本屋のたのしみ

本屋に行くと死にかける

本屋によく行く。いわゆる趣味である。行くのが。

そのまま本を買って帰るのはまれである。その場合のたいがいは漫画で、ということは、文庫や文芸書やビジネス自己啓発本や実用書や雑誌なんかを買う頻度が低いんだけど、本屋に行くたびそれらの棚ももれなくぐーるぐーると周っている。

このご時世、買うんだったらAmazonとかでいいよべつにっていうのが半分本音である。将来を担う書店員さんの幾人かには冷やかしかよ

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書店と本屋

第1章 本屋のたのしみ (18)

 ところで、本書では主に「本屋」と書いてきたが、多くの文章では「書店」ということばが使われる。このふたつのことばのニュアンスの違いについては、鳥取に店を構える「定有堂書店」の奈良敏行氏が、雑誌の取材でお会いしたときに以下のように話してくれた。

「書店」というのは、本という商品を扱い陳列してある「空間」。広いほどいいし立地も単純明快な方がよく、サービスの質をど

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遠くの本屋を訪ねる価値

第1章 本屋のたのしみ (17)

 そう考えると、近所の本屋だけでなく、遠くの本屋にもわざわざ足を伸ばして行ってみる価値があることに気づく。

 あるときまでは、ぼくにも、本屋はどこも同じように見えた。商店街にあるような小さな本屋は、同じような文庫やコミックや単行本と、雑誌の最新号が並んでいるだけだった。ターミナル駅にある大きな本屋は、どこでも「在庫何十万冊」という売り文句を掲げて、同じような品

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その本屋らしさには人が大きく関与している

第1章 本屋のたのしみ (16)

 だから、その本屋らしさをつくっているのはほとんど、そこで働く人であるといえる。

 もちろん、棚に並ぶ本を、ひとりの人間の完璧なコントロール下に管理することは、なかなかできない。どの本が売れるかは客次第であるから、同時に客によってつくられているともいえる。店という場所には、予想外の急な出来事がたくさん起こる。本は人によって能動的に発注されるものだけではない。新

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本屋は動的平衡が保たれている

第1章 本屋のたのしみ (15)

 ところが不思議なもので、本が入れ替わっても、その本屋がその本屋であることは変わらないと感じる。

 建築や内装、什器などが変わらないという意味ではない。本はどんどん入れ替わっているはずなのに、「この本屋が好きだ」と思った店のことは、来月も再来月も、来年も再来年も好きなままであることが多い。客のほうも自然と、本は入れ替わってほしい、けれどその本屋らしさは変わらな

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本屋の棚の変化は早い

第1章 本屋のたのしみ (14)

 一方、本屋の棚に入っている本は、早いスピードで入れ替わる。毎日のように来る客がいることもあって、まさに変化する世界を可視化するように、日々の品揃えを通じて、本屋はそのかたちを変えていく。

 顕著なのは、新刊書店の平台だ。とくに雑誌や新書など刊行スピードの早い本は、編集者が「いま、出版する意味があるかどうか」を考えてつくっていることが多い。だから、新刊平台はお

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本屋の客の、個人の蔵書

第1章 本屋のたのしみ (13)

 そういうふうに本を買っていると、自分の本棚にならぶ蔵書は、関心の地図のような、頭の中の延長のようなものになっていく。

 本棚が生活空間の中にあると、背表紙や表紙が、日々の生活のなかで目に入る。かつて読んだ本であれば、そのたびに内容が頭をよぎるし、まだ読んでいない本であれば、中身を想像したり、買ったときのことを思い出したりしながら、いつか読もうという気持ちにな

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読み切れなくても買う

第1章 本屋のたのしみ (12)

 本は、読めるぶんだけ買うという人もいる。読むためのものなのだから、そちらのほうがまっとうな考え方かもしれない。読むものがなくなりそうなときに、また本屋に行って、次に読む本を買う。そういうスタイルで、たくさんの本を読み続けている人もいる。

 けれど本屋を、一番身近にある世界一周の場であり、本との一期一会の場だと考えるなら、いま読んでいる本を読み終わるまで行かな

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本は読むまで分からない

第1章 本屋のたのしみ (11)

 本を買うとき、「面白い」か「面白くない」か、「役に立つ」か「役に立たない」かが購入時点で約束されることはない。基本的に「面白そう」「役に立ちそう」という予測に基づいて買う。そして、その本が気に入ったからといって、同じものを繰り返し買うことがない。

 これは当たり前のようで特殊なことだ。食品であれば試食もできるし、車は試乗してから買えばいい。シャンプーは髪質に

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本好き、本屋好きという人たちの存在

第1章 本屋のたのしみ (10)

 本屋について、このように魅力を挙げていくときりがない。本屋という場所そのもの、それ自体がまずとにかく好きで、好きで仕方がない。その思いが高じて、ひとりの客ではいられなくなり、本屋をやっているようなものだ。

 本が好きで、本屋が好きな人が、本屋に行く。当たり前のことのようだけれど、ひとむかし前は違った。インターネット以前は、物語も知識も情報も、娯楽も学問も、必

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