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薄楽詩集

40
詩をまとめています。
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#夏

【詩】春の道化師

【詩】春の道化師

 春の道化師

知らないことを知っているといい
知っていることを知らないという
春の嘘は
だから
あけぼののパン屋のようないい匂いがする

その匂いにつられて
自由を分からないひとりの人類は
幾千万以上ものものとなってかり出され 
英霊という廃棄物となる だから
美しい嘘が産道のような地下水道を通り
今日も広場で噴きあげている

そうやって真実という嘘が嘘という真実になると
もうピエロは耐えられな

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【詩】引き潮

【詩】引き潮

 

 引き潮

過去という現在が今日も
ぼくの日暮れ待ちの海岸に
たくさんの漂流物を打ち上げる

墜落した魔女の叔母さんの形見の箒とか
三角帽子のピエロの叔父さんが忘れていったブリキの太鼓とか
少数民族の裸を撮りまくった元脱走兵の報道記者愛用のニコンのレンズとか
テロリストになったシスターが羊小屋に棄てていった真鍮の貞操帯とか
何にもおわっちゃいないのにぼくをポストモダン化しようとした
真っ赤な

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【詩】処暑の火曜日

【詩】処暑の火曜日

処暑の火曜日はとても暑くて
少年のぼくは飼い主に裏切られた猫のように
日陰を探して人通りの絶えた町をうろついていた

ぼくは大人になったいまでも
鉛筆とかアイスピックとか妻の八重歯などといった
先の尖ったものが苦手である
それは幼い頃に突然咲いた母の白い日傘が
ぼくの目をかすめたからだ

母がそれを詫びたのは 十年後
ぼくが大学に入って最初の夏の帰省の時だった

母はたぶん油断していたのだと思う

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