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「スランプ知らず」


最近、とみにこんな言葉を思い出す。

以前、シナリオを習っていた時、脚本家である師匠から衝撃的な言葉だ。

事の始まりは

「スランプになった時、師匠はどうやって復活するんですか?」

というある弟子の一言だった。

師匠は、その質問を聞いて一瞬肩を落としたように見えた。

『辛かったスランプの時を思い出しておられるのかな』

と弟子のほとんどが思っていたに違いない。

だが、それは全くの間違いだった。

顔を上げた師匠は、軽々と言い放った。

「スランプ? そんなもの、なったことは無いよ」

その場の誰もが信じられなかった。
確かに誰もが知っている作品を生み出されてきた師匠ですが、
作家の宿命とも言われるスランプを知らないなんて、
そんな事があるのだろうか。

師匠は続けた。

「スランプになるなんて、怠け者か・・・」

そこで一拍間をおいて、弟子たちの顔をぐるりと見渡した。そして。

「・・・才能がないかのどちらかだ」

その言葉には何の気負いも感じられなかった。
若い弟子たちを叱責するのでもなく、檄を飛ばそうというのでももちろんない。
ただ東から太陽が昇るのと同じくらい、当然のこととして
語っておられるのが分かった。

「でも、つまらない素材とか、やりたくないテーマとかを
押し付けられた時とかは、どうされるんですか?」

諦めきれない弟子の一人が聞いた。

「どんなものでも、さてこのネタをどうやって面白くしてやろうか、
と考えて書き始めるから、書くのが面白くないなんて考えたことも無い」

それからは師匠の独断場だった。

書くときは朝から夜までぶっ通しで書き上げる。
途中、水もお茶も飲まない。
何かで途切れると作品を貫くスジが切れる、
それが嫌だから、余計な事は持ち込まない。
電話ですら嫌だ。

そして最後にこう締めくくった。

「シナリオを描いている時間、何かを生み出している時間は絶対的に楽しいじゃない。
それなのに、スランプなんか感じるなら向いてないよ。
脚本家なんか止めた方が良い」

痛烈だった。どこかにあった甘えを白日の下に晒されたような気がした。

その時の事を思い出すと、
いまだにその境地にまで到達できないで、
常に四苦八苦している自分が恥ずかしく思えるのである。

                    おわり

世の中には、様々な「才能」がありますが、プロになろうとするなら、
まず「書き続ける才能」が必要と知りました。
「書く才能」ではなく「書き続ける才能」です。
書くことが楽しくて、ずっと続けられる才能。
それがあって初めて、その上に個性という才能を乗せることが出来るのです。

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