高嶋イチコ

2018/11/27から1年の毎日更新を終え、現在は不定期更新。エッセイと小説を書いて…

高嶋イチコ

2018/11/27から1年の毎日更新を終え、現在は不定期更新。エッセイと小説を書いてます。 「鬼の棲む場所」で高知県文芸賞を受賞→http://www.kochi-art.com/pdf/prize-46.pdf ※こちらは本名で受賞しております…

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  • ◇高嶋イチコ自選集◇

    自己紹介がわりに、これまでの投稿で特にお気にいりの物を集めました!

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摘花の恋【てきかのこい/掌編小説】

手持ちの服をすべて試してやっと選んだすみれ色のワンピースも、二日分のバイト代をつぎ込んで買った桜色の下着もぜんぶ剥ぎ取ってから、佐伯さんは私に「可愛い」と囁く。 佐伯さんの手で投げ捨てられた私の服が、ホテルの床に散らばる。力なく人型を保つそれは、さっきまで嬉々として身支度をしていた自分の亡骸みたいだ。 私は今週もこの男に会えたことが、嬉しくて虚しい。 肌色一色になった私の体に、佐伯さんの薄い唇がおりてくる。長くしなかやかな手足が、私の体を弄ぶ。 「窓のない部屋なんて、息

    • 七色に染まる夜凪をわたる #リライト金曜トワイライト

      はじまった瞬間、気づけば目を凝らして終わりの予兆を探している。 子猫を拾えばちいさな命が絶える瞬間を想って涙を流し、満開の桜よりも足元に散った花びらに目を奪われ、いま手元にある若さよりも、ひとつまたひとつと増えていく自分の年齢に怯えている。 結局、私は臆病で卑怯なのだ。他者に自分の心を傷つけられるくらいなら、先回りしてこの手でなにもかもぶち壊してしまいたい。 だから二十八歳になったあの日。 東京湾の水面に咲いては沈む花火の陰影を見つめていた彼が顔を上げ、目があった瞬間。

      • 夜に埋める【掌編小説】

        「元気ですか」 適当に打った一文は宛先不明で戻ってきたから、わたしは安心して、この宛てどころのないメールを書くことができます。 君のことをひさしぶりに思い出したのは、KさんがSNSで君の投稿をシェアしていたから。 「ミルク、愛してたよ。ありがとう。さようなら」 ドライな君には似合わない、甘く感傷的な言葉。 君が作業場で飼っていた白猫は、もうあの場所にいないのか。 猫の体からは陽だまりの匂いがすることを、わたしにはじめて教えてくれた可愛いこ。ベッドに寝転ぶ二人の間にあの

        • さっちゃんは行方不明【掌編小説】

          「ねぇ、携帯。一晩中なってたじゃん。旦那さんでしょ。大丈夫なの」 男は、冷蔵庫から取りだしたボトル入りの水に口をつけ、私のスマホに目をやった。昨夜ソファに置いたはずのそれは振動で転げ落ちたのか、今はフローリングのうえでブブブと耳障りな音をたてて震えている。 「いいよ。心配させとけばいい」そう答えると、ベッドに戻ってきた男が「お前 全然変わんないね」と、哀れむような視線を私に向けた。 四年ぶりに訪れた、ワンルームのアパート。一緒に暮らしていた頃から使っていたベッドには、見慣

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        摘花の恋【てきかのこい/掌編小説】

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        • ◇高嶋イチコ自選集◇
          18本

        記事

          こんな世界のまん中で、僕ら2人ぼっちだったね。

          2005年8月20日。 数ヶ月前からチケットを買って準備を整えていたライジングサンロックフェスティバルの当日、私は大寝坊をした。 はじめての恋人。はじめてのキス。はじめて男の人の部屋で目覚める朝。 それらが一度にやってきて、私はとても混乱していた。 *** 四畳半の部屋にぎっしりと詰めこまれたCDやレコードに、楽器。料金の滞納でガスは使えない。床に散らばった煙草の灰と、ウイスキーの瓶。毛羽立ったタオルケットにくるまって、隣で眠る男の顔を見ていたら涙がこぼれた。 「この人

          こんな世界のまん中で、僕ら2人ぼっちだったね。

          ちょっと他に書きたい物があって、数日投稿が飛び飛びになるかもしれませんが、猫は元気です!!

          ちょっと他に書きたい物があって、数日投稿が飛び飛びになるかもしれませんが、猫は元気です!!

          オレンジ毛玉はシャンプーの香り【ノラ猫日記/3日目】

          <保護三日目> 目覚めると、子猫が私の顔を覗きこんでぴゃあぴゃあと鳴いていた。昨日まで母猫を探していたのと同じ声で、もう人間を呼んでいる。 あまりにも健やかな「忘れる力」に、嬉しさと寂しさが混ざる。 この子の飼い主になるべき人を、見つけだせたなら。きっと同じ健やかさで、私や夫のこともすぐに忘れてしまうだろう。 ゆっくりと、体を起こす。 生後数ヶ月の猫は、床寝が堪える生後三十三年の人間の体の痛みなんてお構いなしに、「腹が空いた」と主張する。 * 明日から夫も私も仕事なの

          オレンジ毛玉はシャンプーの香り【ノラ猫日記/3日目】

          子猫のお腹は、幸せの温度【ノラ猫日記/2日目】

          <保護2日目> 二時間ほど、眠りに落ちていた。時刻は朝の七時。にゃあにゃあという声に起こされ体を起こすと、全身がバリバリと悲鳴をあげる。 あたり前だ。三十過ぎの体に、狭い玄関での床寝はキツい。 九時の開院にあわせて、家から一番近い獣医へ向かった。 獣医といえば、週末になると人と動物であふれかえるイメージだったけれど、医院の扉を開けると他に誰も客はおらず、初老の医師もすこし驚いたような顔をしている。 大丈夫だろうか。 見るからに古い設備に、すこし不安になる。私の不安が伝わっ

          子猫のお腹は、幸せの温度【ノラ猫日記/2日目】

          冷たい夜に、動物たちは騒ぎだす【ノラ猫日記1日目】

          <保護1日目> 橋を渡り、レンタルビデオ屋に向かって歩いていた。 前日の大雨で増水した川は、夜の街の光を反射しながら轟々と流れていく。龍の背中のような大きな一筋の流れを、一人で眺めていた。 相変わらず、クソみたいな女、或いはクソみたいな扱いをうける女が出てくる小説ばかり書いている。ありふれた不幸。ありふれた孤独。 自分の過去を切り取っては何度も何度もフィクションに書き換えて。 私はいつまで、「あの頃」に執着するつもりなんだろう。この自虐に近い行為に、一体なんの意味があるんだ

          冷たい夜に、動物たちは騒ぎだす【ノラ猫日記1日目】

          それは優しい雪のように。 #Xmasアドカレnote2019(22日目)

          会社のロビーに飾られた自分の背丈ほどある観葉植物に、白い綿毛をくるくると巻きつけ、オーナメントを吊りさげた。 窓の外の街路樹は、今月になってようやく色づいた。 故郷とはまったくちがう12月の風景を、秋と呼んでいいのか、冬と呼ぶべきなのか、まだよくわからない。 「こっちのクリスマスなんて、雪もなくて味気ないでしょう?」 スノードーム型のオーナメントを揺らしながら、同僚が言った。 彼女の手のなかで、ガラスに閉じこめられたちいさな雪片が溶けることなく舞っている。 そう、きっ

          それは優しい雪のように。 #Xmasアドカレnote2019(22日目)

          【note毎日更新1年記念】自分から自分へセルフインタビュー!

          ひたすら文章を投稿して365日が経ちました。 一旦の区切りということで1年を総括したいのですが、ちょっとどこからまとめていいかわからんので、自分で自分にインタビューしてみます。 (あ、すみません。最後の最後だけど、どこまでも茶番です) ◇◇◇ ➖まずは毎日更新1年達成、おめでとうございます! 今のお気持ちを教えてください。 イチコ:いやー、疲れましたね(笑) でも、とてもいい疲れです。やりきったなって感じ。 ➖第一声が疲れたですか(笑) 途中でやめようと思ったこともあ

          【note毎日更新1年記念】自分から自分へセルフインタビュー!

          書きたかったこと、書けなかったこと。

          毎日更新364日目。 明日は1年の総括をしようと思っているので、通常の投稿は今日が一旦最後の予定(ちょっと休んで戻ってくるけど)。 なんか書き残したことあるかなぁとふり返ってみたけれど、書きたかったことは散々書き散らかしたので、特別今日にふさわしい投稿というのが思い浮かばない。 書けなかったことは、たくさんある。 自分の心にも差別があると気づいた日。流産した夜のこと。孤独に死んでいった知人のこと… まだ傷が生々しかったり、自分の現在の文章では的確な表現ができなくて、書

          書きたかったこと、書けなかったこと。

          今までのエッセイを時系列で並べてみる。

          これまで書いてきたものを時系列順に並べたら、自叙伝的なものができるのでは…と、ふと思ったので、自分の過去を書いたエッセイの中からいくつかピックアップして、年齢順に並べてみる。 もう書き尽くしたと思ったけど、こうやって俯瞰してみたらまだまだ書いてない出来事がいっぱいあるな。 あと、本当に回り道だらけ。笑 回り道の過程でいろんなタイプの傷(すり傷、刺し傷、打撲、骨折…)を負ってきて、なかには今でも跡が残ったり、気づいていないだけで化膿してしまってる傷もあるのかもしれない。

          今までのエッセイを時系列で並べてみる。

          いなくなればいいと思ったあのこは、三日後の夜に死んだ。

          「なんかさ。Mちゃんに、家に遊びにおいでって誘われたんだよね」 彼氏が口にしたのは、私と彼氏共通の、女友達の名前だった。 カッと体が熱くなった。 寂しいなら、私を呼べばいいのに。 せめて、私と彼氏と2人を誘えばいい。 なぜ彼氏だけを誘うの。 Mちゃんは、精神の病を患っている女性だった。 旦那さんは仕事が忙しく、家にあまりいない。 もともと寂しがり屋だったうえに、病気の状態が悪化していた彼女に呼ばれて、私は当時そのマンションによく遊びに行っていた。 私は18歳で、はじめ

          いなくなればいいと思ったあのこは、三日後の夜に死んだ。

          サルにもカニにもなりたくなかった話。

          お遊戯会にむけて役決めをするため、保育園の先生は黒板に可愛いサルやカニを描いた。先生はお芝居風にストーリーを教えてくれて、「みんなどれになりたいかなぁ?」と、わたしを含む子供たちにきいた。 周囲の子供たちが「はーい!」と、元気よく手をあげ続々と役が決まっていくなかで、わたしは一人泣きそうだった。 どの役もまったく好きになれなかったのだ。 ・カニの親:大切な柿は奪われるし、子供の前で暴力をふるわれて可哀想。 ・カニの子供:目の前で親がいじめられるなんて悲しい。 ・サル:いじ

          サルにもカニにもなりたくなかった話。

          とりあえず、前へ。

          年々衰える体力と共にこのまま気力まで衰えるんじゃないかと恐くなって、今月からジョギングをはじめた。 初日は4.5km。そこから徐々に距離を伸ばして今は6kmくらい走っている。 こちとら、まともに運動するのなんて10年ぶり。 走り終わる頃には心臓がドコドコ暴れまわっているし、肺も股関節も足首も、まぁ色んなところが痛い。 それでもとにかく、毎回ちょっとずつでも距離を伸ばすというのを目標に体を動かしていたら、なんとなく走るリズムやコツがわかってきた。 (…気がする。ジョガーの

          とりあえず、前へ。