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本屋は大きいほどよいか

第1章 本屋のたのしみ (8)

 そうした本屋のよろこびについて考えたとき、本屋は「大きいほどよい」のだろうか。

 一般的には「大きいほどよい」とされる。たしかに大きいほうが単純に、たくさんの本があって楽しいし、目的が決まっているときはとくに、探しているものがみつかる確率が高くなる。

 けれど一方で、小さな本屋で目的の本をみつけたときのよろこびは、相対的に大きくなる。こんな小さな本屋に、探していた本があった。まるで自分のことをよくわかってくれているような気持ちになり、うれしくなる。逆に、大きな本屋では、なんでも揃っていることを期待するぶん、目的の本がみつからないときは、途方に暮れる。こんなに大きな本屋なのに、なぜないのか。この本屋はだめだ、やはりネットで買えばよかった、と怒りさえわく。大きな本屋ではたらく人にとっては理不尽な話だが、よろこびだけを比べれば意外に、一長一短かもしれない。

 とはいえ、大きな本屋があるのは便利だ。二〇一八年現在の日本においては、都心部と、そこから少し離れた地域では、やや事情が異なる。都心部にいると、ターミナル駅の近くなどに、何十万冊、何百坪といったサイズの大きな本屋が、まだいくつもある。大きな本屋があって当然の日常に慣れているから、「大きいほどよい」と感じる機会は相対的に少ない。しかし少し離れた地域に行くと、きちんとした品揃えの大きな本屋など最初からないか、もしくは撤退している。本が買える場所はコンビニエンスストアと、なんとか生き残っているが品揃えの乏しい本屋しかない、ということも多い。本が好きで、そうしたところに暮らす人の間では、「とにかく大きな本屋がほしい」とずっと渇望されているぶん、「大きいほどよい」という感じかたが根強い。

 では目的とは違う、あたらしい興味に出会わせてくれるのは、大きな本屋か。ここは意見がわかれるところだ。たとえば五百人集まるパーティと、五人で開催する飲み会があったとして、その先も付き合うことになるような、あたらしい友達と出会える確率は、どちらが高いか。おそらくあまり変わらない。五百人の中から気の合いそうな人を選んで声をかけていくのが得意な人もいるだろうし、最初から五人しかいない飲み会でひとりひとりと話していくほうが得意な人もいるだろう。本屋も同じで、大きいほうがあたらしい興味と出会えるという人もいれば、小さいほうが出会いやすいという人もいるはずだ。それは必ずしも大きさと関係がない。

 本屋は世界一周旅行のようだと書いたけれど、その世界の広さもまた、必ずしも本屋の床面積の大きさに比例しない。たとえば「人文・社会」というコーナーに置いてあるのが、新興宗教の本とスピリチュアル系の本、タイトルに哲学とか思想ということばが入った入門書と、ベストセラーになった本が少しだけ、というような本屋は、残念ながら日本中にたくさんある。

 店構えがきちんとした本屋に本が分類されて並んでいると、その分類の網羅性やバランスについては、訪れるほうも無意識に信頼してしまうだろう。そこでもし、ある分野がごっそり抜けていたり、特定のものに偏っていたりすると、それは人の世界の認識を狭くさせ、ゆがませてしまう危険をはらんでいる。毎日その本屋に行く人にとって「人文・社会」とは、その大部分を新興宗教とスピリチュアルが占めるものだ、ということになりかねない。床面積がいくら大きいとしても、この本屋の世界は狭い。

 一方で床面積が小さな店であっても、なるべく広く目配せをして品揃えをして、できる限り広い世界をつくろうとすることはできる。前述の〈月→『竹取物語』→ウサギの生態〉のように、一般的な分類を飛び越えた文脈をつくることによって、自然と広い世界への入り口を開いてくれる小さな本屋もある。

 大きな本屋を隅々まで歩くのは大変だ。最終的に一冊とか、せいぜい数冊の欲しい本に出会えればよいと考えると、小さいほど全体を短時間で見て回ることができるから、同じ広さの世界を回ることができるなら、むしろ効率がよいともいえる。

 もちろん大きな本屋もいい。けれど「大きいほどよい」かというと、必ずしもそうではない。とくに、目的の本や情報がはっきりしている人がインターネットに向かいやすくなって、状況は変わってきている。

※『これからの本屋読本』(NHK出版)P26-29より転載


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ブック・コーディネーター、クリエイティブ・ディレクター。新刊書店「本屋B&B」(東京・下北沢)と出版社「NUMABOOKS」を経営しつつ、「八戸ブックセンター」「神保町ブックセンター」「BIBLIOPHILIC」などの仕事をしています。散歩社取締役、バリューブックス社外取締役も。
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