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異彩を、纏え。/連載エッセイ vol.131

※初出:知事認可・岩手県カイロプラクティック協同組合発行、「姿勢ッコくらぶ通信 vol.133(2022年・第6号)」掲載(原文ママ)。

先日、生まれて初めて「社交ダンスの技術発表会」なるものに参加してきた。

もちろん、私自身が踊るわけではない(残念ながら?)。
昨春より、毎月1回、健康講座を継続開催させていただいている盛岡市中心部のダンススクールからのお誘いであった。

当然ながら、その教室からは先生を始め、生徒さんも多数ご来店いただいているため、その晴れ姿を拝見したく、以前から発表会への参加を画策していた。

しかしながら、週末は講義講演活動で、ほぼスケジュールが埋まってしまうワタクシ。
なかなか調整がつかず、今回念願の「初参加」と相成ったわけである。

さて、当日を迎えるにあたって、胸中にある懸念が立ち上がった。
それは……「ドレスコード」。

自分が出場者でないとはいえ、会場は盛岡で最も格式の高いとされるホテル。
教室関係者に伺っても、「晴れの場ですからねぇ……」という方もいれば、「ジャケットさえ羽織っていればOK」という方もいて、どうにもイメージが固まらない。

局地的周囲の方々からは「オサレ番長」として名高いワタクシ。
結局、大好きなイタリーブランドのスーツとシャツとベストに、博士号を取得するまでは頻繁に往来していた韓国にてあつらえたクロコダイルの靴とベルトを合わせた出で立ちで参戦することとなった。

当日は約4時間にも及ぶ長丁場であったものの、普段接している面々の、普段とは異なる華やかな側面を拝見することができ、また同席の方々から身に余る気遣いも頂戴し、とっても楽しい時間を過ごすことができた。

心配していた服装も、煌びやかなダンス衣装を纏った紳士淑女が行き交う会場ではむしろ馴染む感じで(当社調べ)、一安心。

そんな中、面識のあるなしに関わらず、皆様から一際お褒めいただいた「オサレポイント」が、胸元に据えたお揃いの柄のネクタイとポケットチーフであった。

「ヘラルボニー(HERALBONY)」。

「異彩を、放て。」というミッションを掲げ、知的障碍のある作家(=異彩作家)のアートを、生活を彩る様々な製品として企画制作し、全国に展開している2018年設立の岩手発の企業である。

名前を聞いてピンとこない方は、最近、ビルの外壁が、カラフルな色合いの模様で彩られている光景を、街のアチコチで見かけた経験はないだろうか?
それこそ、ヘラルボニーがプロデュースする異彩アート事業の一端なのだ。

この企業は、自閉スペクトラム症の兄を持つ、双子の兄弟によって立ち上げられた。

2人がこれまで兄に寄り添い、時に距離を置いて過ごしてきた経験から、障碍を持つ方々を社会に順応させるのではなく、彼らを彼らのままでいられるよう社会の方を順応させる……そのきっかけとなる社会実験を起こす「福祉実験ユニット」としてスタート。

今ではアパレルや雑貨、インテリアから、ビルや工事現場仮囲での作品展示まで、異彩アートの魅力を様々な製品や企画に落とし込み、着実にファンを増やしつつ、異彩作家に正当な経済的還元を行い、また数々の大きな表彰も受け、社会的評価も年々拡大している。

実は大学時代に障碍をもった子どもたちと寝食を共にする学外活動に明け暮れ、中学教諭時代には特別支援学級の生徒を担任学級に率先して受け入れるなど、いわゆる「健常者」と「障碍者」の関わりについて取り組んでいたワタクシ。

ただ、1番感銘したのが、その製品によって人々の認識が「異彩アート=カッコイイ」に切り替わった時、本当の意味で社会は動き出し、そのためにヘラルボニーが「憧れのライフスタイルブランド」になるくらい突き抜ける必要がある……とするその志であった。

そんなヘラルボニーが今春、盛岡唯一の老舗百貨店の1階に常設店舗を構えた。
一昨年、上階にオープンしていたショップが、メインフロアに「栄転」したのだ。

そのお店で私が手にしたのは……ネクタイであった。
このネクタイこそ、このプロジェクトのきっかけとなったものとのこと。

「障碍のある人々の心と人生を社会に『結ぶ』」というコンセプトの面からも、力強く繊細で多重的な異彩アートの図柄を再現すべく、「プリント」ではなく「織り」で制作することにこだわった結果、世界最高峰の技術を有する老舗ネクタイブランドに製作を依頼することになったというプロダクトとしての面からも。

8種類ある中から吟味する。
前述の製作上の理由から、「お値段」は割とする。おいそれとは手が出ないブツである。

そこで考えた条件が2つ。

1つは、それがヘラルボニーの製品だと認識しやすいデザインであること。
折角なので、分かる者同士でほくそ笑みたい。

そしてもう1つが、ファッションアイテムとして自分に馴染むこと。
異彩作家と製品をリスペクトするからこそ、「コスプレ」にはしたくない。
あくまで自分のスタイルに取り込みつつ、それをベースアップできるようなもの……。

そんな(姑息な)葛藤を経て選んだ1本に対する皆さんの反応は、冒頭で述べた通り。

ヘラルボニーのそれだと分かる方は満面の笑顔を返してくれた。
分からない方は単純にオサレアイテムとして目を輝かせてくださった。

やはり「本物」にはエネルギーが宿るのだと体感した。
ヘラルボニー……カッケーなぁ!!

そしてそれと同時に、ある後悔が頭を過った。

その数日前、私は外部講師を務める花巻東高校スポーツコースにおいて、毎年恒例の姿勢科学の特別授業を行っていた。
当日は気持ちの良い秋晴れで、スーツも秋っぽい茶系のものを選択。
合わせるネクタイについて、ヘラルボニーのそれも一瞬考えはしたが、色合いの面から別の橙系のものを選択した。

後日、毎度ありがたいことに、その授業の模様が新聞記事として掲載。
しかし、選ばれた写真がよりによって、かがむ私のネクタイが前面に出ている構図のものであった……!!

もしこの時、例のブツを着用していたら、少しでもブランド周知に貢献できたのでは……いやいや、オサレ番長的にコディネートは妥協しちゃダメでしょ……でもなぁ……でもさぁ……。

そんな夢想に身を苛まれること、はや2週間。
この原稿を書いている机の横にあるウォークインクローゼットの中では、今日も件のヘラルボニーのネクタイが3本、専用フックに吊られて優しく揺れている……3本⁉ 

異彩を、纏え。


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