竹ノ内麻百合

私は今まで大学の研究室で医学研究者として働いてきました。専門は免疫学。留学した経験や研…

竹ノ内麻百合

私は今まで大学の研究室で医学研究者として働いてきました。専門は免疫学。留学した経験や研究者として人間として感じてきた疑問を時にまじめに、時に笑いを交えて、皆さんに伝えられたらと思っています。また、私が愛してやまない二匹のネコとの触れ合いもご披露いたします。(竹ノ内麻百合は筆名)

最近の記事

竹ノ内の楽しい免疫学入門(12)

優れた司令官はどっしりと:自己抗体をつくらない仕組み 適当な変異によって、抗体の親和性が落ちたときにそのB細胞が前線からドロップアウトすることは説明しました。 では、適当に変異が入った抗体が自分のタンパク質に結合するようになってしまうことはないのでしょうか?もちろん、適当に変異を入れているのですから、その心配がない訳はありません。前にも触れましたが、T細胞は樹状細胞からもB細胞からも抗原提示を受けていて、一見抗体産生の邪魔をしているように見えますが、自己抗体ができない理由は実

    • 竹ノ内の楽しい免疫学入門 (11)

      命令がどんどん正確に:親和性成熟 IgMは“濡れ手で粟“、反応すべき抗原(の候補)を沢山つかんで司令本部に持ち込むのが役目だったわけですが、IgG抗体は自然免疫系の細胞に「これは異物だよ」、と教えてあげなければいけないのですから抗原に対して特異性(抗原とそれ以外のタンパクを正確に見分けられる)と親和性(特定の抗原に強く結合する)が高くなければいけません。 活性化したB細胞はAIDという酵素をつくるといいました。AIDは転写がまさに行われている一本鎖DNAに働きかけてシチジンを

      • 竹ノ内の楽しい免疫学入門(10)

        ブレない司令官と回転の速い参謀のコンビ ここまでの説明を図にすると下の図のようになります。 Tfh細胞は樹状細胞から抗原提示と補助シグナルを受け取り活性化、参謀として働くB細胞を見つけます。B細胞はBCRという別ルートで抗原をキャッチし、MHCという報告書にしてTfhに提示します。でもこの図、よく見 ると何だか二度手間ではありませんか?Tfh細胞は樹状細胞とB細胞から同じ抗原提示を受けています。B細胞がBCRで抗原を捕まえてTfh細胞の活性化もしてくれたら樹状細胞はいらない

        • 竹ノ内の楽しい免疫学入門(9)

          司令本部では敵の情報が更新されている Th17やTh1は現場大好き、その場に赴いて指揮を執る細胞ですが、司令本部にとどまって指令書を作る細胞もいます。免疫系の司令本部はリンパ節でしたね。戦場から解剖学的に最も近いリンパ節に司令本部が置かれます。例えば細菌が咽頭粘膜から侵入するような一般的な感冒では顎下リンパ節や頸部リンパ節が腫れますが、これは「その細菌に対する司令本部がここに置かれましたよ」という証拠で、細胞が活発に増殖しているため、体の外から触っても腫れていることがわかるほ

        竹ノ内の楽しい免疫学入門(12)

          竹ノ内の楽しい免疫学(8)

          反撃その2:自警団が軍隊に 病原微生物が侵入した末梢組織では、マクロファージがとどまって応戦していることは最初に説明しました。でも、マクロファージは、限られた数のレセプターしか持っていないので自分が貪食している相手が敵なのか味方なのか自信がないのです。例えていうと、町のお巡りさんは怪しい人に職務質問したり、酔っぱらいを留置したり、といった仕事をこなすには地域のことを知っていていいのですが、顔認証システムを駆使してテロを未然に防ぐ訓練は受けていない、といったところでしょうか。で

          竹ノ内の楽しい免疫学(8)

          竹ノ内の楽しい免疫学(7)

          反撃その1:いざ前線へ 活性化してclone増殖したT細胞は状況に応じてその役割をいくつか変えます。「状況」は樹状細胞や活性化した他の細胞が分泌するサイトカインという液性因子によって決まってきます。先ほど、活性化樹状細胞から抗原提示を受けるとT細胞は活性化する、といいましたが、さらにサイトカインの情報を受け取ると状況に応じたT細胞の分化が起こります。その様子を、順を追って見ていきましょう。まずは急性期、サイトカインはIL-1やIL-6などの炎症性サイトカインが多く産生されてい

          竹ノ内の楽しい免疫学(7)

          竹ノ内の楽しい免疫学入門⑥

          備えあれば患いなし:Anergy ところで、樹状細胞が補助分子を出していなかったら抗原を提示されたT細胞はどうなるのでしょうか。この場合でもMHC+抗原に反応するT細胞はいないわけではありません。でも、TLRからのシグナルがなかったというのは侵略者である確たる証拠がないということ、目の色や鼻の形が外国人っぽいだけの身内かもしれません。実際に貪食細胞は自己の細胞が死んだ場合、その死骸を食べて片付けることも仕事のうちなので、自己抗原を提示することもままあるのです。間違えて自分の組

          竹ノ内の楽しい免疫学入門⑥

          竹ノ内の楽しい免疫学入門(5)

          さあ、反撃だ!:T細胞活性化 樹状細胞が外敵の情報を持って駆け込んでくるのは免疫系の司令本部リンパ節です。樹状細胞はリンパ管を通ってリンパ節にやってきますが、リンパ管は秘密の通路で、バクテリアが血管に入りこむ菌血症、敗血症になっても、バクテリアそのものがリンパ管を通ることはふつうありません。ただし、分解された可溶性の抗原が流れてくることはあります。これらの抗原とともに樹状細胞はリンパ管から「T細胞領域」というそれぞれ固有のTCRをもった様々なT細胞がひしめいている中に入り、M

          竹ノ内の楽しい免疫学入門(5)

          竹ノ内の楽しい免疫学入門(4)

          指揮系統の要;T細胞 さて、樹状細胞が末梢から情報を運んで来ることはわかりました。前記のように樹状細胞はB7という警報を鳴らしながら「侵入者はこいつです」とMHCのお皿にのせて抗原を恭しく提示しています。誰に提示しているのでしょう?今度は抗原を提示される側、T細胞の方を見ていきましょう。 今までに登場した貪食細胞は自然免疫系の細胞ですが、T細胞は獲得免疫系の細胞です。自然免疫と獲得免疫の違いは何でしょうか。それは抗原特異的に反応するか否か=抗原特異性があるか否か、です。

          竹ノ内の楽しい免疫学入門(4)

          竹ノ内の楽しい免疫学入門(3)

          わかりやすいプレゼン:MHC このようにして、樹状細胞は抗原を準備するわけですが、この抗原をうまく免疫系の指揮官となる細胞へ提示するために相手が見やすくなるような工夫が必要です。その工夫とは「主要組織適合遺伝子複合体」(Major histocompatibility complex: MHC)といわれるお皿にのせて細胞の表面に出すことです。ちょっと細胞になったつもりで樹状細胞を表面から眺めてみて下さい。細胞の膜の表面にはレセプターや結合分子など様々なタンパク質が浮いているは

          竹ノ内の楽しい免疫学入門(3)

          竹ノ内の楽しい免疫学入門(2)

          地域密着型 頼れる自警隊隊長マクロファージ マクロファージはとにかく組織にとどまって貪食をつづけます。炎症性サイトカインを出すことで感染が起こっている場所がここだよ、と後から応援に来る細胞に分かるようにしたり、周りの細胞に警戒を促したりしています。ただ、感染の初期のころにはあくまで現場の判断の域を超えないのであまり組織だった防衛作戦は展開できません。 伝令として本部に情報を伝える樹状細胞 一方、貪食細胞の中にはその場にとどまって防御に働くのではなく、敵の情報を本部に伝える役

          竹ノ内の楽しい免疫学入門(2)

          竹ノ内の楽しい免疫学入門 (1)

          1.免疫系の制御 私たち哺乳類は何十万年もの長い間、ウィルスやバクテリアなどの微生物との戦いを続けてきました。私たちは時に、微生物によって絶滅させられるところまで追い込まれたり、微生物を絶滅に追い込んだり、あるいは進化の力として利用したり、様々に関わり合いながら攻防を続けお互いの戦法を磨き上げてきたのです。免疫学はその攻防戦を、防御の側から学ぶ学問です。「攻防戦」とはなんだか物騒ですし、生体防御の主役である白血球の働きは軍隊並かそれ以上に整然として機能的ですが、どれほど巧みな

          竹ノ内の楽しい免疫学入門 (1)

          まゆりとルッチとしいちゃん的日常⑨ しいちゃんとドーベルマン

          医学部の6年生の時、泌尿器科の臨床実習でとても怖い患者さんの担当になったことがある。 長く透析治療を受けてきてついに腎臓がんになり、手術するために入院していらっしゃる方だった。 現役時代は大きな会社の重役だったそうで、病人とは言え堂々たる態度と物言いで貫禄があった。男性に多いような気がするのだが、こういう社会的な地位が高い人、あるいは非常にintelligenceが高い人の中には、病気になった弱い自分、誰かの助けを受けなければ生きていけない自分の状態を、上手く受け入れられない

          まゆりとルッチとしいちゃん的日常⑨ しいちゃんとドーベルマン

          科学と哲学の狭間に④脳が決めるジェンダー・アイデンティティ

          大学1年の時、「男の脳・女の脳」(川上正純著 紀伊国屋書店 第1版1982年)という本を古本屋で見つけて、自分のジェンダー・アイデンティティがいつできたかなんて、今まで考えてもみなかったということに初めて気が付いた。当たり前だと思っていることが、実は当たり前ではないというのはよくあることであるが、精巧で緻密な人体の発生過程の中でも性分化の過程というのは実はかなり複雑である。一人の人間が出来上がるまでに男性になるか女性になるかのチェックポイントのようなものが何回かあるのである。

          科学と哲学の狭間に④脳が決めるジェンダー・アイデンティティ

          森のオーケストラ見参!

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          河童の川流れは楽しく遊んでいる様子ではありません。

          河童の川流れは楽しく遊んでいる様子ではありません。