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冷たい夜に、動物たちは騒ぎだす【ノラ猫日記1日目】

<保護1日目>
橋を渡り、レンタルビデオ屋に向かって歩いていた。
前日の大雨で増水した川は、夜の街の光を反射しながら轟々と流れていく。龍の背中のような大きな一筋の流れを、一人で眺めていた。

相変わらず、クソみたいな女、或いはクソみたいな扱いをうける女が出てくる小説ばかり書いている。ありふれた不幸。ありふれた孤独。
自分の過去を切り取っては何度も何度もフィクションに書き換えて。
私はいつまで、「あの頃」に執着するつもりなんだろう。この自虐に近い行為に、一体なんの意味があるんだろう。

部屋にいると堂々巡りの考えに決着がつかないから、私は一人で部屋を出たのかもしれない。

街灯に照らされた車道を、しゅるりと渡る細い影があった。
猫…ではない。もっと縦に細く長い。あれは、イタチだ。生まれてはじめて見たけど、画像で見たことのあるシルエットそのままだった。
イタチは、マンションの駐車場を抜けて消えて行った。

あとで夫に話さなきゃ。そう思える人がいるんだから、きっと今、私は幸せなんだろう。そんなことを考えながら、三本の映画を選んで店を出た。

帰り道、にゃあにゃあという鳴き声が聞こえた。
声に呼ばれて夜の民家を進むと、コインパーキングに茶トラの子猫がいる。

今度は紛れもなく、猫。
なんなんだ、動物たちよ。今夜の私に言いたいことでもあるのか。
周囲を探したけれど、母猫は見当たらない。腹を空かしているようだったので、急いで近くのコンビニで猫用のウェットフードを買って駐車場へ戻った。

コンビニから戻って来ても、子猫は鳴き続けていた。あいかわらず、母猫の姿はない。ねっとりとしたフードを指で掬って、差しだす。子猫は私の指に食らいつくようにして、餌を食べていた。

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子猫を驚かさないようにして、そっと携帯をとりだし、着信履歴のほぼ全てを埋める夫の名前を選択する。
夫が到着するまでに逃げてしまうかもしれない。そう思ったけれど、猫はずっと、私とつかず離れずの距離を保っていた。

一人で渡ってきた橋を、二人と一匹で帰る。
「さっきね、イタチを見たよ」
「嘘だ。こんなとこにイタチなんていないよ。それも猫でしょ」
「本当だよ。本当に、本当に、見たんだよ」
私はなぜかむきになって、子猫の入ったケージを抱えた夫に向きなおる。

共有できない記憶たちと、今この瞬間に見ている同じ風景。十年近く一緒にいても、私たちはひとつになれない。
だから一緒にいると楽しい。だから一緒にいると寂しい。
私たちは何度も何度もその間を行ったり来たりしながら、今日も同じ道を歩いている。

獣医で諸々の検査が終わるまでは、先住猫と離すため、ドアで仕切られた玄関にいてもらおう。夫と話してそう決めた。
助けを求める子猫の声が、狭い玄関に響く。その声は、きっともう二度と母猫には届かない。
クソみたいな女が、気まぐれに連れて帰ってきたせいで。

ごめん。ごめんね。せめて君が母猫を忘れるまで、側に居させてほしい。

玄関のタイルは、冷たい。
私はそこに身を横たえて、夜が明けるまで子猫の叫びを聞き続けていた。


そんなこんなで!! みなさま、おひさしぶりです。
突然ですが、猫を拾いました。
この子がノラ猫じゃなくなるまで(里親が見つかるのか、見つからず我家の一員になるのか…)、猫の成長記録 & 猫を飼いたい方へのアピールの意味も含め、日記をつけてみます。
相互フォロワーさん、もしくは相互フォロワーさんのお知り合いで猫を飼いたい方いらっしゃいましたら、お気軽にご連絡くださいませ〜!

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お読み頂き、ありがとうございました。 読んでくれる方がいるだけで、めっちゃ嬉しいです!