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自作小説

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詩ほど短くもなく、歌詞ほど曲は似合わず。 短編と呼べるほど長くもない、そんな物語たち。
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#新作

『新しい日々』#冒頭3行選手権

平穏な生活、ずっと続くと思っていた二人の日常。
2020年4月16日、全国での緊急事態宣言。
彼女は言う「もう元には戻れない。世界も、二人も」

素敵なハッシュタグを見つけたので便乗させてください。
〝冒頭〟というよりむしろ〝あらすじ〟なのはご愛嬌。

続きは絶賛執筆中。
おおよそまとまったら載せ始めます。
(タイトルが変わったらご愛嬌。)

もし気になったら、他のもぜひ見ていってください。
つい

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『無色のしあわせ』⑳/⑳

『無色のしあわせ』⑳/⑳

「一人一人は小さな存在だ。
俺も、アンタも、そしてコロルも。
取るに足らないちっぽけな存在だ。
しかし社会で生きている以上、誰しもが社会の歯車の一部になることを決して避けることはできない。

俺の商売はお客がいないと成り立たないが、
コロルの役割には、他人の存在は必要ない。
善意の死んだこの街では、むしろコロルの役割に他人の存在は不要だ。
人との関わりによって生まれる複雑な感情は、コロルにとって日

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『無色のしあわせ』⑲/⑳

『無色のしあわせ』⑲/⑳

「この街はな、いつの間にか〝そうであること〟には価値を見出せなくなってしまった。
もはや個人の問題じゃない。
この街を包む雰囲気すべての問題だ。

一人一人は、ふっと湧いて次の瞬間には消えてしまうほどのごく僅かな、
陳腐な欲を満たすために投資することを好む。
そうしないと幸せを得られないと考えているからだ。
一人一人のそうしたどうでもいい欲と、それを満たそうとする振る舞いがこの街を堕落させている。

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『無色のしあわせ』⑱/⑳

『無色のしあわせ』⑱/⑳

「前も言ったが、コロルの心はアンタの物じゃない。
アンタの考える幸せの在り方、感じ方が、
必ずしもそっくりそのままコロルが幸せに感じるとは限らない。
十人十色、幸せの色は人それぞれ違う。
アイツの色はモノクロ。いや、何色でもないと言った方が近いかもしれないな。

パンを食べるために働く。それがアイツのすべてだ。
それ以外に何も求めてはいない。
何も知らない、言葉もほとんど知らないが、パンをもらうた

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『無色のしあわせ』⑰/⑳

『無色のしあわせ』⑰/⑳

修道女は優しさに満ちている。
自分にできることが少ないかもしれないが、そんな中でも、まるで落ち葉の中からどんぐりを拾い集めるように、
私の拙い言葉一つひとつを、丁寧に耳を傾けて話を聞いてくれた。
そして持っている知識を総動員してアドバイスを授けてくれた。
最後は宗教の話になったが、いくら考えても答えが見つからない今は、
そうすることが一番心にすっと染み込むのかもしれない。
渇いた大地に雨が浸透する

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『無色のしあわせ』⑯/⑳

『無色のしあわせ』⑯/⑳

彼女はその日も図書館に来ていた。
コロルのことを考えるが、自分に何ができるかわからずにいた。
何か参考になる本がないか探してみるが、どういった分野にそんな答えが書いてあるのかわからない。

哲学や物理学、天文学の本も手に取ってみたが、〝貧しい少年の助け方〟はどこにも書いていなかった。
彼女は当てもなく本棚の間をゆっくりと歩いてみた。
すると前から一人の修道女が歩いてきて、彼女に気が付くと優しく微笑

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『無色のしあわせ』⑮/⑳

『無色のしあわせ』⑮/⑳

鐘を磨き始めてから何度か眠りまた起きてを繰り返した。
少しずつ鐘は本来の姿であろう輝きに近付きつつあった。
その間、少年は二人の見知らぬ人と接点を持ってしまった。
しかしまだセンセイに怒られてはいない。
むしろセンセイは部屋にもやって来ていない。
センセイにはきっと知られていないのだろう。

このまま鐘磨きの仕事を続け、完了したらまたパンをもらえる。
この仕事をやり始めてから、鐘の四分の三周ほどを

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『無色のしあわせ』⑭/⑳

『無色のしあわせ』⑭/⑳

非常にたくさんの情報が一気に押し寄せたため、体は熱くなり頭もぼーっとしていた。
部屋の窓の外に見える人通りを、彼女は見るともなく見ていた。

どの人も前か下を向き、行くべき所へ向かっている。
それぞれの行き先には待つ人や物があり、行きついた先の行き止まりには、きっと幸せがある。
だからどの人も後ろは振り返らず、脇目も振らずに前や足元を見て進み続ける。
街行く人達はそんな風に彼女の目に映る。

私は

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『無色のしあわせ』⑬/⑳

『無色のしあわせ』⑬/⑳

「やぁやぁ、そこのジェントルマン、ひとつ占って行かないかい?、っと行っちまった。
どいつもこいつもつれないねぇ。みんなシケた顔してるってのに、何かにすがりたくならないのかね。
おっと、これはこれは。上客のお出ましだ。」
占い師は手元に広げたカードを混ぜながら、こちらに向かってくる背の高い男の姿に気が付いた。
男は上下とも黒のスーツで、グレーのシックなネクタイをしていた。
頭には黒い帽子を被り、顔の

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『無色のしあわせ』⑫/⑳

『無色のしあわせ』⑫/⑳

少年は急いで部屋に戻り、毛布を頭から被ってうずくまった。
センセイ以外の人と接触した。
言葉はわからない部分も多くあったが、間違いなく会話をした。
どこかでセンセイに見られたかな、もしそうだったら、次にセンセイに会ったときに怒られる。
叩かれるかもしれない、大きな声を出すかもしれない。
センセイは怒るととても恐い。

以前に外へ出ようとしたときに外がまだ明るく、外は多勢の人が行き交っていたとき、近

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『無色のしあわせ』⑪/⑳

『無色のしあわせ』⑪/⑳

「全色盲?」と彼女は言った。声の主はあの占い師だった。
「全色盲。もうそれ以上色について教えるのはやめてあげな。
コイツの世界はすべて白黒。モノクロなんだよ。
色のことを言ったってわからないさ。」
と占い師は言った。
突然暗闇から現れた男の姿に驚いた少年は、すぐに路地から飛び出して行ってしまった。

「色がわからないの?病気?」
「生まれつきなんじゃないか?経緯はよく知らないけどな。
あーあ、せっ

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『無色のしあわせ』⑩/⑳

『無色のしあわせ』⑩/⑳

少年は身を隠すように路地に戻り、彼女も一緒に隠れた。
「センセイ、おこる」
「ごめんね、ここでなら少しお話できるかな。あなたのことを少し聞かせて。」と彼女が言うと、少年は小さく頷いた。不安そうで体は震えている。かなり怯えた様子で彼女のことを見つめていた。

「センセイって誰?学校・・・ってことはないよね。」
「センセイ、ごほうび、パン。」
「ご褒美にパンをくれるのかな。教会の鐘掃除のご褒美?
パン

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『無色のしあわせ』⑨/⑳

『無色のしあわせ』⑨/⑳

まだ太陽は見えないが空は徐々に白んできている。
あのコロルと呼ばれている少年が気になり、いつもより早く起きて図書館に向かう。
空には真っ白な月が、今夜の役目を終えて申し訳なさそうに佇んでいる。

昨日の手のケガはちゃんと手当したのだろうか。
夜や朝は何か食べているのか、ちゃんと寝て疲れは取れているのだろうか。
あの占い師はコロルが一人で生きていると言った。
両親のことも知らずに。
ボロボロの服で、

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『無色のしあわせ』⑧/⑳

『無色のしあわせ』⑧/⑳

少年は手のひらのケガには全く気が付かないまま夢中で走り続けた。

立て続けに他人と関わってしまいどうしたらいいかわからない。
センセイに知られたら絶対に怒られてしまう。
これ以上、人と関わらないように早く部屋に戻ってまた足音が少なくなるのを待とう。

部屋の前まで来て扉に手をかけたところで、手のひらにズキンと痛みが走り、ケガをしていることにようやく気が付いた。
痛みと、胸のざわめきと、センセイに怒

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