竹ノ内の楽しい免疫学入門(9)
司令本部では敵の情報が更新されている
Th17やTh1は現場大好き、その場に赴いて指揮を執る細胞ですが、司令本部にとどまって指令書を作る細胞もいます。免疫系の司令本部はリンパ節でしたね。戦場から解剖学的に最も近いリンパ節に司令本部が置かれます。例えば細菌が咽頭粘膜から侵入するような一般的な感冒では顎下リンパ節や頸部リンパ節が腫れますが、これは「その細菌に対する司令本部がここに置かれましたよ」という証拠で、細胞が活発に増殖しているため、体の外から触っても腫れていることがわかるほどになるわけです。では、司令本部で増殖している細胞とは何でしょう?ここでは役割の違う二種類の獲得免疫系の細胞が関与しています。
敵の情報を提示した樹状細胞がリンパ節に駆け込んでくるところまで場面を戻しましょう。樹状細胞はリンパ管を通ってT細胞領域に入り、T細胞の間をジグザグに通り抜けながら「この抗原に合うレセプターを持ったT細胞はいませんか?」と提示して回ります。ぴったり合うレセプターを持ったT細胞は活性化して増殖を開始します。
一方、前線である粘膜などでも、やられっぱなしというわけにもいきませんので、好中球などの自然免疫の細胞ができる限りの防戦をしています。好中球の放ったエラスターゼなどの酵素は病原微生物を分解しますので、この「破片」などがリンパの流れに沿ってリンパ節に到達します。このような可溶性の抗原はT細胞領域を通り抜け「B細胞」という細胞が出しているレセプター(B細胞レセプター:BCR)にキャッチされます。BCRはアルファベットのYのような形をしていて、抗原をキャッチする可変領域(Fab)と細胞の膜に結合するための定常(Fc)域に分かれています。Fab部分のアミノ酸配列が少しずつ違っていて、TCRと同じように、抗原特異性があるのでB細胞も獲得免疫系の細胞ということになります。同じ種類のBCRを持つB細胞集団を1cloneと数えます。Fc部分はBCRを膜に繋ぎ止めたり、切り離したりするのに重要な配列になっています。細胞表面でBCRが可溶性の抗原を捕まえると、右の図のようにBCR同士が架橋されて近づき、B細胞が活性化する合図になります。レセプターが架橋されるとB細胞はBCRごと抗原を取り込み、分解してMHCにのせ、BCRで捉えた抗原を提示するようになります。
一方、樹状細胞によって活性化され、サイトカインIL-21によって分化したT細胞はTfh細胞という指揮官に分化して、末梢に出す指令書を作るため参謀になるB細胞を求めてB細胞領域へと移動していきます。T細胞とB細胞の境界には濾胞樹状細胞(FDC)という「なんちゃって樹状細胞」がいます。このFDC、形は樹状なのですが、生まれも育ちも間質細胞で造血系の細胞ではありません。もちろん貪食能も抗原提示能力もないのですが、細胞の膜の表面に可溶性の抗原を置いておくためのレセプターがあるので、同じ抗原を敵として戦おうとしているT細胞cloneとB細胞cloneの出会いの場になっているのです。抗原を細胞に取り込まないのに膜の上に置いておくことを抗原を「保持する」といい、MHCのお皿にのせて抗原を見せる「提示」とは区別されます。FDCが抗原を保持してくれるおかげで、抗原特異性を持ったB細胞だけがTとBの境界に集まることができるのです。テーブルにワインとチーズが置いてあれば、何もしなくても同じような嗜好の男女が出会って勝手に親密になるから後はお任せ、とでもFDCは思っているかのようです。
B細胞が、BCRで取り込んでMHC上に提示した抗原と、T細胞を活性化した樹状細胞の抗原が同じであるとTCRとB細胞上のMHCが結合してB細胞に新たなシグナルが入ります。いよいよ司令官Tfhと参謀B細胞による病原微生物モンタージュの作製開始です。
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