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怖くない小説の雑居房

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ホラー要素や残酷な展開がない小説たちの雑居房です。治安が良いです。
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2023年9月の記事一覧

【掌編小説】残暑の意地

【掌編小説】残暑の意地

「快丸クラブの78番。金曜の夜中1時に決まって、だよ」
 モリタが下卑た笑いを時折混ぜながら語ったのは、1年B組を揺るがす大ゴシップだった。
 高校入学後、初めての夏休みも終盤に差し掛かっていた。出不精をコロナのせいにしながら自堕落に、そうめんをすすり、オンラインゲームをし、かき氷を食べ、オンラインゲームをし、時々家族で外食をして、帰ってすぐオンラインゲームをし、寝落ちするだけの夏が終わろうとして

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【掌編小説】遺りもの

【掌編小説】遺りもの

 祖母ミチコの通夜の賑わいが、生前の祖母の性格を表していた。
 小さな集落である。村の人間のほとんどが参列してくれたが、涙声よりもずっと笑い声の方が多く、夜分まで、祖母の横で村祭りのような通夜が続けられた。
 祖母は誰にでも、優しい、というよりかは甘かった。何事も自分の意見を通すことはなく、人に譲り、残ったもので生活を形成していた。
 その残りものを集めに集めて、末期までは薄利多売をそのまま形にし

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【掌編小説】閉塞された公園で

【掌編小説】閉塞された公園で

 その公園に行くと、少年は色の落ち込み始めた空に小さな両手をかざして立っていた。
 公園は団地の棟に隙間なく囲まれていて、まるで外部の目から逃げ隠れているように見える。そのため、冬の陽が浅い頃には棟の影に沈み、寒い。少年の半そで、半ズボンの姿は今の気温の中では異様だった。
 俺は隅のかび臭いベンチに腰掛けて、缶のボトルコーヒーを開ける。遊具には目もくれず、すべり台の踊り場で手を頭上にかざし続ける少

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