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親がいなくなった時、自分は泣けるのだろうか···⑨ ( 一人暮らし ) # 家族について語ろう


【 前回までのお話 】




せっかくの就職祝いの席が台無しになった夜。
僕は決心した。

(これ以上、この家にいるのは危険だ。このままでは両親ともに殴ってしまうかもしれない。1日でも早く家を出ていこう。そのためには引越費用だけでも2ヶ月分の給料は必要。2ヶ月だけ、何とか辛抱しよう)

「2ヶ月したら家を出ていく。親やねんから、当然、保証人にはなってもらうで」
「一人暮らしできる能力もないくせに何を偉そうなこと言っとんや」

と父親。母親もまた父に加担してくる。

「お母さんらは絶対に保証人にはならへんで。引越なんか許さへん。それより毎月いくら払うん ? 」

親は生活費の「あて」にしている僕に出ていかれるのが一番困るのだろう。

もはや取りつく島もない。保証人にならない親なんているのだろうか ? まぁいるのかもしれないが···。

歯向かう僕と父親の殴り合いが始まり、母が必死に「警察来るからやめて ! 」と泣き叫び実家に電話しようとするのを父が焦って止めに入る。
いつもの虎吉家の地獄絵図の始まりだ。

呆れて部屋に帰り睡眠を取った後、職場に行く。
慣れない仕事で疲れた後は不動産屋に行き、物件を探して回る。何せ保証人がいないものだから、許可してくれる大家さんもおらず、随分と苦戦した。

その中でも何とか決め、お金も引越費用を払えば家具家電なども何一つ買えない程度のお金がたまったタイミングで即決で契約をした。
その当時、人生で一番高かった買い物にも関わらず、今でも一番後悔のない買い物だったように今でも思う。

就職から約2ヶ月での一人暮らし。もはや家出や夜逃げと言った方が適切だったかもしれないくらい。
毎日、部屋の鍵を締め切ってスーパーで調達してきたダンボールで静かに地道に荷造りに励んだ。

「ピンポーン」と引越屋さんからインターフォンが鳴ったのは家に母しかいない日だった。
突然、引越屋さんが家に入り、僕の部屋のダンボールを次々と外に持ち出す光景に母は驚きのあまり声が出ない。

(ざまあみろ)

空っぽになった僕の部屋を見て号泣する母に新居の住所を書いた紙を丸めて投げつけた。これが僕に最後に示せるギリギリの誠意だ。

そのまま出ていこうとした時、紙で顔を抑えて嗚咽しながら母が一言声を漏らした。

「元気で···体に気をつけて過ごすんよ」
何で今そういうこと言うねん···。最後の最後になって母親らしいこと言うってずるくないか···。

新居へ向かう不動産屋さんの助手席で僕はなぜか泣いてしまった。許せないし憎いし軽蔑しているし、あんな言葉には絶対に騙されない。

でも、それならなぜ泣いているのだろうか。いくら「頭」で考えても分からない。僕が、僕自身の「心」で何かを感じている。でも今はその心の声にどんなに耳をすましても聞こえない。親という存在は煩わしい。時に切ない。そして哀しい。

何とか始まった一人暮らしはその不便さを忘れるくらい快適で楽しかった。テレビも冷蔵庫も洗濯機もベッドも照明もカーテンもない。

その話が実は半年以上前に書いたこのエッセイです。この時はあえて前向きに明るく書きました。
読んでいただけると幸いです。


はじまりはいつも雨。僕の人生そんなものだ。
それくらいがきっとちょうどいい。



              ( 続く )




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