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酒井創
2024年7月5日 17:08
一角獣の婦人は宝石で飾られた鏡に向かい顔の角度を何度も変えながら微笑みを送り続けている鏡の中の婦人は真顔のままで警戒を解こうとしない婦人がなだめすかしたり説得したり表情を変えたり語りかけても鏡の中の婦人はつれないついに怒りが湧き上がってくるお前は私のくせに!磨き上げられた鋭い角を鏡に向けて突進する鏡の中の婦人も同じように向かってくる今まで動きもしなかったのに止
2024年7月4日 18:10
こうもりはいつのまにか家の中にいた窓の内側に静かにとまっていたここは自分の家だと言わんばかりにしっくりと落ち着いていたまるで私の方が他人の家にいるような気分だっただけどここはまぎれもなく私の家だったこうもりには申し訳ないけれど家から出ていってもらうことにした窓を開けて出ていってと声をかけるこうもりは気づいているのに聞こえないふりをしている仕方がないのでそっと手で押し出
2024年7月3日 18:04
お菓子がいっぱいに入った紙袋をわくわくしながら勢いよく開ける中身はがらんと空っぽ底には小さな丸い穴が一つ穴の向こうから見開かれた眼がこちらをのぞいている恐る恐る紙袋の下を確かめる何もいない慌てて紙袋を裏返す何も落ちてこないそっと紙袋の中をのぞくこちらをのぞいている(ココア共和国2022年6月号)
2024年7月2日 16:42
尻に付くしっぽは罪の印だけどそれは誇りでもあるだから周りに誰もいないときはしっぽを外に思いっきり出して内なる獣を放ってやる(ココア共和国2022年2月号電子版)
2024年6月30日 20:41
思い切って肉体を空へ放り出すんですよ。迷ったり、怖がったりしたらだめなんです。気負ったり、焦りすぎてもだめなんです。何も考えずにただ放り出すんです。そうすれば自然と肉体は浮かび上がっていって、そのまま落ちてきません。気がついたらもう空に浮かんだままでいるんです。 浮かんだ肉体はどうなるかって? すぐにばらばらになって、あちらこちらへ飛び散っていきます。頭は頭の行きたい方へ。手は手の行きたい方
2024年6月30日 09:46
今日はまれに見る良い天気こんな日はどこまでも飛び上がってそのまま太陽に墜落しましょうそうしたらその端をそっとかじってみたら?よく味わってから飲み込んで地球に帰ってきたら太陽の味を教えてください私は熱いのが苦手なので(ココア共和国2021年6月号電子版)
2024年6月30日 09:45
蛇は右から入ってくるあなたは動けないまま蛇は左へと去っていく紐は左から入ってくるあなたは動けないまま紐は右へと去っていく目の前には何もいないあなたは動けないままもう何も入ってこない(ココア共和国2022年4月号電子版)
2024年6月29日 18:39
飛び込んだプールには底がなかっただからどこまでも潜っていけただけど水には底があっただから底を突き抜けられた突き抜けた先は空だっただからもう底に悩む必要はなかった(ココア共和国2021年5月号電子版)
2024年6月29日 18:38
トカゲのしっぽは切るとまた生えてくるワニのしっぽは切るともう生えてこないヘビのしっぽは切るとしっぽもヘビになるリュウのしっぽは切るとリュウごと消えてしまう(ココア共和国2021年2月号電子版)
2024年6月28日 16:48
クローゼットの中には喜び、憧れ、懐かしさ、悔い、恥ずかしさ、悔しさ、苦しみ、怒り、悲しみ・・・・・・扉を開けるまで忘れていたこいつらはまとまって襲ってくるたじろいで扉を閉めてしまうと安全で退屈な日常に元通り(ココア共和国2021年7月号電子版)
2024年6月28日 16:46
放り投げられた私はなめらかな放物線を描いて尖りすぎた山の頂上に突き刺さったこいつはいい眺め(ココア共和国2020年12月号)
2024年6月26日 17:07
馬は窓の端から顔を出してこちらをじっと見つめていた私がその視線に気がつくのをずいぶん前から待っていたようだった私の目と馬の目が一瞬合った馬が何を考えているのか読み取ろうとしたが暗く沈んだ茶色の瞳は私に何も教えてくれなかった馬は私が気がついたことを確認すると静かに窓枠の外へ去っていった慌てて窓に駆け寄り外を見渡すと馬の姿はもうどこにもなかった見えたのは馬の顔だけだった
2024年6月25日 17:49
本物の鮭は釣り上げられた瞬間準備しておいた偽物の鮭と入れ替わるこいつはでかいぞと騒ぎながら抱えて写真を撮っているときにはもう本物は川の底へと逃げている偽物の鮭は精巧な造りで見た目はもちろん食べても本物の鮭のよう皆が偽物を本物だと思い込んでいるが本物の鮭は川の底の暗がりで次の獲物を待っている(ココア共和国2021年3月号)