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『無色のしあわせ』⑪/⑳

「全色盲?」と彼女は言った。声の主はあの占い師だった。
「全色盲。もうそれ以上色について教えるのはやめてあげな。
コイツの世界はすべて白黒。モノクロなんだよ。
色のことを言ったってわからないさ。」
と占い師は言った。
突然暗闇から現れた男の姿に驚いた少年は、すぐに路地から飛び出して行ってしまった。

「色がわからないの?病気?」
「生まれつきなんじゃないか?経緯はよく知らないけどな。
あーあ、せっかくのサンドイッチがもったいないねぇ。」

「コロル、人と関わらないで生きるように、先生という人に言われて生きているみたい。
そんな悲しいことってある?信じられないわ。」
「そういう生き方もある、ってことさ。十人十色。
いろんな色の中にモノクロもある。モノクロって色の種類か?よくわからんけどな、そういうことよ。
お嬢さんの見ている、知っている景色が、いわゆる世界のすべてではないのさ。」

「私の知らないところでこんな生き方の子がいたなんて。
あの子、幸せになってほしい。どうしたらいいんだろう。」
「出しゃばりは厳禁、って前も言ったろ。
これ以上深入りしたらお嬢さんも苦しくなるってば。ここまでにしておきなさいって。」
でも・・・と彼女は言った。
「それにアイツ、あの生活で結構幸せかもしれないよ?十人十色。
モノクロに見えるこの世界でも、アイツにとっては幸せに映ってるかもしれない。」

「幸せなわけな」途中まで言いかけたところで突然男は彼女の口を塞ぎ、
「あぁもう、うるさい。わからない人だな。
アンタにアイツの何がわかるの?
アイツの心はアイツのもの。アンタがどう感じるかは関係ないの。」
男は語気を強めて言った。声に驚いた猫が路地の奥へ走り去っていった。
そして男は彼女の口から手を離し、ローブで顔を深く覆い直した。

彼女は突然のことで何も言えず、思わず目をつぶってしまった。
そして男の手が自分の口から離れて数秒したあと、大きく息を吸い、ゆっくりと吐いてから目を開けた。
男の姿は彼女の目の前からなくなっていた。

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