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『義』のまとめ

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長編小説 『義』 をまとめております。 ・男と『義』の定義。『義』とは、正義の『義』、大義の『義』だ。限界集落育った男は、東京の大学へ進学する。東京の地下施設にて、『義』の象徴…
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『義』  -始まり-    長編小説

『義』  -始まり-    長編小説

始まり

 年代物の赤ワインが、透き通るほど磨かれたワイングラスに注がれていた。ワイングラスは高層ビルから溢れる光を受け、薄い縁が刃物のように輝く。二つのうち、片方のグラスの縁には、薄い桃色の口づけが付いていた。グラスの間に置かれたキャンドルは、親指くらいの炎を上げ、時の経過を穏やかに奏でつつ、テーブルを挟む若い男女を眺めていた。どこか、覚束ない炎だ。空調が効き過ぎているわけではなく、紺色の蝶ネク

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『義』  -幼馴染との時間の回想- 長編小説

『義』  -幼馴染との時間の回想- 長編小説

幼馴染との時間の回想

「大輔くん、大丈夫なの? バレないの?」

 貴洋は囁くような声を出し、大輔のTシャツの裾を引っ張った。

「大丈夫。貴洋くんは、本当にビビリだなあ。こんな時間に誰も来ないよ」

 大輔は淡い月の明かりを頼りに、錆び付いたフェンスを登ってゆく。フェンスを乗り越えると、ジャンプしてプールサイドに着地した。振り向くと、貴洋が俯いている。

「大丈夫だって。さあ、登ってこいよ」

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『義』  -ドライブ- 長編小説

『義』  -ドライブ- 長編小説

ドライブ

 潮騒が心地よい。身体を揺らす波も心地よい。旅愁にて蘇る、貴洋との記憶の数々も心地よい。

「貴洋くん」

 大輔は声を上げた。貴洋は、どこにいるのだろうか。

 熱された砂浜へ上がった。健斗と咲子は並んで座り、楽しげにお喋りに耽っている。声が一面に広がっていた。大輔の姿に気がついた咲子が手を振る。

「大輔くんも、こっちに来なっせ」

 大輔はブルーシートに戻り、健斗の隣に座に座った

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『義』  -大輔と幼馴染の再会。秘密基地にて- 長編小説

『義』  -大輔と幼馴染の再会。秘密基地にて- 長編小説

大輔と幼馴染の再会。秘密基地にて

 大輔は、気が付くと暗闇にて体育座りをしていた。尻に畳の感触が感じられない。自宅ではなさそうだ。土の香り、夏草の香り、木の香りが漂っている。膝を抱えていた手を離し、地面を撫でると、木の板が触れた。目を凝らして辺りを見渡すも、酔いが醒めておらず、鬱蒼と茂る木々や笹薮に焦点を合わせるが出来ない。

 突然、手の甲に何かが触れた。冷水のように冷たく、弾力がある。

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『義』  -上京し、変わった気持ち- 長編小説

『義』  -上京し、変わった気持ち- 長編小説

上京し、変わった気持ち

 実家へ帰省し、二週間ほど経った。大輔と健斗はレンタカーで海や温泉へ出掛けたり、昼間からお酒を飲み耽ったりと、悠々自適に過ごしていた。大輔は貴洋に会いたいと思ったももの、貴洋の家のチャイムを押す気になれずに、家の前を通るたびに横目で眺めた。貴洋の家は、どの日も静まり返り空き家のようだった。

 とある雨の日の午後、大輔は畳に寝転がり、数日前にコンビニで買ってきた格闘技の雑

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