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IWATE から始める NEW NORMAL/連載エッセイ vol.116

※初出:知事認可・岩手県カイロプラクティック協同組合発行、「姿勢ッコくらぶ通信 vol.118(2020年・第3号)」掲載(原文ママ)。

この原稿を書いているのは5月下旬。
どうやら本日をもって、一部の地域で継続していた「緊急事態宣言」が解除されるようだ。
これによって、全都道府県での「宣言解除」が完了する。

しかしながら、米国メディアに「IWATEの奇蹟」と報道された、現時点で感染者ゼロの陸奥の地に住まう私たちですら、これが「収束宣言」ではないことを、十二分に理解している。

これから所謂「新しい日常(NEW NORMAL)」が、本格的に始まっていくのだろう。

この「コロナ禍」において、様々な業種に影響が及んでいることは、報道を見るまでもなく、皆様ご自身が体感されているであろうが、多分に漏れず、この「徒手療法業界」も多くのダメージを受けている。

先日手元に届いた業界新聞では、全国的に多くの店舗が閉店に追い込まれている状況を憂う記述が、そこかしこにあった。
実際、緊急事態宣言が出された辺りは、これからの店舗経営がどうなってしまうのが、全く見通しが持てず、私自身、安眠できない日々が続いていたのが正直なところであった。

そしてそれから約2ヵ月が経過し、お客様の来店状況はどうなったかというと……結論から言えば、この新型コロナウイルスの影響で、継続来店を取りやめた方は、片手に足りない程度……というか、県内における移動自粛要請が取り下げられた現時点では、ほぼゼロであった。

もちろん、所謂「3密(密閉・密集・密接)対策」は徹底していた。

しかし職種柄、「密接」だけはどうしても避けられないので、それには「マスクの着用」と「会話時の透明アクリル板の設置」、そして「手指や施設の小まめな消毒」で対応した。

ただ、それでも気にされるお客様もいるだろうし、それも致し方なし……と覚悟していたのだが……逆に「こんな状況でも営業してくれて、センセイありがとう!!」……などとお礼まで言われ……。

その時は、「イエイエ、こちらこそ!!」などと頭を下げたくらいで見送っていたが、次の予約の方をお呼びする前に、施術台を消毒する間、目頭を熱くしていたのは1度や2度ではなかった。
本当に……本当にありがたい。

私達の(特に私の店舗の)提供するサービスは、決して、お客様とって「最善の便利」ではない。

施術の前にさんざん検査され、その後ようやく来店計画を提示され、それを厳守するように指導され、それでいて研修(私の場合は講師出張など)でしょっちゅう店舗を閉めているので、予約自体が取りづらい……。

「利用したい時に利用できるのが『良いサービス』」という(OLD NORMALな??)一指標からすれば、間違いなく「落第点」だろう。

しかし私達が提供したいのは、「ヘルスケア」なのである。

単に、「痛みが緩和した」とか「気持ちがいい」というものの先にある、「健康であり続ける」ことを目的とした、その方の「人生」に寄り添わんとする、オーダーメイドのサービスなのである。

その為には、定期的な検査による的確な状況把握と、より良い状態を目指すための健康計画の立案、そしてそれを可能にする知識と技能を磨く継続的な研修が不可欠なのである。

そして今回のお客様の反応を見るにつけ、そういった私達の「信念」が、少しでも届いているのかとも思い、その意味でも非常に嬉しく、勇気づけられている。

ただ、このような心情でいられるのは、岩手で「たまたま」感染が広まらなかったという「偶発的な要因」によるものであることも、もちろん理解している。

しかしだからこそ、この陸奥に住まう我々から率先して、「新しい日常」を下支えしていく、「新しい価値観」の確立に、意識的に向かっていくというのは、悪くないのではなかろうか?

この「価値観」という意味においては、先日、この陸奥の地で、画期的な出来事があった。

前述したように、この「コロナ禍」において様々な業種に影響が及ぶ中、非常に厳しい状況に置かれている業界の一つに、「興行エンタメ」の分野がある。

その中で、日本初のローカル団体として1992年に設立された(旗揚げ大会は翌年3月)「みちのくプロレス」が、先日、自己の道場において、「岩手在住者20名限定」で有料の観客を迎えて、大会を敢行した。

この大会、実は現時点において、「2020年5月に有料観客を迎えて開催された世界で唯一のプロレス興行」なのである。

くどくならない程度に説明すると、新型コロナウイルスの感染拡大以降、世界中のプロレス団体は、まったく大会を開催しないか、もしくは無観客で大会を開催し、有料で配信するかの2つに分かれている。

前者は、会社としての「体力(資本)」がなければ団体として持ちこたえられなく、後者は設備やシステムがないと成り立たない。

つまり、その両者に当てはまらない、世界中のほとんどの団体が、存亡の危機にある状況なのだ。

そんな中、「プロレス先進国」である日本において、ローカル団体という「新しい価値観=NEW NORMAL」を打ち立てた実績のある「みちのくプロレス」が、「WITH コロナ(コロナと共存せざるをえない)」な情勢下で、世界に先駆けて行動を起こしたのである。

もちろん、ここに至るまでには様々な葛藤があったことを、団体設立時からの「ガチファン」な私は存じ上げている。

中央とは格差のある地方……しかも陸奥の更に道の奥で活動する彼らには、普段から思うところもあったであろう。

そんな彼らが今回、この岩手だからこそできる事を……と(もちろん行政にも確認の上)起こした行動は、動画サイト配信も相まって、世界中に広まり、業界関係者だけではなく、生観戦という価値観に飢えた各国のプロレスファンから「希望の灯」として称賛されている。
実に……痛快である。

「コロナだからできない」ではなく「コロナでもできる事」を。
「田舎だからできない」ではなく「田舎だからこそできる事」を。

コロナの方ばかりを向いた「新しい日常」じゃあ勿体ない。
新たな時代を生き抜く、新たな価値観を確立したい、そんな思いを強くする2020年の春であった。


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