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アタッキングサードの人員整理

1-1
両チームともに意外な形から得点が生まれた試合は引き分けに終わった。個人的な目線で言えばどちらも煮え切らないフラストレーションの溜まる試合だったのではないだろうか。

このフラストレーションはアタッキングサードに入ってからのプレーの解像度の低さからくるもののような気がしている。なぜ攻撃での解像度が低かったのかまとめていく。

ビルドアップ時の安全策

浦和も川崎もビルドアップでは不安定な場面がいくつかあった。両者ともに特に相手のプレスとビルドアップの陣形が噛み合った時にボールロストが目立った。両チーム怪我人がいる中で質的優位を作れる人材が不足していることが影響して、噛み合わせられた時に逃げ道が作れずにボールロストしているように見受けられた。

噛み合わせてくるプレスへの解決策は?

川崎は浦和のプレスに少し翻弄されてしまう場面が試合を通じて見られた。なかなか後ろからのビルドアップが安定しないのは今後の不安材料になるかもしれない。

3:23の場面では上手くプレスを剥がして、川崎は左サイドから右サイドへと展開することができた。しかし、RCBの大南のところで早まって山根パスを出したことでLSBの荻原に捕まる格好となった。

3:23の川崎のビルドアップ

28:47ではバックパスを受けた大南が狭い方へとボールをコントロールしたことで窮屈なボール保持となり、大南から家長のパスはタッチラインを割ってしまった。

28:47の川崎のボール保持

大南はボール保持で難しいプレーを判断して実行してしまう場面があり、この試合では川崎の後ろからのビルドアップが苦労している原因になってしまっていた。「相手を引き付けてパスを出す」、「前進をキャンセルしてサイドを変えるもしくはGKへ戻す」といった部分ができるようになるともう少しスムーズにボールを前に運べるようになるのではないかと思う。

一方でGKを使いながらのビルドアップは一定の成果があった。15:25では浦和のプレスに対してGKの上福元を使いながら浮く選手を作り、上福元から大島へとパスが渡りプレスを回避した。

15:25の川崎のビルドアップ

浦和は川崎の2CB+ダブルボランチのビルドアップに対して2トップ+ボランチの一角を前に出して3vs4の人数で対応していたが、上福元が高い位置を取って浦和のプレス人数に対して+2の数的優位を作った時にはハメることが難しかった。

そこで浦和は後半からSHを前に出して4vs4の局面を作り、上福元がビルドアップに参加してもボールホルダーに圧力がかかる状況に修正した。55:19では数的同数でハメにいき、山根から上福元へのバックパスをスイッチに圧力を強めて、上福元から登里へのパスをボランチの伊藤がインターセプトしてショートカウンターへと繋げた。

55:19の浦和のハイプレス

この場面では大南が素早くカバーに入り、ホセカンテのシュートをブロックしたことで川崎は難を逃れた。

69:34でも同様に川崎は上福元を使いながらビルドアップを試みるも、浦和のSHを押し出して同数で噛み合わせるプレスに対して、上手く逃げ道を作れずにボールを蹴らされる格好になった。

68:34の浦和のハイプレス

浦和のSHを押し出して縦スライドさせるプレスに対して、川崎は攻略の糸口を見出せなかった。前線でロングボールを納めるタイプがいないので、蹴らされる格好になると厳しい川崎は同数で噛み合わせてくる相手に対して、どうやってプレスを回避するかは今後の課題になるだろう。

質的優位が消えた今

浦和もビルドアップの部分では苦戦している様子が伺えた。脇坂を前に出して4-4-2の形で守る川崎に対して、川崎がミドルブロックを作った時はCB間の大きな横パスで前進することができていた。しかし、川崎が強めにプレスをかけてきた時はシンプルにロングボールで逃げることが多く、プレスを剥がす意識よりもリスクを取らない意識が強く見られた。

前半の立ち上がりは西川から荻原へのフィードから、素早くボールを動かして飛び出したRSB山根の背後のスペースに安居が抜けて前進する起点を作ることができた。

2:49の浦和のビルドアップ

57:37で浦和は自陣からボールを繋ごうとして西川のコントロールミスからゴールを献上する形になった。この場面ではボランチのシミッチが岩尾まで飛び出したことによってボールホルダーに圧力がかかって浦和にミスが出た。一方で川崎がGKまでプレスに出たということは浮く選手が生まれたことになるので、浦和としてはそこを使いながら前進をしたかった。

浦和の失点の場面

この場面では西川から岩尾がボールを受けた時に宮代がGKまでプレスに出たためにLCBのホイブラーテンが浮いたのだが、そこを見つけられず岩尾は西川にバックパス。この時点で川崎のプレスの矢印の方向にボールを動かしてしまい川崎のプレスの餌食に。西川はダイレクトでロングボールを送る選択肢もあったが、より丁寧に繋ぐことを選択したことでコントロールミスが生まれてしまった。

川崎は4-4-2のプレスを採用しており、アンカーの位置にいる岩尾は2トップが監視する形を取っていたのだが、この場面では積極的にシミッチが岩尾を捕まえに行ってボールホルダーへ圧力をかけられたことが功を奏した。

前提として浦和はボールを持つことよりもボールを前進させることを優先している。基本的なボールを前進させる方法は『後ろからのビルドアップ』と酒井や明本の空中戦の強さを活かした『サイドでの質的優位』だった。しかし、怪我で酒井を欠き、この試合でも明本が怪我で途中交代となったいま、質的優位以外の前進方法を見出すことが必要になるだろう。スコルジャ監督になってからビルドアップにこだわりを見せない中で、どのようにビルドアップを改善するのか手腕が問われる。

アタッキングサードの攻撃バランス

チャンスの数で言うとこの試合は両チーム通してあまり多くなかった印象を受けた。相手を押し込んだ中で崩してゴールを奪うことに関しては共に苦労していたように見えた。

ピッチ上の指揮者

川崎は家長がピッチ上で攻撃の指揮者としてタクトを振う。家長がゆっくり攻める意思を見せればチームはそれに合わせてスローダウンしてボール保持の意識を高める。攻撃時に家長には自由が与えられていて、RWGにも関わらず左サイドへ行ったり、最終ラインまで顔を出す場面は度々見られた。

川崎はボールサイドに人数を集めて狭いエリアの中をコンビネーションで突破することを得意としている。しかし、この試合では家長な左サイドにフラフラっと移動して人数をかけている割に効果的にサイド攻略に至ってない印象だった。

7:29ではRWGの家長が左サイドに流れてプレー。川崎の右サイドにRSBの山根だけ残して、残りはボールサイドで密集を作るような場面は多々あった。しかし、この場面でも家長のパスはショルツにパスカットされるなど、ボールサイドに人数をかける割にプレーの精度が低く、また複数人が絡んでのサイド攻略は見られなかった。

7:29の川崎のサイド攻撃

逆に川崎の右サイドでは人数のバランスがよく、脇坂がPA内のポケットに侵入する場面が数回あった。19:40では脇坂がハーフスペースへとランニングをして、山根からのパスパスを受けてクロスをあげた。

19:40の川崎の攻撃

ゴール前の選手たち(宮代、大島、遠野)の入り方と脇坂のクロスが合わずにクリアされたが、1つ良い攻略の形が出せた場面だった。また、この後のすぐのプレーでも脇坂は大島からポケットでパスを受けてからシュートを放った場面があり、幅を取る選手、後方でサポートする(出し手になる)選手、ポケットを取る選手と人員が整理されている時は良い攻撃を仕掛けることができていた。

後半は浦和も川崎のポケット攻撃に対してボランチがハーフスペースを埋めることを徹底していたので押し込んでからの効果的な攻撃が出せなかったが、ボールサイドでの人数のかけ方は川崎の攻撃のキーポイントになるかもしれない。24分のように家長が右サイドを空けることで相手のカウンター時のスペースを与えることを考えると、家長のボールサイド移動は費用対効果がどれくらいあるか再検討が必要かもしれない。特に小林とダミアンが怪我で欠場となり、ゴール前での動きの質には期待できないのであれば、ボールサイドでは一定の人数を確保しながらもゴール前の人数で攻撃の濃度を高めることが必要になってくるはずだ。

浦和の無理強い

浦和はアタッキングサードの攻略はずっと課題になっていて、得点力が低い原因になっている。浦和のアタッキングサードの攻撃はSBもしくは伊藤の背後への動きが生命線となっていて、前線の背後への意識が低いことはノッキングを起こす原因となっている。

6:57ではRSBの明本がボールを持った時に背後へのアクションもなく成功率が低い中でクロスを無理強いしてしまい、ボールロストからカウンターを食らってしまった。

6:57の浦和の攻撃

プレーの成功率が低く、クリアされた時のネガティブトランジションが作れていない状況であれば、クロスを上げるべきではなく、サイドに揺さぶることが必要だった場面だった。こういった何となくクロスを上げる場面はこの試合でも散見された。

71:32では関根が中央突破を試みてボールロストしてから川崎のカウンターが始まり、途中出場の瀬川の決定機を迎えた。この場面でも浦和の選手からは背後へのアクションがないために、押し込んでいるのに川崎のDFラインは一定の高さを保つことができている。従って縦パスに対しても強くアプローチをかけることができたので、川崎はボール奪取からカウンターに繋げることができた。また、CFの宮代に対してホイブラーテンとショルツの両CBが出ていったことで、浦和の背後に広大なスペースが生まれカバーする選手もいなくなってしまった状況だった。

71:32の浦和の攻撃と川崎のカウンターアタック

川崎からするとボール奪ってから素早いパス回しでプレスを回避して背後を取り、GKと1vs1の局面を作ったので決めておきたい場面だった。

5枚+1

浦和のアタッキングサードでの攻撃には右サイドではボランチの伊藤が積極的に前に出て行く分、ボール保持をして起点作れる状況が多い。一方で左サイドでは岩尾がバランスを取って後方サポートに回るため、LSBとLSHの2人による攻撃となる。すると必然的に右サイドで起点を作り攻略するor右サイドで作って左サイドへ展開という攻撃が増える。浦和が抱える課題としてこの人員整理というところで川崎と同様にボールサイドに人数をかけ過ぎてゴール前に人がいなくなる場面はよく見かける光景だ。

この試合でも先程説明したようにゴール前に人数が少ないのにクロスをあげたり、突っ込んでいくような『無理強いする攻撃』が多々あった。

じゃあどういった状況がバランスの良い攻撃なのか。相手の人数にもよるが、5枚+1を作れている状況はチャンスが作りやすくなる。例えば下の図のようにRCBのショルツがドリブルで持ち上がり5枚+1以上を作れている状況ではチャンスになりやすい。この場面では山根がクロスボールに対して上手く対応したためシュートまではいけなかったが、大外で安居が浮いている状況を作ることができた。

38:23の浦和の攻撃

49:45も右サイドで明本がクロスを上げて、安居がボレーシュートを放ったが、ボランチの伊藤がゴール前まで顔を出して5枚+1の状況を作れている。そのため川崎も対応が難しくなり、大外から入ってきた安居へマークが付ききれない状況が生まれた。

49:45の浦和の攻撃

この試合では素早く攻め切ってしまう局面と押し込んで人数をかけて攻める局面の使い分けがチームの中で曖昧になっているように感じられた。そもそも前線のアクションが少ないためにスペースが生まれず、+1がなかなか作れない状況があることと、「チームとしていつ仕掛けるのか」が不透明な部分が浦和の攻撃低迷の原因となっている。無論、前線のプレーの質の低さは苦しいのだが、チームとしても今一度アタッキングサードの攻撃を改善する必要があることは確かだ。

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