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記事一覧

十月に読んだ本


日本語が亡びるとき 水村美苗著。副題は「英語の世紀の中で」。外来語の輸入が激しすぎて日本語はもう日本語としての形を保つことはできない的なことが書かれているんだろうな、と思いつつ購入。実際には全然そんなことはなかった。豊富な知識と深い洞察から来る日本語への愛と憂い。書かれている内容はやや難しかったものの、日本語を使って表現する人であれば必読書と言えよう。
 全七章のうち第一章はアイオワ大学に招かれ

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十一月に読んだ本


百合俳句アンソロジー『ひめごと』vol.1 百合俳句と銘打っているものの、明確に百合と解釈できる句は少ない。短さゆえに使える言葉や素材は少なく、その中で俳句としての完成度を求めていけば解釈は普遍的になっていく。明確にそう読める句を作ろうとすれば短さを失ってゆく。◯◯俳句の宿命だ。以下、各作家から一句ずつ引用する。

  手を引けば息が白くて嫉妬する 雨霧あめ
 「息が白」いことと「嫉妬」の間には

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七月に読んだ本

※ネタバレを含みます。

岸辺露伴ルーヴルへ行くまさかのフルカラーに驚いた。バンドデシネプロジェクトの依頼でフルカラーにしたものだと思っていたが、ウィキペディアには荒木先生がフルカラーという選択肢を採ったと書かれている。すさまじいバイタリティ。
これまで実写化された「岸辺露伴は動かない」はすべて先に漫画原作を読んでいた。しかし「ルーブルへ行く」だけは映画を先に見た。映画を見た直後に漫画の方を読んだ

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幼さの  『蹴りたい背中』を読んで

幼さの  『蹴りたい背中』を読んで

 ずっと「高校生の物語だ」と思いながら読んでいた。というのも、主人公のハツも、もう一人の登場人物である蜷川も、思春期の嫌なところを煮詰めたようなキャラクターをしている。
 解説を書いた斎藤美奈子さんが指摘した通り、ハツは強がりだ。周囲と馴染めない原因が自分にあることを認めたくない。一見、理論の通っているような考えを持っているが、それは馴染めなさの肯定するためのものにすぎない。例えば顧問の優しさ(甘

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