「24分のX」・・・22 「3年」 連続超ショートストーリー
思い出のラウンジで、美晴は元カレの登志夫を見つめていた。
「3年なんだ。海外赴任は3年になる」
3年、という言葉が何かを期待しているような気がした。
『来るんじゃなかった』
美晴は直感的に思った事を口にした。
元カレ、という油断もあったのだろう、楽天的な自分の考えに腹が立ったのかもしれない。それならばただの八つ当たり。下衆の勘繰りだ。
ダメよ、と考える前に、言葉が先に出ていた。
「3年って何よ。5年も待った女なら、
不倫相手に振られたばかりの女なら、
あと3年くらい待ってくれるだろうって?」
「そういう訳じゃないんだ。今日はただ久しぶりだから」
「そうね。久しぶりだから、抱いてみたくなったのね。
そうなのよね。久しぶりに感じる時だけ、抱きしめればもういいのよね。
飽きるまで抱きしめれば良いんでしょ。
3年経った時に、あなたの愛はまだあるのかしら?」
「何訳のわからない事を言ってるんだ」
登志夫の顔一杯に後悔の念が浮かんだ。
「やっぱり面倒な女だな」
「そうよ。あんたはこんな面倒な女を5年も待たせた挙句捨てたのよ」
「もういい! 会わなきゃ良かったよ」
「そうね。会わなきゃ良かったわ。
電話に出なければ良かった。来なけりゃよかった。
期待なんか・・・しなければ良かった」
美晴は自分の荷物を持って立ち上がった。
「でもね、心配しないで。アタシの面倒を見るって男ぐらいいるんだから」
自分のプライドを守る為のセリフだったが、元カレの返事は優しいはずも無かった。
「どうせ、そいつも体だけが目的だろう。また愛人みたいなことして
ふわふわと浮草の人生を送るんだよ。美晴は」
「うるさい!」
登志夫を置いて、美晴は一人土砂降りの街に飛び出した。
どれくらい歩いたかもわからない。
ずぶ濡れの服が重たくなってきた時、
目の前の路地から出て来た男が傘を差しかけて来た。
「あ!」
松野だった。
つづく
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