく。明確にそう読める句を作ろうとすれば短さを失ってゆく。◯◯俳句の宿命だ。以下、各作家から一句ずつ引用する。   手を引けば息が白くて嫉妬する 雨霧あめ  「息が白」いことと「嫉妬」の間には直接的な因果はないと思う。その人の「手を引けば息が白くて」そのあとに何かを思いだ

    • 十月に読んだ本

      日本語が亡びるとき 水村美苗著。副題は「英語の世紀の中で」。外来語の輸入が激しすぎて日本語はもう日本語としての形を保つことはできない的なことが書かれているんだろうな、と思いつつ購入。実際には全然そんなことはなかった。豊富な知識と深い洞察から来る日本語への愛と憂い。書かれている内容はやや難しかったものの、日本語を使って表現する人であれば必読書と言えよう。  全七章のうち第一章はアイオワ大学に招かれたときのエッセイ。第二章はパリでの講演。第三章から第六章までは英語や日本語の歴史

      • それでもサイレンススズカと言ってほしかった

         ウマ娘から知った口なので、競馬界でどういう位置づけで、どういう扱いなのかは、詳しく知らない。悲しい事件であったし、軽々とは出せない名前だろう。実況者の台詞はレースの、競走馬の印象を左右する。それでもツインターボではなくサイレンススズカと言ってほしかった。一つの弔いとして。 アプリでのサイレンススズカ 2021年2月24日、ゲームアプリ「ウマ娘 プリティーダービー」リリース。  好きなVTuberが(自発的に)宣伝していたこともあってその存在とサイレンススズカの話も知ってい

        • 七月に読んだ本

          ※ネタバレを含みます。 岸辺露伴ルーヴルへ行くまさかのフルカラーに驚いた。バンドデシネプロジェクトの依頼でフルカラーにしたものだと思っていたが、ウィキペディアには荒木先生がフルカラーという選択肢を採ったと書かれている。すさまじいバイタリティ。 これまで実写化された「岸辺露伴は動かない」はすべて先に漫画原作を読んでいた。しかし「ルーブルへ行く」だけは映画を先に見た。映画を見た直後に漫画の方を読んだので、展開のスピードが雑にも感じられたが漫画ならこのテンポ感だよな、とも思う。と

        十一月に読んだ本

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        • 1本
        • 小説 所感
          4本
        • 連句まとめ
          6本
        • 句集・歌集・俳誌
          7本

        記事

          八人座頭「緑雨の中」の巻

            髪切つて緑雨の中を帰りけり    日比谷虚俊    簡単服が立て掛ける傘          仝   舞浜の月を車の窓に見て          仝    扇を置いて告白をする          仝   焚火してゐたらカチンときたらしく     仝    狼の歯を滴れるもの           仝   菜の花を茹でたる傍の氷水         仝    部屋から部屋へ廊下うららか       仝 八人座頭のルール(今後改編される可能性大いにアリ) ①八句で満尾 ②すべて季の

          八人座頭「緑雨の中」の巻

          『惑溺Ⅱ』10句選

           なんとなく惑溺は造語だと思っていて、改めて調べてみるとすでにある言葉だということが分かった。 「ある事に夢中になり、本心を奪われること。」  句会に多く参加したり主宰したり、大量の句作をしたりと彼女の熱量はすさまじいものがある。彼女の惑溺っぷりとしての作品集なのかもしれない。 夏痩や渚見てゐるだけでよく  季語は「夏痩」。夏の暑さで食欲が減り、体重が落ちてしまうこと。  作中主体は「渚」を「見てゐるだけでよ」いという。撮影だろうか、養生だろうか、デートだろうか。ただただ静

          『惑溺Ⅱ』10句選

          『惑溺Ⅱ』10句選 補遺

          夏痩や渚見てゐるだけでよく 「夏痩」はどれだけ現代で通じる季語だろうか。私も夏バテは経験したことがあるが、体重が減るほどの食欲減退は冷房などの暑さ対策がされ、一日三食かつコンビニで食べ物が入手できる現代で、どれほど起こりうるものなのだろうか。ネットで「夏 体重減少」で調べてみても「汗をかくから」とか「夏太りに注意!」みたいなのが上位でヒットする。他は体重増加の原因を紹介する医者のページだった。 負の感情は心を長時間支配するもので、「夏痩」するほどの夏バテはよほどナーバスになっ

          『惑溺Ⅱ』10句選 補遺

          『ビジネス書ベストセラーを100冊読んで分かった成功の黄金律』を読んで分かった「完成」までの「過程(プロセス)」~The Magic of Ken Horimoto~

           素晴らしい読書体験だった。完成形が分かってないものを完成させることの難しさは俳句を通して知っている。ビジネス書を100冊読んでそれを纏めるなど至難の業だろう。成功を定義しないまま各々書きたいように書いては、断片を集めて一本の道を作ることなどできようはずがない。ビジネス本の著者は纏められることを想定していないし、全員が別々の事柄について書いている。  それでも完成させた。まずここに拍手が送られるべきだろう。ただ、私が感動したこの本の「完成」はこのことではない。この本の「真の完

          『ビジネス書ベストセラーを100冊読んで分かった成功の黄金律』を読んで分かった「完成」までの「過程(プロセス)」~The Magic of Ken Horimoto~

          幼さの  『蹴りたい背中』を読んで

           ずっと「高校生の物語だ」と思いながら読んでいた。というのも、主人公のハツも、もう一人の登場人物である蜷川も、思春期の嫌なところを煮詰めたようなキャラクターをしている。  解説を書いた斎藤美奈子さんが指摘した通り、ハツは強がりだ。周囲と馴染めない原因が自分にあることを認めたくない。一見、理論の通っているような考えを持っているが、それは馴染めなさの肯定するためのものにすぎない。例えば顧問の優しさ(甘さ)と部員の悪知恵(強かさ)が噛み合って部活が早めに切り上げられたとき、彼女はこ

          幼さの  『蹴りたい背中』を読んで

          『いぶき』第20号を読む

           今号の「いぶき実験室」に連句のことについて書かせていただいた。その際に失礼や補足したい箇所があり、取り急ぎこのようにツイートした。国光さんには改めてお詫び申し上げたい。 共同代表作品 「喧嘩で一番強いのは黙ること」と聞いた。夫に不満があったにせよ、他所から持ってきた怒りにせよ、どこか他人事のような書きぶりである。確かに黙られてしまっては介入の仕様がない。何者も寄せつけない雰囲気が黄身を閉じ込める「寒卵」と響き合い、もちろん景として夕飯に出てきた「寒卵」をそれぞれに食してい

          『いぶき』第20号を読む

          「変容する連句」と潮目

           言語学に「ドリフト」という言葉がある。ざっくり言うと、長い時間をかけて単語の意味が変わっていく動きのこと。「微妙」が「言葉にできないほど素晴らしい」から「良くもなく悪くもない」へと変わったように。私はこれを拡大解釈して変化全般に対して「ドリフト」と使ってしまいがちで、「さんざか」から「さざんか」、「きぬかづき」から「きぬかつぎ」などもドリフトと言ってしまう。ドリフトについての詳しいことはゆる言語学ラジオか、ご自身で著作にあたってほしい。 言語の変化を説明する鍵は「ドリフト」

          「変容する連句」と潮目

          脇起こし半歌仙「春の叉焼」の巻

            中華屋の麦茶に揺るる油膜かな   塚本櫻𩵋    麒麟の食す春の叉焼      日比谷虚俊   花ふぶき髪をさらさら靡かせて      仝    引つ張つてゐる凧の手応へ       仝   満月は豆電球の大きさの      佐藤知春    もう動かざる鵙の早贄         俊   自転車の空気入れたる末枯野       仝    二人で歩く下校楽しき         仝   なりゆきで初めて君の家に来て      仝    長きスマブラ長きまぐはひ       𩵋

          脇起こし半歌仙「春の叉焼」の巻

          『展開』を読む

          作者と作中主体が別物というのは重々承知していて、それでも作中主体はそのまま豊冨さんだと信じたい歌集だった。彼女の大切な思い出や感情が優しく、短歌の形を借りて保存されている。「俺が俳句にできなくて諦めていたことは短歌だったらできたかもしれない」と少し悔やむほど。 「かわいい」「嘘」という言葉がたくさん使われていて、もしかしたら彼女のいるコミュニティには「かわいい」と「嘘」がたくさんある場所もあるのかもしれない。『展開』の表紙は少しくすんだピンク色をしていて、リボンのついたステッ

          『展開』を読む

          『展開』を読む 補遺

          素人の分析である。精度、順序など、ご容赦頂きたい。 まっさらでまっしろでまっすぐでまっとうな彼氏が選んだあたし 形容動詞が「ま」で頭韻を踏んでいることはもちろん、「彼氏」「あたし」にも[a]の頭韻がある。さらに形容動詞の三音目が「さ」「し」「す」とサ行で構成されており、「と」も舌頂音で無理矢理グルーピングできなくはない。 当然「で」で脚韻も踏んでおり、五音の区切りと「ま」と「で」がリズムを構成する。そして[e]は「彼氏(karEsi)」「選んだ(Eranda)」にも含まれ、

          『展開』を読む 補遺

          第二のくしゃがら「アウアイ」

          バイト先に中学生と思しき女子が二人、「まかセロリみたいな言葉が好きなんだよね」と言いながら入ってきた。片方が「他にどんな言葉があるの?」と聞くと、少し間が空いて「確かにアフガニスタンとか」と答えた。 全然別物だろうが、と思いつつ「確かにアフガニスタン」は不思議な心地よさがあることに気づいた。しばらく考えて「確かに」と「アフガニ」の母音が完全に一致していることを発見した。「確かにアフガニスタン」だけではこれほど感動しなかっただろう。ツッコミ→疑問→解決というプロセスを踏んだから

          第二のくしゃがら「アウアイ」

          脇起こし表合せ十句「小さき海豚」の巻

             脇起こし表合せ十句「小さき海豚」の巻                            捌:日比谷虚俊      冬の海前世を思い出したから    日向葵       小さき海豚のおよぐ曙    日比谷虚俊      革靴に蹴られて溝に嵌まる石   植木まい       チョークの黄色五ミリ削れて     葵      繊月を撮ってLINEで送りあう      俊       小鳥の真似をするこいびとよ     植      整った君の歯形が洋梨に        

          脇起こし表合せ十句「小さき海豚」の巻