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詩まとめ

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詩のまとめです。感情が滲み出てくるような詩を書きます。
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#文章

【詩】微熱と朝焼け

夜、三十七度五分の両手を握り合わせて、
きみのことを思い出す、
きみの、あの体温のことを思い出す、
暗い暗い瞼の裏を見つめて、
「あのときのきみの手は、冷たかったのか、熱かったのか、」
浮遊するみたいな意識と一緒に、血の流れる音がだんだんだんだん激しくなってゆくのを感じながら、
けれども、それでも、
ただただ小さくうずくまっているだけでもぼくは、ひとり、眠りにつくことができる、
毛布のなかで突然変

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【詩】冬の悠遠

指先が悴んで、体の中心から冷え切って、心までもが凍り付いてしまったみたいだと、そう錯覚するあいだ、季節だけはわたしをひとりにしないのかもしれない。「澄み渡った綺麗な夜空だね」と呟いて、本当は澄み渡ってなんかいないのかもしれないけれど、広い広い空が薄暗い雲にぜんぶ覆われているのかもしれないけれど、その冬の夜空が、ただそこにあるだけでわたしは、よかった、何も見えていなくても、何も見ようとしなくても、遠

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【詩】荒原の詩

生きてる人にしか、死ねと言うことなんてできないから、
生きてる限り、ぼくには死ねと言われるだけの価値があって、だから死なない、ぼくは優しくもないし、綺麗でもないけれど、それはきっと、どこかに一輪だけ咲き誇る花みたいだよ、
ぼくしかいない部屋でぼくは、そう叫んで、
どこの誰でもいい、誰かにそう証明して欲しかった、
優しい言葉で嫌いと言うきみが、
綺麗な言葉でぼくなんていなくてもいいと言うきみが、

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【詩】12月とヘッドフォン

交差点、
ヘッドフォンから流れる音楽が、
自分の瞳を空色に染めたくて、見上げた夜空が、 
わたしだけを、この世界から綺麗に切り取ってしまってるみたいに思えた、
12月、
あのとき思えば、制服だけがわたしを証明するものだったよ、
どこにもいかなくていいと歌う夜の音楽だけが18歳のわたしを彩っていたよ、
淡い信号機の明かりにも、立ち並ぶ誘蛾灯の光にも、通りすがる車のヘッドライトにも、
何にも染められな

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【詩】傷口の詩

嫌いなひとを思い浮かべながら、「嫌い」と呟くと、
どこか遠くにいるその人が、空を飛び越えるみたいに、本当に傷ついて、
それで、わたしも一緒に傷ついていた。
傷口は存在証明らしいです、
藻掻きながらそれでも生きるのが美しいらしいです、
だから、ありがとう。あなたが、わたしの嫌いな人でいてくれて。
あなたがわたしの嫌いな人でいる限り、わたしは、ずっと傷ついていられるよ。
きっと、あなたもわたしも、ずっ

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【詩】物語の詩

どんな顔なのかも、どこにいるのかも分からない、
この本を書いたあなたのこと、
ずっとずっと好きでいたくて、
だから、ずっと泣き顔で読んでいたかった、
あなたの本を、これ以上ないくらい、泣きながら読んでいたかった、
はずなのに、
真面目な顔をしなければいけないと思って、真面目な顔をして、
そんな風にあなたもわたしも社会を見つめ始めたころ、
物語を読み始めたころ、
きっと、子どもだったわたしたちは死ん

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【詩】彷徨の詩

夜空はまるで目を閉じているみたいで、
街全体は寝息を立てているみたいで、
午前未明、
電車もバスも動いていないから、どこにも行かないことが許されて、
死にたいと思うことも許されていた。
ずっとずっと未明、午前三時のまま死んでしまいたい、
そう思いながら、平凡な朝焼けが、カーテンの隙間から射してきて、
眠りたくない気持ちだけ、浮ついて、浮ついて、知らないうちに焼かれていった。
電車が走り始めた頃から

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【詩】藍天井

雨が降っているから星は見えなくて、
だから空がいつもより深く遠くにあるように感じて、
手を伸ばしてもなにも掴めない、
星がひとつもないから、どこにも届かないような気がしている、
けれど、そのぶんだけ、信号機の明かりや街灯の明かりが、普段より彩度を増しているような気もしている、
ビルの部屋から漏れる光が、いつもより多い気もしている、
そして、こうやって多くの物事の採算はとられてるんだろうなって思って

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【詩】礫

綺麗になりたい
姿形が整っているだとかそんなことではなくて、
宝石みたいに輝いてるだとかそんなことでもなくて、
ただただ透き通っていて、匂いもなくて、どこまでもどこまでも水平線みたいで、きみたちの世界の検索にもまったくかからない、誰もわたしを認識しようとすることなく、ただ真水みたいに、不純物の一切もなく、たんぱく質でもないなにか。
真水に比べたらみんな不純物だよ、とわたしは叫んでいる。
それは自分

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【詩】満月

布団のなかでひとり蹲って、丸くなっていることしかできない、できないけれど、そのあいだだけ、欠けることのない満月にだってなれるんだと思った、月と違ってわたし自身が光ることなんてないけれど、月だって本当は月自身が光っているわけではないから、わたしはわたし以外の誰かが、わたしを照らしてくれることをどうしようもなく望んでいて、胎児のように丸まっている、いきなりすべてが浄化されたみたいに透明感を増して、綺麗

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【詩】異星人

世界の真理を語るすべてのひとに「いや、あんた誰?」と言わずにはいられないぼくはきっと異星人、けれどもその言葉で、空気中は酸素や二酸化炭素に紛れて、たくさんのあんた誰?で溢れて返っていて、そのままみんなみんな窒息してしまえばいいと思った、教祖にでもなったつもりかよ、神様にでもなったつもりかよ、そう毒を吐いた瞬間に、きみたちが一斉に消えてしまえばいいと思った、正しさなんて所詮ただの権力だからさっさと死

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【詩】校庭

あさ、あさひがまぶしくて
ひる、こうていをはしりまわって
よる、くらいから、はやくあさになれ

朝、朝日がまぶしくて
昼、校ていを教室からながめて
夜、こわいから、うまくねむれない

朝、朝日が眩しくて
昼、校庭は何処にも見えなくて
夜、短いから、朝が死ねばいいと思った

朝、朝日が眩しくて
昼、太陽が眩しくて
夜、月が眩しかった

朝、玄関で死んで
昼、部屋で腐って
夜、月明り

【詩】ペットボトルの中では死ねない

ひとりでは生きていけないと誰かが言ったとき、生きるためには誰かと手を繋いでいなければいけないんだと思った。ペットボトルの中でひとり、ぼくは沈んでゆきたかった、放置されたティーバッグの茶渋みたいな夢を見ながら。でもぼくは確かにひとりじゃなくて、どうしようもなく広く見える世界のぜんぶが本当は壁だったらよかったのにと思いながら、きみの手を握る、きみの手を握ると、きみもぼくの手を強く握り返してきて、それで

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【詩】ユートピア

「この世界に比べたらどこだってユートピアだよ」
そんな風に言うきみが、誰にも裏切られなければいいなとぼくは思っていて、ぼくも、きみと同じように、死んだ後の世界くらいは幻想的であってほしいと思っている。まあただ、別に、きみのことが好きなわけではないけれど。きみ含めみんなみんな、ぼくは好きではないけれど。
だから、誰のことも認めなくてよくて、それぞれが許される世界が、ぼくにとってはどこまでも理想郷で、

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