星と鳥と風8~卒業発表会

【ジャーーーーーン】

落雷のようなTちゃんのギターが教室に鳴り響いた。
たった一音で「おぉ」と周りを惹きつけた。
その音は決してうるさいとかの類の音ではなかったただただTちゃんの溢れんばかりの才能が、たったの一音で溢れ出た。ただそれだけだった。
僕もベースとマイクがちゃんと自分に聴こえるようにボリュームを合わせた。

ドタドタドタ!
(何かが押し寄せてくる音)

さっきの一音で、気がついたら教室の周りや廊下、さらには非常階段にまで、他の生徒や先生、保護者や野次馬、さらには卒業したての一個上の先輩まで集まってきていた。

僕はやる前まで手が震えていたが、Tちゃんの一音のおかげで完全にスイッチが入っていた。

そしてTちゃんがドラムに合図を送り、僕の耳元で、小さな声で「最高なLiveをしよう」と言って始まった。

まず僕らは一曲目に The Yellow monkey の「球根」をカヴァーした。
なぜこの曲を選んだかというと、卒業前に、花が好きだった担任の先生が生徒の為にチューリップの球根を、一人一人にプレゼントしていたからだ。

「友達や家族、周りの人間や自然、そして自分自身を大事にして、この球根のように、いつか綺麗な花を咲かせて下さい」

ありきたりなようで、でも最高な先生の気持ちや言葉への僕らなりの【アンサーソング】だった。

一曲目の演奏が終わるとまず、うわーー!っと
Tちゃんのお母さんが号泣し始めた。
つられるように泣き始めたり、拍手だったり、その後にみんなの歓声が聞こえた。

Liveはこの時点で大成功だった。
それと同時に肩の荷が降りた僕は、メンバーの2人に、「じゃあ、後は楽しみますか!」と言って、次の曲が始まった。

曲が始まるタイミングもウソのようにバッチリだったね。

神懸かりなLiveはこれが最初で最後だったかもしれない。

なんというか、奇跡は起こるし、そんな時は全てが上手くいく。説明しようがないけど、そんな瞬間を感じるために今この瞬間を生きてきたんだと今だからこそ思える。

揺るぎない、誰にも奪われない僕らの
今!今!今!
今この瞬間だけに全神経を委ねていた。
子供の純粋で本気のエネルギーほど凄まじいものはこの世に他ないと思っている。

覚えているのはTちゃんが、首がもげるんじゃないか?というくらい首を縦に振っていた事と、Sのガッツポーズ、それに父の満面の笑みだった。
それだけで本当は胸がいっぱいだった。

演奏した曲 Hi standard .dear my friend 

僕らの世代なら必ず知っている、カリスマ的バンドの曲だったので、その場にいた生徒達が狂ったように踊り出していた。Tちゃんが踊ってる生徒達に、「お前らの為の歌だよ!」と笑顔で言っていたのも印象的だったし、何より小学6年生の彼はもうすでに【立派なミュージシャンだった。】

そんな友達がいて、一緒に演奏できた事を光栄におもう。

僕は英語の歌詞を覚えるのに必死で、和訳の意味を知らずに歌っていたが、分かりやすいタイトルの通り、言ってる意味はわからないが、僕なりに友達に向けて、一生懸命歌った。
周りの踊りっぷりも熱量も半端なかった。
汗で前すら見えなくなった。

もう目なんかいらねー

となって、それから数分間は自分の心で情熱を鳴らした。

以下歌詞

僕にはちょっと時間が必要だったんだ
自分らしさを取り戻すために
だらけてばかりの生活から抜け出したかった
しばらく会ってないけど
調子はどう?
それだけが氣がかりだよ
僕らはいま離れ離れだから
ごめんよ、でもこれだけは言わせてくれ
生きているってのはいい気分だよ
僕はやりたい事をやっていくよ。誰にも邪魔はさせない。
でも、もし僕が暗闇の中で道を失ったら
そのときは間違いを教えてくれるかな?
もし僕が地面の上に倒れたら
手を差し伸べてくれるかな?

空は青く
太陽は輝いている
それは誰にだって同じことなんだよ
僕たちはまた会える
だから、「さようなら」は言わないよ

僕は今ようやく文字を起こして歌っていた歌詞の意味を知ったと同時に、これは小学6年生の僕から、今の僕に向けてのメッセージでもあったんだと氣付いた。 

【あの日の僕にありがとう】だ

無駄な事や間違っている事なんて、実は何一つ起きていなかったんだね。


物語は繋がって、見えない所で見えない何かと紡ぎ合って呼吸する。
心を目にしたらたどり着けるかも、本当の自分に。本当の自分に会えたら、それはとてもラッキー
だから自分でいる事を恐れないで。
自分でいる事を忘れないで。
それが誰かの役にきっと立つ。
そしてそれが未知のトビラをヒライテイク。








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