ぐん税ニュースレター vol.23 page5 -渋沢栄一から学ぶビジネススキル 第1部-
新1万円札の顔 渋沢栄一とは?
みなさん買い物で現金は使用していますか?キャッシュレスという言葉を耳にするようになってから数年経つような気がしますが、日本のキャッシュレス決済の比率は2021年時点でまだ32.5%程度(2022年6月経済産業省)に留まっているそうです。キャッシュレス・ロードマップ2021によると、少しデータが古いですが2018年時点で韓国が約95%で最も高く、次いで中国が80%弱、欧米が約50~60%ということですので、順位と数値に大きな変動がないことを考えると日本のキャッシュレス化はまだまだ遅れていると言っていいでしょう。
国としてキャッシュレス化を推進しているものの、まだまだ利用頻度が高い現金ですが、2024年に20年ぶりに新たなデザインで紙幣が発行されます。なかでも1万円札は40年ぶりに肖像画の人物が変更となります。その人物こそ「日本資本主義の父」といわれる渋沢栄一です。
国立印刷局によると紙幣の肖像として選ばれる条件に「日本国民が世界に誇れる人物で、教科書に載っているなど、一般によく知られていること。」とあります。経済活動において重要な「お金」ですが、その紙幣に描かれるのは必ずしも経済に精通した人物ではなくてもよいということです。ですが、この度1万円札に描かれることになった渋沢栄一ほど日本経済に大きく貢献した人物はいないと言っても過言ではないでしょう。渋沢の行動や考え方には現代のビジネスにおいても重要なヒントがあるかもしれません。幕末から明治維新にかけて目まぐるしく変化する時代を駆け抜け、日本の産業発展に大きく寄与した渋沢とはどんな人物なのか。彼の生涯とともに見てみましょう。
渋沢栄一の原点
天保11年2月、渋沢は武蔵国榛沢郡血洗島村(現在の深谷市)に生まれました。話とは関係ありませんが血洗島(ちあらいじま)とは凄い地名です。裕福な農家の長男として育てられた渋沢は読書や武芸を通じて知識や教養を身に付けました。母は近所の人々にも優しく接し、病弱な高齢者、貧しい子供、病気を抱えた人々の衣服や食事の世話をし「皆が幸せであること」を大切にしていました。父もまた村全体を豊かにするために地域で藍の葉の栽培を勧め、家では養蚕のほかに藍玉の製造をしていました。藍の葉の生産、藍玉の製造、販売といった家業のおかげで渋沢は農業・工業・商業をより身近に、そして体験的に学ぶことができました。こうした生活環境が渋沢の原点になっています。
渋沢がビジネスマンとしての頭角を現す有名なエピソードとして「藍玉番付」というものがあります。父親のお供で仕入れや得意先まわりに出かけていた渋沢は次第に目利きの力を養いました。そして藍玉の品質を相撲の番付に見立てたランキング表を作成し、藍農家を招いて宴会を開き質の高い藍を作った大関を上座に据えてそのノウハウを語らせました。こうすることで生産者たちの競争心を刺激するだけでなく生産技術の情報を皆で共有することができたので品質が向上していったといいます。この藍玉番付は現代のビジネスでいう評価制度といえるでしょう。当時22歳の渋沢はどうすれば人が行動を起こし成果を上げることができるのかを理解していたのです。
キーパーソンとの出会い
渋沢は、良い運は良い人との縁から始まる、と考えており、人との出会いと縁を大切にしていたといいます。
渋沢の人生は重要人物との出会いの連続となるわけですが、7歳の時点で人生を決定付ける最初の重要な人物と出会います。従兄弟の尾高惇忠(おだかじゅんちゅう)です。当初は父が教えていた読書でしたが、その父の勧めにより自宅から数百メートルの隣村で塾を開いていた惇忠のもとへ行き読書を重ねました。渋沢の思想の根底にある孔子の「論語」もここで学びました。さらに渋沢は18歳の時に惇忠の妹、千代と結婚します。そして渋沢に大きく影響を与えた惇忠の弟、長七郎とも出会います。
渋沢の2歳年上にすぎなかった長七郎ですが、たびたび江戸に出て村に帰ってくるといつも国の行く末を議論していたそうです。時は黒船が開国を迫る幕末、惇忠の影響で尊王攘夷思想を持っていた渋沢にとって長七郎の話には大きく影響を受けたはずです。実は渋沢は17歳の時に父の代理で代官所に出頭し、御用金を差し出すよう命令されても応じず「侍が威張るのは、結局は幕政が悪いからだ、階級制度が間違っているからだ」と憤慨した過去があります。この頃から幕府に対する不信感は既に芽生えていたのかもしれません。そしてこのあと渋沢はビジネスにおいて重要な行動力を遺憾なく発揮していきます。
(広報 原)
2022年8月号 第2部
2022年9月号 第3部
【参考】
国立印刷局ウェブサイト
経済産業省ウェブサイト
一般社団法人キャッシュレス推進協議会 キャッシュレスロードマップ2021
PRESIDENT Online「ビビる大木、渋沢栄一を語る」
東洋経済ONLINE「日本資本主義の父 渋沢栄一とは何者か」
埼玉県深谷市「近代日本経済の父 渋沢栄一」
渋沢栄一記念館ウェブサイト
公益財団法人 渋沢栄一記念財団ウェブサイト
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