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竹ノ内の楽しい免疫学入門(2)

地域密着型 頼れる自警隊隊長マクロファージ
マクロファージはとにかく組織にとどまって貪食をつづけます。炎症性サイトカインを出すことで感染が起こっている場所がここだよ、と後から応援に来る細胞に分かるようにしたり、周りの細胞に警戒を促したりしています。ただ、感染の初期のころにはあくまで現場の判断の域を超えないのであまり組織だった防衛作戦は展開できません。

伝令として本部に情報を伝える樹状細胞
一方、貪食細胞の中にはその場にとどまって防御に働くのではなく、敵の情報を本部に伝える役目の細胞がいます。樹状細胞です。樹状細胞の働きを知るには、細胞だけでなく前線と作戦本部の解剖学的な距離関係をイメージする必要があります。樹状細胞は防衛の最前線、末梢組織でそのあたりにあるものを貪食しますが、この末梢組織というところでは動脈が毛細血管になって張り巡らされており、それが再び静脈に集められています。毛細血管ではガス交換が行われると同時に血管から血漿中のタンパクや細胞がしみ出してきています。これらは血管とは別に張り巡らされたリンパ管の網へと回収されていきますが、このリンパ管こそが司令本部に続く秘密の通路なのです。
樹状細胞は普段から何かを貪食するとリンパ管を通って作戦本部であるリンパ節に「何を食べたか」報告に行っています。普段、樹状細胞が貪食しているものは寿命がつきて死んだ細胞などの特に害のないものですが、定期報告も樹状細胞の役目です。ところが、樹状細胞が発現しているToll like receptor (TLR)というからシグナルがあった場合は特別。TLRはPRRsの一種ですが、特に「敵襲」を感知するレセプターだからです。TLRは現在約10種類が知られていますが、なかでも有名なのはグラム陰性菌の細胞壁成分のリポ多糖(Lipopolysaccharide:LPS)を感知するTLR4, 寄生虫の鞭毛成分フラジェリン(Flagellin)を感知するTLR5, ウィルスの一本鎖RNAを見つけるTLR7、 ウィルスのDNAを見つけるTLR9などです。これらのTLRを刺激する分子たち(Ligandといいます)如何にも危険の香りがしませんか?人間の細胞しかないのなら、細胞壁の欠片なんか存在するはずがありません。DNAやRNAはどの細胞にも存在しますが、「一本鎖のDNA」や「二本鎖のRNA」ならどうでしょう。やはり正常な細胞には存在しない分子です。TLRからのシグナルがあると樹状細胞は自分が貪食したものは「細菌やウィルスに感染した細胞の死骸だったのでは?」と警戒して、抗原を提示するだけではなく、「これは危険な抗原かもしれないですよ」と注意を喚起するためにB7分子という補助分子を細胞表面に発現するようになります。例えば、国境付近で怪しい人を捕まえた場合、抗原はこの人物そのものに当たります。この人の顔や髪の色、体つき等全ての情報が抗原として提示されます。一方、B7分子というのは「こいつは懐にナイフを隠していました」とか「外国語で書かれた密書を持っていました」などその人物が「危険」である可能性を特に喚起するための情報と考えるとわかると思います。補助分子B7を発現している樹状細胞を活性化樹状細胞といいます。


ところで、樹状細胞をはじめとする貪食細胞は飲み込んだものをどのように提示するのでしょうか?樹状細胞が司令本部にたどり着く前に、樹状細胞の様子を見てみましょう。PRRsのなかの貪食レセプターに微生物の特定の分子が付くと細胞膜が陥没するようにしてレセプターごと微生物を取り込みます。これをエンドサイトーシスと呼びます。風呂敷で物を包むようにエンドサイトーシスで取り込まれた微生物はまだ生きた状態のはずですが、細胞の中で裏表が逆になった細胞膜に包まれた状態になっているので、微生物を食べても貪食細胞は無事なのです。貪食細胞が微生物を飲み込んだこの風呂敷包みをファゴソームと呼びますが、ファゴソームはライソソームという分解酵素の入った別の小胞と細胞質で結合しファゴライソソームをつくります。ファゴライソソームはライソソームと小胞内のpHの値が違うので、ライソソームの中の酵素が活性化されて微生物の分解が進みます。貪食細胞は分解に必要な酵素を、膜で仕切って不活性な状態で持っているので、普通は細胞の中のものが勝手に分解されることはないのです。微生物の”カラダ“はバラバラにされ、ただのタンパク質になり、さらにペプチドというアミノ酸が数個から十数個つながっただけの分子になります。このペプチドが抗原になります。ペプチドまで分解されたタンパクにはもう機能が残っていないので病原性はなくなりますが、このペプチドの中には微生物に特有の配列を残したものがあるのです。

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