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“星”灯る、雨露の街

4か月前

#雨だけの街(201106)

3年前

森に広がるこの白い靄は、今の僕の頭の中のようだ。馴染んだ温もりと愛していた誰かが居たことは確かなのに、大事な部分だけ綺麗に切り抜かれていて、手を伸ばせば痛みが走る。光を当てても先は見えない闇。この靄が晴れる頃には、いつかのきみと、失くした左の聴力の理由にも辿り着けるのだろうか。

3年前

冬靄の街の守人┆約束の余韻

3年前

朝を待っていた。恐らく近辺で一番大きな樹にランタンを担ぎながら登って、靄が広がる一帯とその境界線を見つめていた。朝と夜の狭間。吐く息が白い。ポケットに入れた手紙。置き去りのやさしさは誰に預けたのか。飛び散ったのは硝子だけではなかった気がして、堪らず膝を抱き締めた。日は、昇らない。

3年前

顔も知らないきみとそれに関わる何かに縛られている。それだけはよく解った。思い出せもしない誰かの影を追うなんて我ながら馬鹿げてる。冷え切った身体は寄り添うドラム缶さえ温もりと錯覚して、水面に映る顔を歪ませる。誰なんだ、お前は。雨粒に打たれるペンダントが、痛いと泣いているようだった。

3年前

物見櫓の麓、川沿いにこじんまりとしたログハウスを建てた。短時間で酷使してしまったドローンを労りながら、固形の携帯食糧を齧る。天窓から見える空は薄暗い。明けきらない夜明けが暫く続いたかと思えば、また日が傾いてきた。即席のポタージュを胃に落として熱を抱える。今夜もまた、冷えそうだな。

3年前

朝焼けと同時に僕は必要な廃材を集めてクラフトボックスに貯めた。ボタンでドローンを操作して、作り始めたのは物見櫓。巨大樹に間借りして細身で背高い櫓を建て、吹き抜けの屋根に特大のランプ。下から照らされた葉に光が反射して煌めく。これは森の灯台。迷える誰かの道標で在りたい、祈りそのもの。

3年前

さっきまでいた右も左も雨音に包まれた街とは打って変わって、靄が覆うこの街はとても静かだ。川の近くに立てたテント。木々に囲まれ、風はない。せせらぎが微かに聞こえるだけ。今の僕と同じ、なにもない。寒さを誤魔化すように頭から毛布を被って、でも何故だか不思議と、ちっとも寂しくはないんだ。

3年前

区民番号、no.10。ルーン文字が刻まれた守護石のペンダント。ルーンはnied。ニイド、ニード、なるほどね。今の僕には、僕が足りない。キャップとフードを目深に被って歩く、雨だけの街。与えられたものを握り締めて見上げる空。雨音が歓迎のそれに聴こえるのは、きっと気のせいではない、と。

3年前

記憶の欠片が閃光のように思考を遮る。音もなく、時折稲妻に似た痛みを伴うそれに眉を顰め身を寄せたのは、ずっと雨が降る街。昨日まであった温もりの所在を思い出せないまま与えられた僕の街は、靄に覆われて不気味な、それでいて厳かな静けさに包まれた寒い黒の区画。僕は此処を「冬靄の街」とした。

3年前

小指の爪程の大きさで雫型・透明な花弁を五枚つけたこの花は、雨唄の花。気圧の変化を察知して雨が降る頃に蕾を開く。花弁に雨粒が触れると弾くような柔らかい音と淡い光を発する。旅人の足元を照らし、幸へと導く花。湿地帯に多いそれを川沿いで見掛けて、ふと足を止めた。花言葉はなんだったかな。

3年前

月露草が満月を目一杯浴びることで精製される、雫。これを小瓶に回収して湖に一晩漬けておくと、月明かりをたっぷりと吸収した雫が凝固して琥珀色の石に成る。この『月の欠片』は、熱を帯びない光源体。ランタンの中に入れることで、極夜にも似たこの街では貴重な照明になる。次の満月が待ち遠しい。

3年前

断絶的な悲鳴と怒号。手を伸ばしたきみには顔が無い。目の前が真っ白から暗転。次に瞼を開けた時、握り締めていたのは冷えた金属。赤い水溜まりが広がり、心臓が締め上げられた瞬間に目を覚ました。僕の中に残る記憶の断片。あの日から動けないまま、彷徨っているのは他でもない僕自身。雨に、隠れた。

3年前