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【詩】さんかく座の詩

ぼくの言葉が、ただぼくのためだけにあってほしい、 ぜんぶがぜんぶひとりよがりでも、 好きと言うことで煌めいて、 嫌いと言うことで輝いて、 ただ意味もなく、確かにそこで燃え続ける星みたいな。 けれど、そんな風に言うあなたは知らない、 その星明りが毎夜、気付かないうちに誰かを照らしていて、 切り取られた星空のなか、 今日も誰かに線で繋がれていること

    • 9 彼

      彼は作家を志していた。どこまでも、自分の人生を目一杯希釈したような、そんな薄いことしか書けなかったけれど。 万年筆のペン先でも、きみの首を掻き切れる。 そう、彼は昔、彼以外の全員がこの世界からいなくなればいいと本気で思っていたのだ。そうして自分の作品で、他人を傷つけることばかり考えていた。 けれども、彼は真面目だった。作家として大成するために、寝る間も惜しんで勉強をし、「教養」を身に付けていった。でもいつしか、他人を傷つけたいとは思わなくなった。 もちろん彼は作家にな

      • 8 初期化

        「どこまでも画一的でない様々な商品が、この世界にあらゆる形で存在していることで、一つの利器に頼らない、それぞれの用途に合わせた使用法や、役立つ局面があるのだ。」 と、僕たちを立案、設計した神はきっと言っている。 それはいいけどさ、 だったら、個性とかではなく、「誰かに認められたい」って、そう思わなければいけない設定がみんなにあるのは、何だかおかしいね。 だって、 それだと友達がいない人ばかりが、苦しいじゃないか。 ウィーン、ウィーン。 不調をきたすまでもなく、不調をきたしてい

        • 7 階

          呻き声をあげる。 人生のなにもかもが、まるで足を折られた兵士の眼前に粛々と突き付けられた階のようだ。 僕は、泣いてばかりいる。 堅牢として佇むそれが、実は数多の砂で出来ていて、いつしか、僕の涙で溶かすことが出来るという幽かな可能性に懸けて。

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        【詩】さんかく座の詩

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          6 斜陽

          革命家は革命を起こしたかった。けれども、革命の起こし方を知らなかった。 だからとある本を読んで革命家は、「恋」をしようと思った。けれどもいつしか、心から「恋」をするようになった。さながら、鳴かぬ蛍のように。さながら身を焦がすように。

          5 余生

          余生。 「まるでそうじゃない部分があったみたいな言い方をする。」 余生。 「まるでそうじゃない部分があったみたいな言い方をする。」 僕はひとりでそう呟いて、ただ目的もなく冬の公園を歩き続けていた。さながら犬のように。 逆説的に、それはきっと、満たされている人が創った言葉だ。僕はただ、日記を書こうとして、何度も挫折しているような僕のことを、無条件に面白いと言ってくれる、そんな誰かが、いつしか現れてくれるのをずっと待ち続けていたのだ。 ねえ!(まるで大人の間違いを指摘する子どもみ

          4 恋≒

          「喩えば、僕と君の心臓が切れない脈で繋がっていて、お互いなにも言わずとも、まるで共鳴するように、分かり合えたらいいのに。」 彼は、心から純粋な顔をして呟いている。 分かり合えたら? 分かり合えたら? 分かり合えたら????? 違う。彼はきっと、ただその相手が、彼そのものになればいいと思っていた。   彼は彼自身にしか恋出来ない。 彼の恋だと思っているものは、永遠に単なる近似値だった。

          3 輪廓

          誰からも愛されていないことには、疾うの昔から気が付いていた。 夜7時、ひとりで残業をしながら、仕事場の誰かが少しだけ遠くで話していることに耳を傾ける。丁度、僕のことを褒めているみたいだ。少なくともそう聞こえる。もちろん、確証は持てない、持てないけれども、褒められているかもしれないと思いながら、僕は、ずっとそれを養分として生き長らえてきた、この二十五年間。 与えられた仕事をこなし、束の間の充足を得て、ねえ、僕は(と、そう告白する友達もいないけれど。)幼い頃から、絵を描く才能がな

          2 忘れない

          遠くの席だったのによく目が合って、あの子は、僕に、他でもない僕に、笑いかけてくれた。綺麗な綺麗な笑顔で、ただそれだけで、その教室には、その世界には、僕とあの子のふたりしかいないような気がしていた。 灯りを消した子ども部屋。暗順応してきてうっすら見えてくる丸い蛍光灯。まっさらな天井。まるでパレットみたいだ。自由に、あの子との光景を描き出す。そして、あたかも羊を数えるように、ぐるぐる、あの子に伝える言葉を考えていた、あの頃。 秒針が何秒分か進んで、僕はじきに二十五になる。けれども

          1 水中花火

          その花火は、水のなかを足掻くように弾けている。 それも長らくその光は、なにかを主張するように迸っていて、なかなか消えてはいかない。そんなこともあるのだと僕は思った。 それは、炎タイプは水タイプに弱いという常識を軽く覆していた。拝啓、そのときだけ友達だった岩下くん。足首に、優しく撫でるような冷えた海水を感じながら、僕は、もう少しだけ生きてみようと思った。自分の周囲で、まだこんな珍しいことが起こっているのなら、それは僕に、まだ生きていろということだろう。そうして、僕を駆り立ててい

          【詩】十五夜の詩

          「僕には誇れるものなんてなにひとつないけれど、それでも君のことが好きだから、僕はこの命に懸けて、君を一生守っていこうと思うよ。」 そんな純粋にも見える言葉が、ただなにもないことの言い訳だと悟られずに、君から、ずっと愛されていたかったのに、そうなるには僕ら(僕らと思っているだけの僕)、ぜんぜん才能が足りないみたいだった。口下手はただの怠惰だし、誰も僕のことを分かってくれないのも、みんなと友達になる努力を怠ったから。「純粋に恋がしたかっただけなのに」という単純な言葉だって、僕には

          【詩】十五夜の詩

          【短編小説】母と逃避行

                          ※  出ていってやるという母の言葉を僕は今まで何度聞いてきただろうか。だいたい夜中十時ごろ、母の金切り声が聞こえてくる。ただ黙りこくってしかめ面をしつつも、ずっと日経新聞から目を離さずにいる父に向かって、母はいつも吐き捨てるように、その少ない語彙で罵声を浴びせていた。いつだって母はその瞬間、本気で父を陥れようとしていた。全力で父を傷つけようとしていた。そうして、なかば無理やり幼い僕の腕をつかみ、嵐のように、狭い家の廊下を走り去る。自身の存在

          【短編小説】母と逃避行

          【詩】碧虚

          綺麗かどうかを棚に上げて、 雲によってしか、そこに模様を描くことができないのなら、空もまた虚ろだ 僕と同じようにからっぽ、と言って 死骸の瞳がそうするように、青空を眺めて 空に空という名前をつけた人となら、友達にだってなれるかもしれないと思いながら 本当は、その世界で自分だけ、自分で自分を満たせるくらい、清潔になりたかった。

          【詩】堕落の詩

          他人に寄り添うことが、世界を救うのだとしたら、僕は、人類の為に、ずっとずっとひとびとに寄り添っていよう。歌手になるためではなく、ただ心の響きを見せつける為だけに、唄い続け、吹き抜ける風を感じる為だけに、並木道を練り歩く。春が渦巻くなか、思い立ったように立ち止まっては、誰かに共感するように涙を流し、そして、時間が止まらないことを知りながらも、なおのこと泣き続ける。そういう怠惰なきみたちに共鳴して、僕も等しく、怠惰でいてあげる。

          【詩】堕落の詩

          【詩】泥のように眠、れず

          頭痛。溶解しない沈殿。 もう一生分眠ってしまって、僕は、眼を瞑る口実を見つけられない。 見ないことを選べず、ただ見ることしか出来ない光景を前に、夢を、いつか見ていたことを思い出しながら、 沈殿して往かない意識を、重々しく、頭の重さそのもののようにもたげている。 泥のように眠っても、眠っているから、泥のようであること、なにも気にしなくてよかったのに、眠りにつけなければ、ただ取り残されるのだ、存在、泥のようであること、その事実だけ。 ✕✕✕✕     ✕✕   ✕ 剣を、脳に刺さ

          【詩】泥のように眠、れず

          【詩】海

          どれだけ僻んだって、きみは海。砂浜の砂を少しだけ濡らして、歪んだ月の光を、その淀んだ水面に映し出す、ただ僕に疎らな詩を想起させるだけのもの。 僕はきみのことが好きだけれど、きみを、本当の意味で好きになることなんてないのかもしれないね。みんな、生まれたときから詩人で、目の前にあるものを、象徴的にしたがっている。それはきっと僕も同じで、砂浜で微かに輝く貝殻を拾い集めるみたいに、そして、その音に神経を研ぎ澄ませるように、きみを、遠くから覗き込んでいた。 モチーフに偏重した素人作家み