クズエモ

袋小路の恋|7【小説】



 光が届かない海の底は、どのくらい暗いだろう。
 何を頼りに泳いで、何を頼りに息をするのか。
 塗りつぶされた世界にも、掬い取れる余白はあるのか。
 沈んでく。一緒ならばこのままで構わない。
 唇を合わせたときだけ、息ができる。
 どうせ見えないのなら、眼は閉じたままで。

 日が暮れた外の世界から、さらに深い闇が満ちた部屋に入ると、ダイスケはすぐにサエを抱いた。言葉なんかなくてもいいと思っ

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待ち人は宵に来たる

半年前に付き合っていた彼女とどうなったのか、口に出して質問をする事すら面倒だった。

だから何も聞かなかったし、彼もまた、同じようなことを聞いてくることはなかった。

ぼちぼちと繰り返される、仕事の話、沈黙、たばこの匂いと汗。

羽毛布団の暖かさと体温の熱が溶けて、つま先までどろりと甘い痺れが走る。

ーー彼は突然やってきて、突然消える。

四年前からそうだった。

彼に恋心を抱いていたような気も

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ジムノペディ

こういうの、クズエモって言うのかな

換気扇にあっけなく吸い込まれた声。なんとなく言葉に出してみたかっただけ。深い意味はない。クズエモを書く君が現実でクズエモじゃないことくらいわかっている。シンクの前、計量カップでお茶を飲む私、君は振り向かない。そう言えばいつも肩を並べていたから、振り向いてもらうことなんてなかった。換気扇の下で煙を吐くスーツ姿の君をなにより守りたいと思う瞬間がほんのたまに訪れる。

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すきだよ
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袋小路の恋|6【小説】



 連絡がないのなんていつものことだ。
 目が覚めるといつも、寝ぼけた頭のまま指が勝手にスマホをいじっている。LINEが来ていないことを確認して、流れるように画面を閉じる。
 高校生の頃に付き合っていた男の子との、日に何度も送り合った他愛のないメールをサエは思い出す。懐かしいとは思うが、別に今そんなことがしたいわけじゃない。自分からの連絡は、ダイスケにはなるべくしないようにしている。でも、つい

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嘘を塗り重ねて

「いつ好きになったか覚えてない」
最初の嘘

本当はね、ちゃんと覚えてる。

そんなこと話したら笑われるかなって。こっちだけとっくに本気だなんて知ったら重たいんじゃないかなって。だから言わなかった。

友だちには戻れないし、恋人にはなれないし、セフレにすらしてもらえない。だから最後まで、愛想を尽かされるまで、ちゃんと都合よくいようって決めたの。

「あちぃ」って寝言を言いながらタオルケット

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お腹空いてない?ラーメン食べ行こ?
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色あせた写真

引き出しの中で輪ゴムでとめられた少し色あせた写真。ここにある現像された写真は少なくとも20年以上前のものだろう。

アルバムにも挟んでいない写真の束。その中には私の歴史があった。制服でピースをしているもの。研究室旅行の集合写真、かつての恋人と肩を組んでいるもの。髪型もファッションも持ち物もあのころ流行っていたものだった。その中に私ひとりが写っている写真があった。どこで撮った写真なのかわからなかった

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るみ姉作
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袋小路の恋|5【小説】



 青くてぬるい、草いきれに包まれている。顔に当てたタオル越しに強い日射しが降ってくるのがわかる。背中と首のあたりがチクチクと刺激されるのが気になって、サエは起き上がった。喉がカラカラだ。
 ダイスケの出番を観終えて、サエはステージから離れた芝生で休んでいた。ミノルがトイレに行くついでに飲み物を買いに行ってくれている。炎天下で人波にもまれながらライブを観た高揚感と、ステージ上のダイスケを追いか

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カフェオレとわたし

あまり幸せな恋愛というものをしてこなかった。

手を繋ぐより体を重ねる方が簡単なことに気がついた頃には、温かな光よりだいぶ、離れたところにたどり着いてしまっていた。

ずっと、疑問に思っていた。

あの温かさのなかで生きている人たちは、その光の柔らかさに飽きてしまうことはないのだろうか、と。

全てを包み込む太陽より、真っ暗闇の中の一筋の月光のほうが、わたしには魅力的だった。

それでも、そんなわ

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袋小路の恋|2【小説】



 土曜の朝の駅前は人がまばらだ。昨日までの一週間を労わるように、一日の始まりを誰かが遅らせているみたい。サエはパンプスが濡れないように水たまりを避けながら歩いた。朝の陽射しで水面が光る。雨。サエは昨夜のことを思う。サエとこの街の夜と雨はいつも一緒だ。雨が降る日は、よく、ダイスケから連絡があるから。手にした缶コーヒーの残りをひとくち飲んで、慣れない苦みに少し眉を寄せる。駅に着く前の交差点でダイ

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思い出の内側で

「安い飲み屋でしか生まれない思い出ってのがあんだよ」

若い笑い声が響くなか、目の前の男はそう諭してきた。私は特に返事もせず、醤油のかかりすぎたホッケをつまむ。
先程まで不機嫌な様子を出したつもりはなかった。それなのにこんなことを言うのは、やはり後ろめたさがあるのだろう。

和樹とは付き合ってもう3年になる。アパートの内見案内をしている途中、突然「ここに君と住みたい」と告白されて、私は面食らってし

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じゅてぇ〜む( ♥︎˙³˙)( ˙³˙)( ˙³˙♥︎)
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