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薄楽詩集

40
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2024年3月の記事一覧

【詩】後朝(きぬぎぬ)のうた

【詩】後朝(きぬぎぬ)のうた

 後朝のうた

春はあけぼの山ぎわに目覚めた泡立つ光にふたりのときは美しくこわれ
薄もやのたえだえにしずかに身を横たえるせぜのあじろぎ
水おとはさやけくほそくまだ草むらに這うものの
雲はすでに峰をはなれてたなびき 人の袖の
涙もそのようにまたうつろいゆくものか
しのぶもじずりわれならなくに
また巡り逢う日をおもい
ゆっくりと剥がれた
ときの表皮を
抱くのみの
わたくし
なので

#詩 #現代

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【詩】猫の噂

【詩】猫の噂

猫の噂

   春雨のふるは涙かさくら花
             ちるを
         をしまぬ人しなければ   黒主

細い路地に入ってたぶん
ふと気を許したのかもしれない
その猫は笑ったのである
ちょうどそこに廃棄されたカーブミラーが放置されていたのが
いけなかった
どうもその猫は当局に拉致されたみたいだ

その前夜は春雨だった
ある子供が猫に踊りを教えていたという
密告もあったようだ

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【詩】春のわかれ

【詩】春のわかれ

 春のわかれ

あの日 とぼとぼと歩いた その足跡を
波がさらっていった 浜辺でもないのに 
 
 ぼくは あのとき 泣いていた
 のかも しれなかった

ただ 立ち去っていく背中だけがみえた

 あれは なんだったのか
 女といえばきこえはいいが
   
そうだ あの波は 街の白昼の断崖まで ぼくらが
わずかになった春をむしり取るように無言で働いた 
あのビルの解体現場まで たぶん 達してい

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【詩】薔薇のはなし

【詩】薔薇のはなし

 

 薔薇のはなし

ばらばらになったものをひろいあつめたってジグソーパズルのようには
つながるわけではない 夜と朝もめったにないたまたまで
つながっているようにみえてるだけだ

空き瓶に挿した薔薇がまだあるという奇蹟

曇り窓に朝のひかりがとどまり、ヘアピンが部屋の隅に咲いている
ハンガーにはワンピースが生乾きのままぶらさがり
シンクの皿に残る薄切りのレモンと青白いシーツが
昨夜の雨をよみがえ

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【詩】ミモザの頃

【詩】ミモザの頃

 

 ミモザの頃

用心しなければならない 今日が
無事なのは 川面がひかりをはじき
鳥の声がきらめいているからなのだ 
朝からのこの道には ささやかな三月の平穏がながれ 
午後のいつもの公園につづいている そこには

昨夜の褥の春雷はなく ミモザの匂いの
記憶があの噴水にたちあがる

やわらかなはるのうれい

ああ 喪われている現在 恋は
剪り時がむずかしいのだ
#詩 #現代詩 #自由詩 #

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