つぐみざき あさひ

姓を鶫﨑、名を朝陽。  越後の川縁に生まれ、武蔵の国の坂の下に住まう。年端も行かぬ小説…

つぐみざき あさひ

姓を鶫﨑、名を朝陽。  越後の川縁に生まれ、武蔵の国の坂の下に住まう。年端も行かぬ小説家のひよこ。  小説、二次創作、短歌、あれこれぴよぴよと。  好きなものや考えたこと、物語など心に移り行くよしなしごとを書き綴る。

最近の記事

気が向いたので9月に詠んだ短歌の自選をするのだよ!

 ええ、読んで字のごとくです。もう10月も中旬を名乗れるのに。  ありがたいことに、俺の垂れ流す三十一文字にぽつぽつと、短歌をなさる方の目に届くものが出てきたらしい。秋の物書き日和に乗じて、軽率に調子に乗って自我を出していこうと思う。  保険をかけるわけではないが、短歌について特別に勉強をしているわけではないし、文字を手のひらの中でもにゅもにゅする趣味の範疇は出ない。だが、この頃は割合気に入った形のまま無理なく取り出すことができるようになってきた気がしている。  ではここから

    • 今夜も召し上がれ 横着者のちゃんちゃん焼き

      第20夜 横着者のちゃんちゃん焼き  味噌を買うか迷っている。  近所のスーパーである。  俺はほぼ毎日自炊はするが、なにぶん寿命が減るほど忙しい時期があったり、気に入ったメニューをしばらく作り続けたりするので、味噌が傷まないうちに食べ終える自信がない。  コーナーを見回しても、味噌というものは結構な量で売られているものばかりだ。  なにせ、忙しさのあまり冷蔵庫の中に放置したチーズが液体になっていたことのある俺だ。食材を無駄にせずに済むのなら、それ以上のことはない。  今は

      • 今夜も召し上がれ 醬油ラー虚無

        第19夜 醬油ラー虚無  子供の頃、ラーメンと言えば出前だった。  今だって大人なのは縦寸ぐらいのものであるが、ともかくも俺の知っているラーメンは、運転の荒い大将が玄関の引き戸をガラガラガラと開けて、はいどぉもね、と持ってくるものだった。  父親の分、祖父の分、曾祖母の分、俺の分……と、大将と同じぐらい貫禄のある木のおかもちから丼が取り出されていく。細い縮れ麺の、透明なスープのなかで小口切りの長ネギが踊り、業務用ラップが二重に掛けられた、醤油ラーメンでビンゴゲームをしたら真

        • 今夜も召し上がれ 第18夜

          第18夜 チョコレートブラウニーもどき  俺は甘いものが好きだ。  小学校低学年の頃だったと思う。  家の前の庭で、俺が友達と遊んでいた時に、祖父がいきなり、ふたりで食べな、と板チョコをくれたことがあった。  銀紙と、赤い包装紙だったと思う。  俺が初めて食べた板チョコだった。  けれど、そのとき遊んでいた友達は、甘いものが好きではなかったから、はじめは半分に折って分けて食べ始めて、しばらくしてその更に半分が俺に返ってきて、と言うことを何回か繰り返したように思う。  小学校

        気が向いたので9月に詠んだ短歌の自選をするのだよ!

          今夜も召し上がれ 第16夜

          第16夜 年越せそうめん 「俺、毎回推しの誕生日周辺忙しい気がする」  大学の授業で忙殺されていたある暑い日のことである。  110円の缶コーヒー片手に、アラームをセットした休憩時間だ。机の上に広がっている資料や素材のメモはなるべく視界に入れないようにしながらの談笑。  忙しいのは俺と変わらないはずなのに、磨かれてパーツが乗った同級生の爪に目が行く。俺も爪を、あと髪も切らなくては。  その手で差し出されたプリングルスをつまみ、代わりに自販機でキンキンに冷やされたクッキーを差

          今夜も召し上がれ 第16夜

          今夜も召し上がれ 第17夜

          第17夜 ワンパン(でイタリアーノを殴る)パスタ  はいどうもー真夜中系お料理YouTuber俺くんチャンネルでっす!  というわけでね、今日はイタリア人を〇していきたいと思いますいえい!  ぜひ最後まで見てってください、っと。 \\俺くんチャンネル!//  とはいえですよ、とはいえ、ひとひとり〇すのはちょっとしゃれになんないリスクとコストがかかるんで、ちょーっと工夫をね、していきたいと思うわけですよ。  ここで使うのがドン!パスタですいえ~い。  ふっつーのやつです。

          今夜も召し上がれ 第17夜

          サイダーの瓶

           電話が切れた。  受話器を置くと、少しだけ度数の残ったカードが戻って来た。それを取ってしまうもの億劫で、そのまま視線を外に投げた。  ひどく疲れた。  電話ボックスの中は少し暗くて、外を照り付ける日差しはなんだか映画のようにうさんくさい代物だ。  外は行き交う人もいるのに、世界中で私一人だけみたいだ。  ぼーっと眺めていた往来に、学校上がりなのか、男の子が一人、自転車に乗ってやってきた。自転車に乗っていてもわかる、何かスポーツをやっていそうな体格の子だ。  ちょっと目を引

          今夜も召し上がれ 第15夜

          第15夜 鶏モモ肉と憂鬱のトマトジュース煮パスタ  すべてが無理な時ってあるものだ。  ノートや脱ぎ捨てた服で半分の広さになった布団の上で、夏目球を見ながら、生命活動以外の何もしていない木曜の昼。  俺は、自分で言っちゃあれだが、ひとりで生きていけるタイプの人類だと思う。大概のことはひとりでできるし、ストレス解消法もたくさんあるし、なによりも自己肯定感が高い。我ながらいい育てられ方をしてきたと思う。  けれど、どうしたってあるのだ。  すべてがメキャメキャになって、もうひと

          今夜も召し上がれ 第15夜

          今夜も召し上がれ 第14夜

          第14夜 東京地裁の牛すじカレー蕎麦  俺は大学生だ。  半年前はまだブレザーに身を包み、高校の教室でキャッキャしていた年である。  それでいて、18という一応は成人の身分と遥かに自由になった意思決定権を、スカスカの財布に挟み、ジーパンの尻ポケットに突っ込んで行動している。この、手ぶらの身軽さと、必要最低限に足るか足らぬか程度の責任を取れる懐が大学生の強さであり、すなわち俺の武器である──とはいえ、東京地方裁判所をその格好で訪れるのは、ちょっと……いや、かなりよろしくなかっ

          今夜も召し上がれ 第14夜

          今夜も召し上がれ 第13夜

          第13夜 ミッドナイトクッキー  ああ、クッキーを焼こう。  深夜2時、むくりと体を起こしたかと思うと、俺はそう呟いた。  卵、ある。バター……はないが、一昨日に安売りだったマーガリンを買ってきた。あとは……粉、小麦粉はないがホットケーキミックスがある。ホットケーキミックスでビスケットを焼いたことがあるから、クッキーが焼けないわけもなかろう。  台所の電気だけつけて、材料を並べる。  牛乳たっぷりのコーヒーをひとくち飲んで、作業開始だ。  まず、ボウル……がないので鍋にマー

          今夜も召し上がれ 第13夜

          今夜も召し上がれ 第12夜

          第12夜 パリパリ羽根つき餃子  俺の家では、そういうものは父親の料理だった。  そういうもの、というのは例えばお好み焼きだったり、羽根つきの餃子だったり、そういうパリッと焼き上げる円形のもので、買い出しから父親と一緒に行っていたように思う。常日頃料理の大部分を母親が担っていた我が家では、それはある種のイベントだった。  学校帰りのスーパーも、もはや日課になった。  もやしや朝食のパンをかごに放り込み、うろついていたところ目に入った「2割引き」シール。ただでさえ安い餃子は

          今夜も召し上がれ 第12夜

          今夜も召し上がれ 第11夜

          豚コマとモヤシのなんちゃってスープ  この城に用意のないもの、そのひとつに傘がある。  長傘を持ってくるのが面倒で、しかも折り畳み傘はずいぶん前に壊したものだから、雨合羽しか、雨に対する装備がない。 「あ゛ー、濡れた濡れた」  雨合羽というものは、基本的に急な雨に対応しないし、そもそも俺の主な移動手段である自転車は、雨の中を移動することを想定していない。  前髪から水を垂らしながら、俺は城のドアを開ける。  換気のできていない部屋特有の生温かい空気だ。  暖かい日も多くなっ

          今夜も召し上がれ 第11夜

          今夜も召し上がれ 第10夜

          コンビニの醤油焼うどん  もうだめだ、今日の俺はよく頑張った。  各駅停車が次の駅に向かう音を聞きながら、ふらふらと改札を通り、冷たい夜の空気で満ちた路地に出る。  ちらりとスマートフォンの画面をつける。23:58、日が変わる時間だ。 「っあ゛ーー……」  駅から、俺の城に向かう坂道をのろのろ進む。歩幅が言うことを聞かない。  昼前の開店からからラストの11時まで、働きづめのゴールデンウイークが終わり、明日は大学だ。前世で何ほどの業を負ったら毎週ここまでバイトをすることにな

          今夜も召し上がれ 第10夜

          今夜も召し上がれ 第9夜

          鶏むね炒め弁当  朝8時、お気に入りのJpopを設定した目覚ましが鳴る。  全身をくまなく伸ばして、もそもそと布団から這い出た。  今日はアルバイトである。この城に帰ってくるのは深夜になる。  俺は顔を洗うのが壊滅的に下手で、自分の服から洗面所から頭に至るまで、びっしょびしょにせずに洗顔できたためしがない。もう開き直って、身支度を整える必要があるときは朝からひと風呂浴びることにしている。  昨日に限らず、仕事終わりは疲れ果てているし、暗い時間に風呂場を使うと、結構うるさいし

          今夜も召し上がれ 第9夜

          今夜も召し上がれ 第8夜

          豚コマの甘辛炒めご飯  終電の1本前の各駅停車を降り、1日分の疲労を蓄積した身体を引きずって城の鍵を開け、ひきっぱなしの布団に倒れ込む。  疲れた。  今日は大体、変な客が多かった。疲れた。  このまま眠りのふちに滑り落ちたいが、なにせ腹が減っている。休憩時間に、5個で300円のチョコチップメロンパンは食べたが、それだけである。それだってまあ大きいやつなのだが、10時間働いた俺にはいろんなものが足りない。  何か食べよう。風呂は明日の朝でいいから、食べるだけ食べて寝よう。明

          今夜も召し上がれ 第8夜

          今夜も召し上がれ 第7.5夜

          背徳のフレンチトースト 「ごちそうさまでした」  空になったどんぶりを前に手を合わせ、食後の麦茶をひと口飲む。  俺、結構料理上手いよな。  自分で作ったレシピだってだいぶ適当に調味料を入れているが、それでこんなにおいしいものが作れるのだ。食の神様に愛されるとまでは行かずとも、嫌われてはいないようである。 「で、そしたら朝飯の仕込みだ」  大きな袋に15個入って200円という、俺が朝食に重宝しているロールパンをテーブルの上に置く。パンが安かった日に何袋かまとめて買ってきたの

          今夜も召し上がれ 第7.5夜