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『玉と石の神話55』 誰一人、口を挟む事はなかった。 「皆も存じておろう…我らの住むこの世界を統べる神の存在を…」 王の口から発せられる一言一句を聞き洩らすまいと耳を傾けている。 「私と妃は遥か昔、その方から世界を管理する役目を仰せつかった。地を水を治め、良き世界とするように…」

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『玉と石の神話74』 同じ頃、王達も火が放たれた事に気づいていた。 「…どちらが早い方が良い、という訳ではありませんが…」 王妃の言葉に、王はただ目を瞑った。 「琥珀…トパーズ…急いで…どうか無事に本宮へ…」 その願いが通じたのか、見事二人は敵を火で封じ込め、本宮へと飛び込んだ。

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『玉と石の神話56』 やはり、と琥珀は思った。トパーズが嗅ぎ取ったものと照らし合わせた自分の推測は間違っていなかった、と。 「我が妃は地を、私はその大半を覆う海を統べ、世界を守るよう申しつかった」 「なれば…」 誰かが小さく声を上げ、すぐに噤んだ。だが、皆言いたい事は理解出来た。

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『玉と石の神話47』 「災禍が起きれば、無事に済むものは少なかろう」 琥珀の言葉を、トパーズはただ黙って聞いていた。だが、その黄玉の瞳には運命と受け入れる意思が浮かんでいる。 「我らも、免れまい」 「そなたのゆく場所ならどこでも構わぬ」 それだけ言うと、トパーズは馬の脚を速めた。

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『玉と石の神話57』 「…なれど、私でも災禍の回避は叶わぬ。それはこの世界の意思、だからだ。数百、数千年の周期で必ずや訪れる」 王は自ら答えた。 「私に出来る事などたかが知れている。悪あがきと言っても良い。だが、黙って待つなど…我らが大切に生み出して来た者達を見殺しになど出来ぬ」

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『玉と石の神話52』 誰も言葉を発する事はなかった。 「災禍が間近に迫っている今、我らは自らが無事で在ろうなどと思うてはおりませぬ」 トパーズの言葉に、王は穏やかな目を向けた。 「ただ、知っておきたいのです」 目を瞑り、王は頷いた。 「相わかった。金剛…皆をここに集めてくれぬか」

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『玉と石の神話48』 金剛からの指示は、『敵を壊滅させる必要はない』だった。 「とにかく、来たるべき時まで足止めして欲しいのだそうだ」 「期間は?」 「約半月。我らは10日食い止め、誘い込みながら城に戻るぞ」 「わかった」 自信に満ちた返事に、琥珀の口元にも微かな笑みが浮かんだ。

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『玉と石の神話69』 本宮の入口に残った琥珀達は、敵より災禍の訪れが早ければ扉の封印し、そのまま撤退する手筈となっていた。 そうなれば敵は瓦解した離宮と共に海に飲まれ、災禍が遅ければ、トパーズが─Tapas─火─を放つ。 トパーズのその能力を、琥珀だけが自在に加減出来るのだった。

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『玉と石の神話80』 水の気配を感じ、金剛は御子達の揺り籠を開けた。 王妃に託されたものを御子達に抱えさせると、再度上部を閉じ、少々の事では開かぬようにする。 「再びお目通り叶うは、完全なお姿にてお目覚めになられた後でございましょう」 やがて、隙間から静かに海水が流れ込んで来た。

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『玉と石の神話79』 どれくらいの時が経ったのか。 気がつくと、いつの間にか激しい揺れは鳴りを潜めていた。影響が届かぬ所まで沈んだのだと、金剛も安堵の息を洩らす。程なく宮は底に到達し、内部に水が侵入して来るだろう。 その時こそ王の力を借り、眠るに相応しい場所を求めてゆくのである。

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『玉と石の神話73』 「…!」 金剛は、トパーズが火を立てた事に気づいた。 (やはり敵の方が早かったか…) だが、二人への信頼が揺らぐはずもない。必ず、時が来るまで食い止めてくれると。 「お前たちは、最強の組み合わせだ」 共に生きて来た二人への、それは金剛なりの労いの言葉だった。

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『玉と石の神話71』 「どうした?」 珍しくはにかんだ顔のトパーズに、琥珀が不思議そうに訊ねる。 「…驚きもする。お前から手を差し出してくれるなど初めてではないか…いや、私が金剛とやり合ったあの時以来か」 「そのように思うていたのか?なれば、私の心付は報われておらぬという事だな」

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『玉と石の神話81』 初めて拝謁した折に室内を見、ここだけが真っ先に浸水する事はわかっていた。 災禍の後、本宮は朽ちて廃墟となる事、この地の幾分かは海から出で、大地の一部に戻るだろう事も。 何より、御子達が眠るにあたり、海底でなければならないのだと言う事にも、金剛は気づいていた。

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『玉と石の神話65』 王妃はそのまま琥珀を抱きしめた。驚きに硬直する琥珀から離れてトパーズを、そして金剛を。 ─我らが愛しき子等よ─ 脳に響いた言葉は、この王妃が、神より預かったこの世界、万物の母たる大地なのだ、と物語っていた。 「…未だ不完全なる御子を、後の世にお導きください」

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『玉と石の神話50』 地を、海を侵食するように近づく敵を後目に、琥珀とトパーズは無事に城へ戻った。他の地に赴いた者達も続々と帰還した。 「感謝する。これで最小限に食い止められる」 王の労いに、琥珀は静かに礼を取った。だが、トパーズは、共に控えながらも何かを言いたげに王を見上げた。

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『玉と石の神話41』 「南方にエスメラルダとオパール、西方に青と紅、東方には翡翠とラピスをゆかせれば良い」 その提案自体は、金剛ですら反論の余地がない程完璧な布陣だった。だが、ほんの刹那、金剛は躊躇った。 「お前が躊躇して何とする。皆、お前を信じ、お前の役に立つ為に集った者達ぞ」

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〘新話de神話〙異聞でも何でもないやつ11

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『玉と石の神話67』 金剛の指示により、青や紅、エスメラルダ達は民を本宮の奥へと誘導し始めた。 「金剛…災禍が始まれば、我らには余裕などなかろう。後の事は頼む」 奥の間に向かう王と王妃に付き従った金剛は、そこで御子達の事を託されたのだった。 揺り籠の傍で、金剛は静かに時を待った。

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『玉と石の神話53』 城の者を集め、王が見渡した。 「今から私が話す事は、誰にとっても良くない事だ。だが、避け得ぬ事態であると、腹を決めて欲しい」 返答代わりに金剛が跪くと、皆が一斉に倣った。 奥の幕内に微かな気配を感じた琥珀は、その様子から、聞いているのが王妃であると気づいた。

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『玉と石の神話75』 二人が本宮の扉を閉めたとほぼ同時に、振動が地の底から突き上げた。 「…!」 息を止め、身体が強ばる一瞬、金剛は揺り籠の上部を覆い、自らの身体と繋いで括り付けた綱を握った。 小刻みに来る小さな振動は、王妃が大地を制御し、静かに動かしているのだと金剛は気づいた。

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『玉と石の神話51』 トパーズの視線に気づいた金剛が何か言おうとした時、王が手で制した。 「何かあらば申されよ」 琥珀は下を向いて口を挟まなかった。気配でそれを察し、トパーズは礼をしながら息を吸い込む。 「恐れながら、我らが正確に役目を果たせるよう、全てをお話し戴きたく存じます」

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『玉と石の神話66』 王妃は睫毛を伏せた。 「あの子達は、敢えて不完全な状態で生まれて来たのでしょう。眠りから覚めた時、もう一度新たに生まれ出ずる…きっともう少し後の世に完全体で」 「我らもその時を待ちましょうぞ」 王達は金剛に従い移動した。 その場には、琥珀とトパーズが残った。

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『玉と石の神話64』 ふと王の背後を見、室内がざわめいた。先程まで幕内にいた王妃その人が、いつの間にか姿を現していたのだ。 「これは…王妃様…!」 一斉に頭を垂れる。 「そのまま…」 畏まる面々を留め、流れるように静かな歩みで琥珀の正面に立った王妃は、ゆっくり両の腕を差し伸べた。

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『玉と石の神話37』 「金剛様!金剛様!」 金剛と琥珀は顔を見合わせた。扉を開けると、数人の家臣たちが息を切らせている。中にはひどく青ざめた者もおり、尋常ならざる雰囲気が漂っていた。 「何事か?」 「王が至急お出で戴きたいと」 それ以上答えようとしない。 「わかった。すぐに参る」

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『玉と石の神話32』 「トパーズ。御子たちの部屋で何に気づいたのだ?」 用意された部屋に戻り二人きりになると、今度は琥珀がトパーズに問うた。 「気のせいなどと…私を誤魔化せると思うたか」 まいった、と言うように、トパーズはゆっくりと唇を開いた。 「王は、あの部屋と同じ匂いがした」

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『玉と石の神話54』 「これまで再三伝えて来たように、災禍は不可避である。それを踏まえた上で聞いて欲しい」 皆が神妙な面持ちで王を見つめ、小さくうなずく。 「我国でさえ、これまでのように暮らすことなど望めぬ。なれば、何故、私が多くの者をここに呼び寄せたのか不思議に思うたであろう」

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『玉と石の神話78』 宮が粉々になるのではないかと言うほど激しい揺れ。それでも王達が極めて制御しているが故、何とか中にいる者達も耐え得る程度で済んでいるのだった。 少なくとも天地が入れ替わる事はなく、皆、互いに支え、また自らを括り付けて耐えた。 その間も、宮は静かに下降していた。

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『玉と石の神話76』 本宮に大きな損傷を与えぬよう、地は少しずつ動いていた。 (少しずつ下がっている…) 揺り籠を押さえ振動に耐えながら、金剛は潮の香と波音が近づいているのを感じていた。 王達の力が及ばぬ離宮はトパーズの火に焼かれ、恐らくそのまま波に飲まれ、粉々に流されただろう。

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『玉と石の神話39』 「それで…“奴ら”はどのような陣形でどの程度まで近づいておりますか?それによって配置を決めたいと思うのですが」 その言葉で、琥珀は概ね理解した。 二人の会話が終わるまで口出しはしなかったが、一言も聞き漏らすまいと耳を傾け、事態の更なる把握に努めるのであった。

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『玉と石の神話45』 琥珀が事の次第を話すと、眉が反応したものの、トパーズはそれ以上の反論はしなかった。 「お前が決めた事なら異論はない」 ただ、あくまで素直でないトパーズの賛同の仕方に、琥珀はひとり口角を上げるのであった。 やがて準備を整えた二人は、北方に向けて早々に出立した。

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『玉と石の神話36』 「お前は言ったな。取り溢したくない気持ちをわかってくれたのは王だけだった、と」 睫毛を翳らせ、琥珀は言葉を選ぶように続けた。 「それが?」 「災禍が不可避なら、一ヶ所に集まるは却って危険。なれば、王のお考えは…」 その時けたたましく足音が響き、扉が叩かれた。

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『玉と石の神話42』 「…だが、トパーズは納得すまい」 「馬鹿を言え。お前とトパーズでは折り合いをつけること叶わなんだが、私がゆく所なら、あやつは何も言わずともついて来る。お前と一緒にするな」 あっさりと言ってのけた琥珀に、金剛は申し訳なさと共に、変わらぬ頼もしさをも感じていた。

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『玉と石の神話72』 「お前も金剛と同じでわかりにくい」 トパーズの反論に、琥珀が可笑しげに口角をゆるめた。 「…だが、理由などどうでも良い」 小さく言い、琥珀の手を取る。 「同じ処で目覚めを迎えられるか怪しいものだが、必ず見つけにゆく」 琥珀は指の力を強め、返事の代わりとした。

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『玉と石の神話83』 見上げると、波が激しく渦巻いていた。 この海底に影響が及ぶ事はなかったが、地上も大気も荒れている事は予想出来る。 無事でいられる保証などない。 それでも、約束を果たす為、自らも安息の地を求め、金剛は綱を手離した。 いつかの世での、再会を確信しながら。  終

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『玉と石の神話40』 「地形的に見ても状況的に見ても、北方が一番危険だ」 「北方…」 王の説明に金剛が低い声で呟くと、間髪入れずに琥珀が申し出た。 「なれば、北方には私とトパーズでゆこう」 その口調には少しの躊躇いもない。 「琥珀…!」 振り返った金剛に、琥珀は尚も坦々と続けた。

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『玉と石の神話35』 扉を叩く音を聞き、それだけで琥珀である事に金剛は気づいた。硬い表情で入って来た琥珀の背後を見るも、常に影のように控えているトパーズの姿はない。 「どうした?」 「金剛よ…私は、王の意図、が理解出来たように思う」 唇を引き結び、金剛は真っ直ぐに琥珀を見つめた。

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『玉と石の神話63』 「なれば、それは私が…」 言いかけた金剛を琥珀が手で制した。 「無用ぞ。第一、お前には御子達に付き従ってもらわねば困る」 冷静に指摘され、金剛が口を噤む。 「考え込む猶予はない。王…すぐ移動なされませ」 琥珀とトパーズを交互に見遣り、王は詫びるように頷いた。

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『玉と石の神話61』 静かに頷き、王は皆を見渡した。 「間もなく、時が訪れる。皆を本宮の間に移動させよ。入り切らねば廊下でも構わぬ。とにかく宮内に迎え入れるのだ。敵がやって来る前に。城壁内に全てが侵入したと同時に閉門せよ」 「なれば、我らは城に向かって来る奴らを食い止めましょう」

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『玉と石の神話58』 せめて、少しでも助かる道を模索するのが己の役目だと王は語った。 「過去の記憶から言えば、長の眠りについて待つ事になる者が多かろう。いつの日か、災禍が収まり、目覚めの時を迎えるまで。その平和な眠りの為に、どうしても必要なのが…」 「…狼藉者の一掃、なのですね」

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『玉と石の神話60』 琥珀には一つ疑問があった。 「王…何故、この地だったのです?もっと他に最適な地があると思われますが…」 その疑問は、金剛も最初に抱いたものだった。だが、王は逆に琥珀に問うた。 「災禍の間、眠りに適した場は何処と思う?」 一瞬の後、琥珀は思い至った。 「王…」

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『玉と石の神話59』 確認が如く、トパーズは口にした。 「その通りだ。如何にしても、命の生まれ出ず合間に在らざるべき存在が現れるは防げぬ。増え過ぎる事もな。故に私は災禍を利用する。それは決して、此度に限った事ではない」 災禍に乗じて呼び寄せ、全て浄化する覚悟なのだと皆が理解した。

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『玉と石の神話77』 御子達についていた金剛は、周囲の音が変わった事に気づいた。浮力が働き、だが、それに逆らうように下降している事にも。 (水の中に入ったか) だが、静かに漂っていたその時、突然激しく揺れた。傾いた室内で、天井、壁、床が軋む。 「…!」 災禍が襲って来たのだった。

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『玉と石の神話70』 「…少々、敵の方が早いようだな」 気配を感じたのか、離宮の入口の方向を見つめていた琥珀が呟いた。同じ方を見たトパーズの、オレンジを帯びた黄玉が光る。 「…では、ゆくか」 琥珀が手を差し出した。一瞬、息を飲んだトパーズが、視線を琥珀の手と顔に交互に移動させる。

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『玉と石の神話62』 トパーズが申し出た。 琥珀は黙って控えていたが、王と金剛は驚いた様子を見せた。 「…そこまでせずとも良い。城壁と本宮の門を閉鎖すれば閉じ込めたも同然…さすれば一網打尽…」 「いや…突破し、必ずや本宮に討ち入る者がおりましょう。我らはそやつらを迎え討ちまする」

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『玉と石の神話46』 必ず起こる災禍の前に、避けては通れぬ道だった。 今、この国を目指して来ている“敵”の目的は、己以外の徹底的消滅。自分達の存在意義を確立する為、より強いもの、美しいものは芽どころか種も摘むつもりだと知り、王は災禍を利用するという一か八かの賭けに出たのであった。

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『玉と石の神話49』 強靭さと言う点に於いてならば、金剛、青、紅は最強だった。時として、青と紅は金剛をさえ凌ぐ。 だが、彼らには及ばずとも、類稀なバランスの良さがトパーズにはあった。何より、その力を最大限制御する事が出来る琥珀の存在も大きい。 二人は金剛をも唸らせる働きを見せた。

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『玉と石の神話43』 「お前には、もう全てわかったのだな…琥珀…」 金剛の質問に、琥珀は答えるでなく、頷くでなく、だが返事のように静かに睫毛を翳らせた。 「無理はするなよ。必ず、皆揃って時を迎えるために」 「もちろんだ。それに、トパーズは高貴なる火…それを制御するのも私の役目ぞ」

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『玉と石の神話68』 金剛には、災禍をやり過ごすには眠りにつくしかないとわかっていた。その為に、王と王妃はこの地場を沈下させ、更に海面を上げる事で海底にしようとしているのだと。 「水底が一番安全である事は間違いない…なれば、御子達の揺り籠を、必ずや一番安全な位置に導いてみせよう」

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『玉と石の神話33』 そこに問題があるとは到底思えず、さすがの琥珀も首を傾げた。だが、トパーズの感覚の鋭さを誰よりも信頼しているのは、他ならぬ琥珀である。 「部屋に満ちていた潮の香りのせいではないのか?」 「その潮の香りだ。王は、まるで海のようだった」 琥珀の脳裏に仮説が過った。

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『玉と石の神話34』 考え込む琥珀の様子に、今度はトパーズが首を傾げた。 「何か…気になることがあるか?」 「いや…」 憶測だけで迂闊な事は言えない。 思い当たった事の裏付けを取るために、琥珀はもう一度金剛と話してみる必要性を感じた。金剛なら、『何か』を知っているはずである、と。

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