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『玉と石の神話74』 同じ頃、王達も火が放たれた事に気づいていた。 「…どちらが早い方が良い、という訳ではありませんが…」 王妃の言葉に、王はただ目を瞑った。 「琥珀…トパーズ…急いで…どうか無事に本宮へ…」 その願いが通じたのか、見事二人は敵を火で封じ込め、本宮へと飛び込んだ。

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『玉と石の神話55』 誰一人、口を挟む事はなかった。 「皆も存じておろう…我らの住むこの世界を統べる神の存在を…」 王の口から発せられる一言一句を聞き洩らすまいと耳を傾けている。 「私と妃は遥か昔、その方から世界を管理する役目を仰せつかった。地を水を治め、良き世界とするように…」

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『玉と石の神話56』 やはり、と琥珀は思った。トパーズが嗅ぎ取ったものと照らし合わせた自分の推測は間違っていなかった、と。 「我が妃は地を、私はその大半を覆う海を統べ、世界を守るよう申しつかった」 「なれば…」 誰かが小さく声を上げ、すぐに噤んだ。だが、皆言いたい事は理解出来た。

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『玉と石の神話52』 誰も言葉を発する事はなかった。 「災禍が間近に迫っている今、我らは自らが無事で在ろうなどと思うてはおりませぬ」 トパーズの言葉に、王は穏やかな目を向けた。 「ただ、知っておきたいのです」 目を瞑り、王は頷いた。 「相わかった。金剛…皆をここに集めてくれぬか」

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『玉と石の神話48』 金剛からの指示は、『敵を壊滅させる必要はない』だった。 「とにかく、来たるべき時まで足止めして欲しいのだそうだ」 「期間は?」 「約半月。我らは10日食い止め、誘い込みながら城に戻るぞ」 「わかった」 自信に満ちた返事に、琥珀の口元にも微かな笑みが浮かんだ。

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『玉と石の神話47』 「災禍が起きれば、無事に済むものは少なかろう」 琥珀の言葉を、トパーズはただ黙って聞いていた。だが、その黄玉の瞳には運命と受け入れる意思が浮かんでいる。 「我らも、免れまい」 「そなたのゆく場所ならどこでも構わぬ」 それだけ言うと、トパーズは馬の脚を速めた。

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『玉と石の神話57』 「…なれど、私でも災禍の回避は叶わぬ。それはこの世界の意思、だからだ。数百、数千年の周期で必ずや訪れる」 王は自ら答えた。 「私に出来る事などたかが知れている。悪あがきと言っても良い。だが、黙って待つなど…我らが大切に生み出して来た者達を見殺しになど出来ぬ」

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『玉と石の神話69』 本宮の入口に残った琥珀達は、敵より災禍の訪れが早ければ扉の封印し、そのまま撤退する手筈となっていた。 そうなれば敵は瓦解した離宮と共に海に飲まれ、災禍が遅ければ、トパーズが─Tapas─火─を放つ。 トパーズのその能力を、琥珀だけが自在に加減出来るのだった。

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『玉と石の神話73』 「…!」 金剛は、トパーズが火を立てた事に気づいた。 (やはり敵の方が早かったか…) だが、二人への信頼が揺らぐはずもない。必ず、時が来るまで食い止めてくれると。 「お前たちは、最強の組み合わせだ」 共に生きて来た二人への、それは金剛なりの労いの言葉だった。

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『玉と石の神話80』 水の気配を感じ、金剛は御子達の揺り籠を開けた。 王妃に託されたものを御子達に抱えさせると、再度上部を閉じ、少々の事では開かぬようにする。 「再びお目通り叶うは、完全なお姿にてお目覚めになられた後でございましょう」 やがて、隙間から静かに海水が流れ込んで来た。

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『玉と石の神話79』 どれくらいの時が経ったのか。 気がつくと、いつの間にか激しい揺れは鳴りを潜めていた。影響が届かぬ所まで沈んだのだと、金剛も安堵の息を洩らす。程なく宮は底に到達し、内部に水が侵入して来るだろう。 その時こそ王の力を借り、眠るに相応しい場所を求めてゆくのである。

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『玉と石の神話41』 「南方にエスメラルダとオパール、西方に青と紅、東方には翡翠とラピスをゆかせれば良い」 その提案自体は、金剛ですら反論の余地がない程完璧な布陣だった。だが、ほんの刹那、金剛は躊躇った。 「お前が躊躇して何とする。皆、お前を信じ、お前の役に立つ為に集った者達ぞ」

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『玉と石の神話67』 金剛の指示により、青や紅、エスメラルダ達は民を本宮の奥へと誘導し始めた。 「金剛…災禍が始まれば、我らには余裕などなかろう。後の事は頼む」 奥の間に向かう王と王妃に付き従った金剛は、そこで御子達の事を託されたのだった。 揺り籠の傍で、金剛は静かに時を待った。

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〘新話de神話〙異聞でも何でもないやつ11

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『玉と石の神話71』 「どうした?」 珍しくはにかんだ顔のトパーズに、琥珀が不思議そうに訊ねる。 「…驚きもする。お前から手を差し出してくれるなど初めてではないか…いや、私が金剛とやり合ったあの時以来か」 「そのように思うていたのか?なれば、私の心付は報われておらぬという事だな」

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『玉と石の神話81』 初めて拝謁した折に室内を見、ここだけが真っ先に浸水する事はわかっていた。 災禍の後、本宮は朽ちて廃墟となる事、この地の幾分かは海から出で、大地の一部に戻るだろう事も。 何より、御子達が眠るにあたり、海底でなければならないのだと言う事にも、金剛は気づいていた。

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『玉と石の神話65』 王妃はそのまま琥珀を抱きしめた。驚きに硬直する琥珀から離れてトパーズを、そして金剛を。 ─我らが愛しき子等よ─ 脳に響いた言葉は、この王妃が、神より預かったこの世界、万物の母たる大地なのだ、と物語っていた。 「…未だ不完全なる御子を、後の世にお導きください」

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『玉と石の神話50』 地を、海を侵食するように近づく敵を後目に、琥珀とトパーズは無事に城へ戻った。他の地に赴いた者達も続々と帰還した。 「感謝する。これで最小限に食い止められる」 王の労いに、琥珀は静かに礼を取った。だが、トパーズは、共に控えながらも何かを言いたげに王を見上げた。

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『玉と石の神話75』 二人が本宮の扉を閉めたとほぼ同時に、振動が地の底から突き上げた。 「…!」 息を止め、身体が強ばる一瞬、金剛は揺り籠の上部を覆い、自らの身体と繋いで括り付けた綱を握った。 小刻みに来る小さな振動は、王妃が大地を制御し、静かに動かしているのだと金剛は気づいた。

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『玉と石の神話51』 トパーズの視線に気づいた金剛が何か言おうとした時、王が手で制した。 「何かあらば申されよ」 琥珀は下を向いて口を挟まなかった。気配でそれを察し、トパーズは礼をしながら息を吸い込む。 「恐れながら、我らが正確に役目を果たせるよう、全てをお話し戴きたく存じます」

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