マガジンのカバー画像

トピックス(小説・作品)

8,502
素敵なクリエイターさんたちのノート(小説・作品)をまとめています。
運営しているクリエイター

#創作

クマとハム(189日目)

東京未遂

東京へ逃げたい、と一度でも思ったことがある人とは、深い関係になれると信じている。 行きたい、ではない。 逃げたい。 正確に言語化するなら、「ここではないどこかで救われたい」。 家出しても、行き場所なんてどこにもなかった頃。ネカフェは徒歩圏内にはなくて、コンビニすら遠くて、泊めてくれる人もいなくて。街灯のない夜道を、涙を流すのも忘れて徘徊していた頃。私は東京に行きたかった。ほんとうに行きたかった。口に出したら、ただの夢見がちな田舎者みたいになってしまうから黙っていた。東京な

プラチナ

たとえばいつかこの世を卒業したとき たましいだけの世界にいくとしよう 悲しみも苦しみもない 愛だけの世界 やすらぎとよろこびに満たされて 時間をも超越できる 永遠の世界 たましいだけで 愛だけで 存在できたら 満たされて やすらいで 何もかもすべて良し そんな気分になれるだろう 想像してみた そのときを そうしたら 不思議なことに この世のすべてが愛おしく 尊いものに思えてくる まぶしい光に目を細め 頬に受ける陽射しのあたたかさ 耳をすませば 木々と風、小鳥が同じリズム

初恋桜 [SS]

 もうじき八十九歳の春が来る。君江は桜が仰げるように置かれた古びたベンチに腰をおろし、薄雲のかかった空を見上げながら、ゆっくりと背筋を伸ばした。足腰はだいぶ弱っているものの、シルバーカーを押しながらであれば、まだ近所のスーパーで買い物もできる。天気が良ければ必ずこうして昔働いていた駅の前を通ることにしていた。この駅前の桜の老木にも小さな蕾がついている。もうじき花を咲かせるはずだ。  君江がまだ十代の頃に植えられた桜だった。貧しい農家の長女として生まれ、ゆえに仕事がきつい農家

【掌編小説】ホワイトデーにお返しを#あなたの温度に触れていたくて

(読了目安3分/約2,300字+α) 「俺はどっちかというと西森さんだな」  ぼんやりと喫煙ルームで天井を見上げていた僕の耳に「西森さん」というキーワードが引っ掛かる。僕は煙草の灰を落としながら、さりげなく声の主に目をやった。  喫煙ルームの反対の角で、同じ部署の二人が猥談で盛り上がっている。 「わかるわー。ああいうの、そそるな。おっぱいでかいし」 「小野さんは、っぽいけど乗ってこないタイプ」 「あ、お前知ってる? こないだ蓮司、小野さんお持ち帰りしたらしいぜ」

140字の中の発掘

みなさん、こんにちは。禧螺です。 今日もnoteをご覧いただき、ありがとうございます。 今日も晴天、空は澄み渡り、朝露の残る葉は、きらきらと輝いています。 こんなふうに、日常の風景を、のほほんと語ることのできる毎日が、続いて欲しい。 そのためにも、選挙に行って、政治に意志を示すことが大事だと思っています。 今日は、最近のちょっとしたマイブーム。 140字キーワード拾い です。 📲 最近、具体的に言えば、ここ2~3日の間で始めたばかり。 私は、note以外に

【一次創作(小説)】For My Valentine

世はバレンタイン、しかしイサベルとユウリには、愛の日をゆったり楽しむ時間がなかった。 原因は、魔物の大軍が、急に王国に攻め入ったことによって、急遽防衛戦が展開されたことと、その「愛の日」を理由に、戦士や騎士の非武装者が多く、人出が足りないという理由で、国王から「国を防衛し、敵を殲滅せよ」という王命が下ったのだ。 当時、イサベルは別の地で魔物の討伐、ユウリは外交の接待をしていたのだが、この命令によって、今日初めて顔を合わせることとなった。 本来、バレンタイン当日は、それぞれの公

僕と天使の物語

 白だ。どこもかしこも白だ。  見渡す限りどこまでも白が広がるこの空間には影すらもなく、壁と天井の区別もつかない。当然足元も真っ白で、僕が寝かされていたベッドはまるで宙に浮かんでいるようかのようだ。立ち上がったら落ちるのではと不安になってベッドから足だけをそろりと下ろしてみると、素足の爪先はすぐに固い感触とぶつかった。どうやら落ちる心配はないらしい。ゆっくりと立ち上がって、さてこれからどうするかと考えた始めたときだった。 「お目覚めですか」  背後からの声に振り返ると、確かに

くちびるの誘惑 全文(54677文字)

1話  カクテルグラスの泡が弾けて虚飾の祝賀会が始まった。ここに集まる人々は各界を代表する著名人、権力者、大手企業の役員達が主である。  新人作家の登竜門であるA賞が発表されるや否や、各メディアでその詳細が一部始終紹介され、いっときその受賞者は時代の寵児となる。それほどA賞の歴史と格式は高く偉大なものである。これまでに多くの作家を輩出し、現代の文学者達の多くが歴代の受賞者としてそこに名を連ねる。A賞作家としての肩書は作家としての箔をつけ、ある意味それは一つのブランドとも言え

通信制大学で小説を書くということ

きのうは通っている通信制大学の卒業研究(小説)の、さいごの口頭諮問だった。 2年間かけて、文芸コースの先生方に見守られながら、同じ小説を書いてきた。でもずっと書いているわけじゃなくて、ふつうに日々を過ごしながら、仕事をしたり、ほかの勉強もしたりしながらときどきその小説の世界に行って、出たり入ったりしながら書いてきた。 わたしはじぶんのドレスの仕事のことをベースに小説を書いていて、わりと最初から書きたいことがハッキリと決まっていた。テーマも。 でもじぶんでテーマを掲げてお

【掌編小説】サクラサク

 人生の分かれ道に差しかかった時、どの道を選ぶのかということはとても重要だ。もし違う道を選んでいたら今どうしているんだろうかなんて、誰でも一度は考えた事があると思う。  高校三年生の冬。それは人生の大きな分かれ道となる季節。もし僕があのとき、たまたまいつもと違う角を曲がっていなかったら、きっとこの出会いはなかったのだろう。  最初は気のせいかと思った。それでも気になった僕は、自転車を道端に停めて耳をすませてみる。キャン、と小さな鳴き声が聞こえた。   やっぱり気のせいじ

くちびるの誘惑 1.2.3話

 1  カクテルグラスの泡が弾けて虚飾の祝賀会が始まった。ここに集まる人々は各界を代表する著名人、権力者、大手企業の役員達が主である。  新人作家の登竜門であるA賞が発表されるや否や、各メディアでその詳細が一部始終紹介され、いっときその受賞者は時代の寵児となる。それほどA賞の歴史と格式は高く偉大なものである。これまでに多くの作家を輩出し、現代の文学者達の多くが歴代の受賞者としてそこに名を連ねる。A賞作家としての肩書は作家としての箔をつけ、ある意味それは一つのブランドとも言え

創作うちのこがクリエイターさんを紹介します ⑨

みなさん、こんにちは。禧螺です。 今日もnoteをご覧いただき、ありがとうございます。 自分のこころとたましいの保管方法が、レベルアップしたことで、現在どんな形であっても、創作したい気持ちが溢れ出てきていてとても嬉しいです。 ここで安心して止まるのではなく、少しずつでも、さらなる理想の状態を目指して進みます。 本日は、新年明けて最初の 【創作うちのこ、イサベルとユウリによる、Twitterでのクリエイターさんの紹介】 です。 彼女たちが、絵や文章の分野だけの存在

愛について

愛がほしい、と望むときは 愛するものを数えてみる 青い空を愛していないか 清らかな泉を愛していないか みずみずしい木々の緑を 花の香りを 小鳥たちの歌を愛していないか 星の光を 夜のしじまを 遠い昔に出逢ったあの人を 草や葉がかすかに触れ合う音を やわらかな猫の毛並みとぬくもりを わたしは愛する、愛している たくさんの愛しいものへ 愛はわたしの中からあふれてくる 愛がほしいなんて、思うことないんだ 愛はわたしの内にあるんだから こんなにもいきいきと だけどそれでも 愛がほ