『惑溺Ⅱ』10句選 補遺

夏痩や渚見てゐるだけでよく
「夏痩」はどれだけ現代で通じる季語だろうか。私も夏バテは経験したことがあるが、体重が減るほどの食欲減退は冷房などの暑さ対策がされ、一日三食かつコンビニで食べ物が入手できる現代で、どれほど起こりうるものなのだろうか。ネットで「夏 体重減少」で調べてみても「汗をかくから」とか「夏太りに注意!」みたいなのが上位でヒットする。他は体重増加の原因を紹介する医者のページだった。
負の感情は心を長時間支配するもので、「夏痩」するほどの夏バテはよほどナーバスになっているのではないかと思う。そのうえで〈夏痩や渚見てゐるだけでよく〉を鑑賞すると静謐さというのは見えてこない。むしろ作中主体には日陰で休んでいて欲しいとさえ思う(「渚」を「見てゐる」ということは日差しも浴びていることだろう)。やはり現代における「夏痩」の解釈・使用例というのは、暑さでやつれているように感じられる、暑さで参っているというものがメジャーであろうか。できれば諸氏の意見も伺いたいところである。

サイリウム折つて涼しくなりにけり
客観写生ということをやっていると客観的な正しさにばかり目が行くが、作者(作中主体)の中の確からしさも大事だろう。実際にはサイリウムを折ろうが折るまいが気温は変わらない。しかし作者(作中主体)はそう感じた。
作品のバランスとしてワンダーとシンパシーと同時に、客観的な正しさと主観的な確からしさは言われていいと思う。主観的な確からしさに共感できるとき、そこには強い感動がある。
妖精は酢豚に似ている絶対似ている 石田柊馬

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