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「公園のふたり」・・・不思議な話。無口なカップルの謎。


『公園のふたり』

私は散歩が好きで、よく歩き回る。
日課としては自宅の周辺をぐるぐる歩くのだが、
その日は体調も良いので隣町の方まで足を伸ばしてみた。

見知らぬ街を歩くのはとても気持ちが良い、
ありふれた木が並んでいるだけでも違う街なら新鮮な感じがするし。

畑になっている野菜や果物も全く新しい種類のように思える。

私は、階段状になった住宅地の少し急な階段を見つけた。

その階段の中程にある踊り場から、横にすうっと伸びる形で
何かの果実園がありたくさんの木が並んでいる
その合間を縫うように細い道があり、
その向こうに小さな公園があるのが見えた。

「あそこで一休みするか」

公園といってもちゃんと整備されたものではない。
農作業をするときに休憩できるような東屋と、その向かいにいくつか
ベンチがおかれているだけの簡単な広場である。

公園に入ると、ベンチにカップルが座っているのが見えた。

高校生くらいだろうか、私は何十年も前の青春時代のことを思い出し、
懐かしい気持ちになった。

少し違うのは、今風に男の子はゲームでもしているようだ。
やや前のめりになって、腰の前に置いた両手の指をしきりに動かしている。

そのすぐ横に座っている女の子は
長い黒髪を垂らして、うつむき加減にその男の子の様子を眺めている。


私は、邪魔しないように、少し離れたところにある東屋の椅子に腰を掛け、持ってきた文庫本を読み始めた。

いつも散歩には薄い文庫本を持っていく。
以前は、通勤などで電車に乗ると、たくさん本を読めたのであるが、
最近はリモートが増えたためにあまり電車に乗る機会がない。
だから時間を見つけては散歩をして全く違う環境の中で、本を読むようにしている。

この日は、昨日から読み始めている人気作家の中編小説だ。

読みかけだった小説の一章が終わったところで時計を見た。
およそ30分ほど経っていた。
ふと目を上げると公園の端にあるベンチでは、先程の男女が
二人ともまだ同じような姿勢で座っている。

男の子はゲーム。女の子は長い髪を垂らして、ずっとそれを見つめている。

ゲーム実況と言って、他人がゲームをしている画面を見て楽しむ人もいるというから、きっとそういう類なのかな、と思いながらその場を離れることにした。

もう少し、この住宅街の端くらいまで歩くつもりだった。
心地よい高低差がある住宅街が続き、歩いていて気持ちよかった。
期待した通り単純な住宅街ではなく、小さな社や古い農家と思える大きな古民家が出てきたりして全く退屈しないで歩けた。

「そろそろ。帰るかな」

およそ一時間ほど歩いたので、少し足に疲れを感じてきていた。年には勝てない。
私は、ぐるっと住宅地を一周したらしく、再び小さな公園につながる階段が見えてきた。

「まさかもういないだろうな」

そう思いながらも、何となく先程のカップルの様子が気になったので、
公園を眺めるついでに階段を上った。

先ほどと同じく踊り場まで来ると、東屋とベンチが見えた。
ベンチには、まだ先程のカップルが座っていた・・・

・・・二人とも全く同じ姿勢で。

男の子はゲーム。女の子は無言でそれを見つめている。

「全く動いていないのかな、どういうことだろう」

公園には入らず、階段の踊り場からしばらく二人の様子を見つめていたのだが、そのうちにちょっと気味が悪くなった。

「まさか・・・」

と、その時、私の視線に気づいたのか、女の子が初めて頭を挙げた。
その長く垂れ下がった髪の奥から、白い目が1つだけこちらを見つめた。

背筋が寒くなる感じがして、私は早足でその場を離れた。

急いで道を戻りながら、もう一つ不思議なことに気がついた。

男の子が手にしていたのは、懐かしいファミリーコンピューターの
コントローラーだった。

ファミコンは、ブラウン管のテレビと本体がないと作動しない。
いったい男の子は何をしていたのだろう。
そしてあの女の子は・・・。

その後、何度かその公園の周りを散歩してみたが、
そのカップルに出会う事は二度となかった。


                  おわり





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