竹ノ内麻百合

私は今まで大学の研究室で医学研究者として働いてきました。専門は免疫学。留学した経験や研…

竹ノ内麻百合

私は今まで大学の研究室で医学研究者として働いてきました。専門は免疫学。留学した経験や研究者として人間として感じてきた疑問を時にまじめに、時に笑いを交えて、皆さんに伝えられたらと思っています。また、私が愛してやまない二匹のネコとの触れ合いもご披露いたします。(竹ノ内麻百合は筆名)

記事一覧

竹ノ内の楽しい免疫学入門(3)

わかりやすいプレゼン:MHC このようにして、樹状細胞は抗原を準備するわけですが、この抗原をうまく免疫系の指揮官となる細胞へ提示するために相手が見やすくなるような工…

竹ノ内麻百合
5時間前
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竹ノ内の楽しい免疫学入門(2)

地域密着型 頼れる自警隊隊長マクロファージ マクロファージはとにかく組織にとどまって貪食をつづけます。炎症性サイトカインを出すことで感染が起こっている場所がここ…

竹ノ内の楽しい免疫学入門 (1)

1.免疫系の制御 私たち哺乳類は何十万年もの長い間、ウィルスやバクテリアなどの微生物との戦いを続けてきました。私たちは時に、微生物によって絶滅させられるところま…

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まゆりとルッチとしいちゃん的日常⑨ しいちゃんとドーベルマン

医学部の6年生の時、泌尿器科の臨床実習でとても怖い患者さんの担当になったことがある。 長く透析治療を受けてきてついに腎臓がんになり、手術するために入院していらっし…

竹ノ内麻百合
4週間前

科学と哲学の狭間に④脳が決めるジェンダー・アイデンティティ

大学1年の時、「男の脳・女の脳」(川上正純著 紀伊国屋書店 第1版1982年)という本を古本屋で見つけて、自分のジェンダー・アイデンティティがいつできたかなんて、今まで…

竹ノ内麻百合
2か月前
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森のオーケストラ見参!

竹ノ内麻百合
2か月前

河童の川流れは楽しく遊んでいる様子ではありません。

竹ノ内麻百合
2か月前

科学と哲学の狭間で③わからないことがわからない

最近、ふとした拍子に神経内科の臨床実習をやっていた時、左半側空間失認症の症状の出方について、グループの中で意見が割れたことを思い出した。脳の機能喪失では失語症と…

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竹ノ内麻百合
2か月前

沈丁花の香り ③結婚について

子供の頃の私は、木登りをしたり探検ごっこをしたり、結構なお転婆だった。裏庭でどろんこ遊びをするのも好きだったけどズボラな性格だったので、使ったスコップやバケツは…

竹ノ内麻百合
3か月前
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英語が苦手な医学生、研修医のためのこれが英語で言えたらな⑥ 傾聴、共感について

今日は、学生さんが授業中に苦労して作ってくれたscriptを中心に患者さんの訴えに対する共感の表現を学んでいこうとおもいます、患者さんは昨晩から頭の締め付けられるよう…

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竹ノ内麻百合
3か月前

科学と哲学の狭間に② 科学者引退

「竹ノ内君の言うことはねえ、哲学なんだよ。僕らは科学者なんだから科学の議論をしなければいならない。科学者と哲学者の違いって何だと思う?僕は手を使うことだと思うけ…

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竹ノ内麻百合
3か月前
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まゆりとルッチとしいちゃん的日常⑧ お風呂でチュ!

しいちゃんとルチアにはそれぞれ縄張りにしている場所がある。 ルチアがうちに来てから自然に決まったようで、お台所はし いちゃん、ルチアは洗面所とお風呂場、それ以外…

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竹ノ内麻百合
3か月前

英語が苦手な医学生・研修医のための「これが英語でいえたらな」⑤ 薬の俗称と正式名称

さて、少し文法の話が続きましたので、今回は名詞のことを書きたいと思います。 私の大学では、医療面接英会話に挑戦しているのは医学部の3年生なので、英語よりも医学的な…

竹ノ内麻百合
3か月前

科学と哲学の狭間に① 学会の片隅でネコをかぶる

過日、某高校に出張講義に行く機会がありました。医療系学部を目指す高校生を相手に医学部ではどんなことを学ぶのかを、免疫学をどう説明したものかと悩みましてこんな風に…

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竹ノ内麻百合
3か月前
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まゆりとルッチとしいちゃん的日常⑦ 寒い日はみんな一緒に

犬を飼っている友人から、しいちゃんはどこで寝てるの?と聞かれたことが何度かあった。 その度に“どこだろう?”と答えに詰まってしまう。犬を飼うなら寝床をまず作って…

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竹ノ内麻百合
3か月前

まゆりとルッチとしいちゃん的日常⑥ AIにはわかるまい

かつて、 “にゃんとーく”というネコ語を翻訳するアプリが話題になった。ちょっと面白そうだなあ、と思ったけれども、人様のネコがしゃべっている様子を見ると、{パパ..ス…

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竹ノ内麻百合
3か月前
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竹ノ内の楽しい免疫学入門(3)

竹ノ内の楽しい免疫学入門(3)

わかりやすいプレゼン:MHC
このようにして、樹状細胞は抗原を準備するわけですが、この抗原をうまく免疫系の指揮官となる細胞へ提示するために相手が見やすくなるような工夫が必要です。その工夫とは「主要組織適合遺伝子複合体」(Major histocompatibility complex: MHC)といわれるお皿にのせて細胞の表面に出すことです。ちょっと細胞になったつもりで樹状細胞を表面から眺めてみて

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竹ノ内の楽しい免疫学入門(2)

竹ノ内の楽しい免疫学入門(2)

地域密着型 頼れる自警隊隊長マクロファージ
マクロファージはとにかく組織にとどまって貪食をつづけます。炎症性サイトカインを出すことで感染が起こっている場所がここだよ、と後から応援に来る細胞に分かるようにしたり、周りの細胞に警戒を促したりしています。ただ、感染の初期のころにはあくまで現場の判断の域を超えないのであまり組織だった防衛作戦は展開できません。

伝令として本部に情報を伝える樹状細胞
一方、

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竹ノ内の楽しい免疫学入門 (1)

竹ノ内の楽しい免疫学入門 (1)

1.免疫系の制御
私たち哺乳類は何十万年もの長い間、ウィルスやバクテリアなどの微生物との戦いを続けてきました。私たちは時に、微生物によって絶滅させられるところまで追い込まれたり、微生物を絶滅に追い込んだり、あるいは進化の力として利用したり、様々に関わり合いながら攻防を続けお互いの戦法を磨き上げてきたのです。免疫学はその攻防戦を、防御の側から学ぶ学問です。「攻防戦」とはなんだか物騒ですし、生体防御の

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まゆりとルッチとしいちゃん的日常⑨ しいちゃんとドーベルマン

まゆりとルッチとしいちゃん的日常⑨ しいちゃんとドーベルマン

医学部の6年生の時、泌尿器科の臨床実習でとても怖い患者さんの担当になったことがある。
長く透析治療を受けてきてついに腎臓がんになり、手術するために入院していらっしゃる方だった。
現役時代は大きな会社の重役だったそうで、病人とは言え堂々たる態度と物言いで貫禄があった。男性に多いような気がするのだが、こういう社会的な地位が高い人、あるいは非常にintelligenceが高い人の中には、病気になった弱い

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科学と哲学の狭間に④脳が決めるジェンダー・アイデンティティ

科学と哲学の狭間に④脳が決めるジェンダー・アイデンティティ

大学1年の時、「男の脳・女の脳」(川上正純著 紀伊国屋書店 第1版1982年)という本を古本屋で見つけて、自分のジェンダー・アイデンティティがいつできたかなんて、今まで考えてもみなかったということに初めて気が付いた。当たり前だと思っていることが、実は当たり前ではないというのはよくあることであるが、精巧で緻密な人体の発生過程の中でも性分化の過程というのは実はかなり複雑である。一人の人間が出来上がるま

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河童の川流れは楽しく遊んでいる様子ではありません。

科学と哲学の狭間で③わからないことがわからない

科学と哲学の狭間で③わからないことがわからない

最近、ふとした拍子に神経内科の臨床実習をやっていた時、左半側空間失認症の症状の出方について、グループの中で意見が割れたことを思い出した。脳の機能喪失では失語症というのが有名だけれど、一口に失語といってもヴァラエティに富んでいる。有名なのは、運動性失語といって話しかけられる内容はわかるけれども、自分の言いたいことが文章にならないブローカー失語と、相手から言われていることが理解できなくなるウェルニッケ

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沈丁花の香り  ③結婚について

沈丁花の香り ③結婚について

子供の頃の私は、木登りをしたり探検ごっこをしたり、結構なお転婆だった。裏庭でどろんこ遊びをするのも好きだったけどズボラな性格だったので、使ったスコップやバケツはいつもその辺に放り出したままだった。庭に放置されたブリキのバケツはそのうち風景の一部のように気にならなくなってしまうのだが、いざ片付けようとすると雨水をためたバケツは子供にはずっしりと重く、改めてそこにバケツがずっと放置されていたんだという

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英語が苦手な医学生、研修医のためのこれが英語で言えたらな⑥ 傾聴、共感について

英語が苦手な医学生、研修医のためのこれが英語で言えたらな⑥ 傾聴、共感について

今日は、学生さんが授業中に苦労して作ってくれたscriptを中心に患者さんの訴えに対する共感の表現を学んでいこうとおもいます、患者さんは昨晩から頭の締め付けられるような頭痛に苦しめられています。一緒に診断と対処法を考えながら会話をきいていきましょう。
Dr. So next, can you tell me more about your chills?When did they start?

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科学と哲学の狭間に② 科学者引退

科学と哲学の狭間に② 科学者引退

「竹ノ内君の言うことはねえ、哲学なんだよ。僕らは科学者なんだから科学の議論をしなければいならない。科学者と哲学者の違いって何だと思う?僕は手を使うことだと思うけどね」と、高校1年の時に数学の先生に言われてから、哲学者と科学者の違いって何だろうとずっと考えている。考えながら、科学者として哲学に寄って行かないように細心の注意を払いつつ、一応大学の医学研究者として生きてきてた。大した仕事ができたとも思わ

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まゆりとルッチとしいちゃん的日常⑧ お風呂でチュ!

まゆりとルッチとしいちゃん的日常⑧ お風呂でチュ!


しいちゃんとルチアにはそれぞれ縄張りにしている場所がある。
ルチアがうちに来てから自然に決まったようで、お台所はし
いちゃん、ルチアは洗面所とお風呂場、それ以外の場所は兼用ということにしているらしい。絶対不可侵という程ではないのだけれど、ルチアは台所にほとんど入ってくることはないし、しいちゃんは、ルチアが来る前はお風呂ものぞきに来たくせに、今はなんだか入りづらそうにウロウロしている。もともと対し

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英語が苦手な医学生・研修医のための「これが英語でいえたらな」⑤ 薬の俗称と正式名称

英語が苦手な医学生・研修医のための「これが英語でいえたらな」⑤ 薬の俗称と正式名称

さて、少し文法の話が続きましたので、今回は名詞のことを書きたいと思います。
私の大学では、医療面接英会話に挑戦しているのは医学部の3年生なので、英語よりも医学的な知識が足りなくて会話の内容が浅くなってしまうことの方が多いです。その中で、教員側はぜひ突っ込んで聞いてほしいのに、おざなりな質問で済まされてしまう事項の一つに、発症してから患者は何か薬を飲んだか、ということがあります。特に発熱、頭痛など感

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科学と哲学の狭間に① 学会の片隅でネコをかぶる

科学と哲学の狭間に① 学会の片隅でネコをかぶる

過日、某高校に出張講義に行く機会がありました。医療系学部を目指す高校生を相手に医学部ではどんなことを学ぶのかを、免疫学をどう説明したものかと悩みましてこんな風に話を始めました。
臨床医学というものはまず「病気」が存在してそれをどう治そうかということを考える学問である。ありもしない病気、居もしない患者を勝手に想定しその心配をするというのは臨床的にはナンセンスである。一方、基礎医学は「正常」からスター

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まゆりとルッチとしいちゃん的日常⑦ 寒い日はみんな一緒に

まゆりとルッチとしいちゃん的日常⑦ 寒い日はみんな一緒に

犬を飼っている友人から、しいちゃんはどこで寝てるの?と聞かれたことが何度かあった。
その度に“どこだろう?”と答えに詰まってしまう。犬を飼うなら寝床をまず作ってあげるけど、猫は好きな時に好きな場所で好きなだけ寝ている。どこでも寝るからあえてどこで寝なさいとは言っていない。最近は、しいちゃんは私の隣にしいちゃん用のお布団を敷いてそこで寝ていることが多いけど、いつもいるとは限らない。
それでも、しいち

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まゆりとルッチとしいちゃん的日常⑥ AIにはわかるまい

まゆりとルッチとしいちゃん的日常⑥ AIにはわかるまい

かつて、 “にゃんとーく”というネコ語を翻訳するアプリが話題になった。ちょっと面白そうだなあ、と思ったけれども、人様のネコがしゃべっている様子を見ると、{パパ..スキ}「ママ….どこ?」など訳される言葉が単純でボキャブラリーが少ないし、それぐらいは翻訳アプリを使わなくても飼い主ならわかろうというものだ。しいちゃんも「ごはん!」「おかわり!」など言葉というより単なる注意喚起として声をだすこともあるけ

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