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『無色のしあわせ』⑱/⑳
「前も言ったが、コロルの心はアンタの物じゃない。
アンタの考える幸せの在り方、感じ方が、
必ずしもそっくりそのままコロルが幸せに感じるとは限らない。
十人十色、幸せの色は人それぞれ違う。
アイツの色はモノクロ。いや、何色でもないと言った方が近いかもしれないな。
パンを食べるために働く。それがアイツのすべてだ。
それ以外に何も求めてはいない。
何も知らない、言葉もほとんど知らないが、パンをもらうためには必要ないんだ。
センセイから与えられる仕事に必要なのは体力だけ。
あとは与えられた仕事をうまくこなすために、自力で少し考える力さえあれば良い。
他人の協力なんてこれっぽっちも必要ない。
アイツの生活、アイツの人生はそれですべて回っている。
これからもそうやってアイツは生きていく。
パンをもらえる幸せだけを感じながら、な。」
「私のサンドイッチも、コロルの人生には不要だった。」
「まぁ、サンドイッチの存在を知っても、知らなくても、コロルには何の影響もなかった。
アイツの色を変えるには至らなかった。」
「コロルの幸せはパンだけ。
喜びや悲しみの感情もいらない。」
彼女は抑揚もなく、質問のつもりなのに語尾も上げず
まるで自分に言い聞かせるように言った。
「いらないわけじゃないかもしれないが、それらの感情がコロルに幸せをもたらすことはない。
アイツの幸せは無色だ。何色にも簡単には染まらない。
トマトの赤でも、レタスの緑でもない。
鐘掃除の終わりを知らせる朝焼けの紫でも、
重く沈んだ曇天の鈍色でも、その雲間から覗く空色でも、
白でも黒でもない。」
「無色の幸せ。」と彼女はつぶやいた。
「あと、もう一つ教えてやろうか。」
占い師はローブを少しだけ上げた。男の眉毛がわずかに見えた。
しゃべっているうちにローブが下に降りてきて目が隠れてしまっていた。
占い師は嬉々として話を続けた。
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