今夜も召し上がれ 第8夜
豚コマの甘辛炒めご飯
終電の1本前の各駅停車を降り、1日分の疲労を蓄積した身体を引きずって城の鍵を開け、ひきっぱなしの布団に倒れ込む。
疲れた。
今日は大体、変な客が多かった。疲れた。
このまま眠りのふちに滑り落ちたいが、なにせ腹が減っている。休憩時間に、5個で300円のチョコチップメロンパンは食べたが、それだけである。それだってまあ大きいやつなのだが、10時間働いた俺にはいろんなものが足りない。
何か食べよう。風呂は明日の朝でいいから、食べるだけ食べて寝よう。明日も労働は待っているのだ。
なんとか敷布団から身体を引き剥がし、台所に向かう。
まあ3歩で着くのだが。
「ん゛ああ……なに食おう」
冷蔵庫をのぞく。
牛乳、コーヒー牛乳、麦茶、炊いておいた冷ご飯、卵。
「いやろくなもんがねえ……すぐに食えるもんがねえ」
冷凍庫を開けて、下味と一緒に一食分ずつ冷凍しておいた豚コマ肉を取り出す。
確か……めんつゆと砂糖、塩でつけといたやつ。
「いいわ食えれば」
ジップロックを引き剥がし、フライパンのなかにコマ肉を放り込む。
きれいに開封すればもう1回使えるだろうが、生肉を入れたものだし捨てていいだろう。面倒だ。
そこに、平日に炊いておいた冷ご飯を投入する。
水を垂らし、弱火にして蓋をする。
「これであとは、湯気が出てくるまで放置」
横になるとそのまま寝るし、起きられるわけがないし、ボヤが出て各所にご迷惑をかけまくるのは想像するまでもない。
ちょうど溜まっていた、発泡スチロールのトレーとプラごみをゴミ袋にまとめ、玄関に並べておくことにした。
下味と一緒に冷凍しておいた肉は、多少雑に扱っても存外、柔らかく出来上がるものだ。
「あー、俺ってば偉い。超偉い、ふへへへへ」
怪しい笑い声を立てながらの自画自賛は、深夜の施術で自己肯定感の上昇効果が認められる(俺調べ)。
ちょうどよく湯気を噴き出し始めた蓋を取って、程よく火の入ったフライパンの中身をかき回す。
いいじゃん、軽く焼き目もついて。
全体が十分に加熱されるようにもう一度蓋をして、その間に卵だ。
溶き卵を作るのも面倒だし、あとからかき混ぜればほぼ一緒だろ。
肉に火が通ったのを確認してから、卵を割り落とす。
白身に火が入る前にぐちゃぐちゃにかき混ぜて、もう見た目はチャーハンだ完璧。
最後に、中火にしてから具材を広げて、ぱらっと水分を飛ばしている間に、電子レンジでお湯を沸かし、わかめスープの素を入れる。
野菜もクリア。
「はは、いや俺って偉いな……夜の12時に帰ってきてから、ちゃんと夕飯食べちゃうんだもんな」
白いお皿に炒めご飯を盛り付けて、台所の電気を消す。
洗い物とかそういうのは全部明日だ。任せたぞ明日の俺。
「洗い物と洗濯と風呂とゴミ捨てと、あとバイトな……。夕飯はちゃんと食べとくから」
水筒に残った麦茶を飲み干してから、ローテーブルの前に座る。
「じゃ、いただきます」
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