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赤い傘(短編小説)

雨の日が好きだった。
それは初め、僕の意思ではないものだった。

虹がかかるから。
雨上がりの澄んだ空気が好きだから。

よく聞くのはそんな理由だ。
僕はいつも異議を唱える。

それは本当に雨が好きだと言えるのだろうか。
虹。雨上がりの澄んだ空気。
それは雨そのものを楽しんでいるものではなく、雨のあとのそれを楽しみにしているだけだ。
その考え方の時点で君達は雨をマイナスに捉えているのではないだろうか。

後の素敵なものをより良く魅せてくれるための、助走で後ずさる行為。

雨が好きだと言うのに、雨を卑下していると思う。
雨が可哀想だ。

しかし彼女はそうではなかった。

パラパラとリズムを刻む雨の音楽。
アスファルトが濃く染まり行く様子。
水たまりに広がる波紋。

可愛くて好きだと言った。

何にでも「可愛い」に当てはめるところは、稚拙な感じがしてどうかと思っていたが、それも彼女の魅力だった。

そんな彼女にプレゼントした傘。
大きくて赤い傘。

特別、誕生日でもクリスマスでも記念日でもない日に、何気なく彼女に似合うと思って買ってきた傘。

彼女は可愛いを連呼してとても喜んでくれた。
特別な日に一生懸命考えて選び抜いたプレゼントよりも、遥かに喜んでくれるので、嬉しい反面、少し拍子抜けた返事をしたことを今でも覚えている。

彼女が大切にしてくれている赤い傘を、後ろから眺めたくはなかった。

「サヨナラ」

あまりにも淡白な別れは突然で、僕も好きになっていた雨の音は聞こえなくなった。

全てがセピア色の中、赤い傘だけがくっきりと浮かび上がる。

彼女は今も大切にしてくれているだろうか。

赤い傘を見かける度に、僕は彼女を思い出す。
だから僕は雨が___。


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