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『無色のしあわせ』⑬/⑳

「やぁやぁ、そこのジェントルマン、ひとつ占って行かないかい?、っと行っちまった。
どいつもこいつもつれないねぇ。みんなシケた顔してるってのに、何かにすがりたくならないのかね。
おっと、これはこれは。上客のお出ましだ。」
占い師は手元に広げたカードを混ぜながら、こちらに向かってくる背の高い男の姿に気が付いた。
男は上下とも黒のスーツで、グレーのシックなネクタイをしていた。
頭には黒い帽子を被り、顔の様子は窺えない。
歩く姿勢や姿はしなやかで無駄な動きはどこにもない。

男は占い師にゆっくりと近づき、あいさつも何もなく「あの娘はなんだ。」と言った。
静かで落ち着きのあるしゃべり方だが幾分高圧的で、緊張感を相手に与えるには充分だった。
声を発するだけで、周囲の空気の温度が少し下がる気がする。

「なんてことない、ただのイモ売りの少女さ。」
「あの子に近づけさせるな。」
「少々キツーく言っておきましたよ。
声を荒らげるのは苦手なんですけどねぇ。
でも大丈夫、あの娘はまだまだ未熟で不安定だよ。
あれくらいの娘じゃ、コロルにはなーんの影響もないさ。」

「だと良いがな。」
「疑ってるでしょう、ダンナ。
俺を誰だと思ってるの?どんなことでもこのカードですべてお見通しの、スーパー占い師様よ?」
「ふん、ペテン師だろ。」
「失礼しちゃうねぇ。本当は信頼してくれているクセに。」
「自分でいうな。お前も俺と似たようなものだからな。信頼ではなく信用だ。」

「どっちでも良いさ。信じることは大切よ。」
占い師はおもむろに一枚カードを取り出した。
「お、今日のあなたはとてもツイてる。
このカードは・・・なんだっけな。悪魔だったかな?」
「くだらん。」男は吐き捨てるように言って、占い師が取り出したカードに目もくれずにその場を去って行った。

「意味は確か、『束縛』とか『執着』だったかな。
うん、とても合ってる。」占い師は一人で満足げに頷いた。

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