「リバイバルムービー」・・・愛か呪いか。それはノスタルジーだけではなく。
『リバイバルムービー』
若い頃、あるリバイバル映画を観た。
それはモノクロのシネマスコープになったばかりの頃に公開された作品だった。
付き合い始めた彼女に、少しは知性のある所を見せようとして
止せばいいのに難しそうなタイトルだけで選んだ、
主役の名前も知らない映画だった。
郊外の小さな弐番館。初回の客席はガラ空きだった。
バイトの給料日の直前だったので手持ちが少なく、
「ヨーロッパ映画を観る時には、ポップコーンは似合わないんだ」
などと言って、ドリンクも買わずに客席に座った。
開演のベルが鳴って、客席が暗くなり、
予告編が始まると案の定、睡魔が襲ってきた。
メインタイトルの後10分も経つと、瞼が開いていられなくなり、
物語が半分ほど進んだかなと思う頃には、
俺は不覚にも、彼女の肩を枕にすっかり眠りこけてしまった。
エンドマークまでの2時間。
彼女には、さらに長く感じられたに違いない。
ようやく俺が目を覚ました時、スクリーンにはエンドマークが映っていた。
『しまった。途中で眠ってしまった』
失敗の誤魔化し方も知らなかった俺は、
何も言い出せずに、ぼやけた目で彼女の顔を見た。
彼女は、少しだけホッとした顔をして、ただひと言言った。
「私、お腹空いちゃった」
「あ、そうだね。何か食べようか」
俺は新しい話題にすがりつき、客席から立ち上がった。
劇場を出ると、すっかり周りは暗くなっていた。
当時の映画館は、今のシネコンと違って、
一回の入場料で何回でも続けて映画を観ることができたのだ。
彼女は、客席が明るくなっても、眠りこくっている俺に気を遣って、
そのままの姿勢で動かなかったに違いない。
そして、客席が暗くなり、ひどくつまらない映画をもう一度観た。
さらにもう一度、。
朝一の初回を見ようと入ったから、少なくとも三回、彼女は
この退屈な映画を観たことになる・・・俺のクソ重い頭を肩に乗せたまま。
俺たちの後ろから、派手な服装をしたカップルが劇場を出て来て、
今観た映画を酷評した。
「観るんじゃなかった。最低最悪の映画だよな!」
その甲高い声の「最低最悪」が、耳に痛かった。
「御免・・・俺・・・」
立ち止まって彼女に謝ろうとしたが、何も言葉が出てこなかった。
二三歩先に進んでいた彼女は、振り返って俺の前まで戻り、
ニコニコ笑って言った。
「あら。何謝ってるの。映画はつまらなかったけど、
あなたの寝息を数えていたから、退屈はしなかったわよ。
6時間で四万三千二百五十七回。
合間にすっごく面白い寝言も言ってたんだけど、それは・・・
教えて、あ、げ、ない。ふふッ」
結局、その時俺が言った寝言の内容は、
四十年たった今も教えてくれない。
それでも時々は、大盛のポップコーンが似合う映画を二人で観に行くのだ。
おわり
このお話は、下記の物語「愛か、呪いか?」の続編です。単独でも大丈夫ですが、
こっちも合わせて読んでみて。
https://note.com/gyokudou2020/n/nab5774e62653
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