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辻村深月『傲慢と善良』読書感想文

辻村深月『傲慢と善良』読書感想文

私は要領が悪いアラサーの恋愛ものを好きになりがちです。

例えば、後半の展開が『傲慢と善良』に似ている映画『寝ても覚めても』、綿矢りさ『勝手にふるえてろ』とその映画版、そして新作公開のたびにTwitterで阿鼻叫喚の起こる冬野梅子『まじめな会社員』。

なので『傲慢と善良』を好きになったのは自然の流れだったように思います。

しかし。いくらこの本が好きだからといって、作品を全肯定するつもりはありま

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綿矢りさ『意識のリボン』読書感想文

綿矢りさ『意識のリボン』読書感想文

人間は「自分が出てくる作品」を好きになるのだろうか。

『勝手にふるえてろ』に出会って以来、綿矢りささんの作品が好きだ。綿矢さんの書く登場人物のリアリティ、面白くてわかりやすい比喩表現、そして「これは私のことを変えているのか?」と思わせる女主人公の心理描写に惹かれる。

『勝手にふるえてろ』でヨシカが抱くイチへの執着、『ウォーク・イン・クローゼット』で描かれる早希の服へのこだわりと恋愛観、『私をく

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『翻訳 訳すことのストラテジー』読書感想文

『翻訳 訳すことのストラテジー』読書感想文

最近雑に扱っていた言葉の力について見直そうと思った。

大学受験での英単語丸暗記や物事のカテゴライズ化は、導入や基礎理解には役に立つ。例えば高校生の頃、英単語帳をぼろぼろになるほど読み込んで、「この単語の類義語は〇〇と△△だ!」って頭に叩き込んだものだ。

感情を伴わない簡易文書確認くらいならそれで事足りたのだけど、政治や歴史の記録、文学の翻訳になるとそうもいかない。その実例や「翻訳」について書か

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今村夏子『こちらあみ子』読書感想文

今村夏子『こちらあみ子』読書感想文

恥ずかしながら映画《花束みたいな恋をした》(以下:花恋)で初めて今村夏子という人を知った。

花恋は悲しいくらいに刺さらなかったけれど、花恋の中で麦くんと絹ちゃんが言う「「ピクニック」を読んで何も感じない人間」とは何なのかが気になって読んでみることにした。

読者は神の視点になれない『こちらあみ子』は「こちらあみ子」「ピクニック」「チズさん」の3作品でできている。

結論として、自分は前述の「「ピ

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『暇と退屈の倫理学』感想文

『暇と退屈の倫理学』感想文

人からもらった本が、今年読んでよかった本の暫定1位になるなんて思ってなかった。

この本は2020年以降を生きる我々、すなわちステイホームとSNSが切り離せない人間に必要な本ではないだろうか。

ステイホーム万歳人間の不幸などというものは、どれも人間が部屋にじっとしていられないがために起こる。部屋でじっとしていればいいのに、そうできない。そのためにわざわざ自分で不幸を招いている。(p.36引用)

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燃え殻『これはただの夏』読書感想文

燃え殻『これはただの夏』読書感想文

※この感想文はネタバレを含みます

久々に電子書籍ギャンブルに負けた。読了後の胸をぎゅっと掴まれる感覚が心地よくて、この本は紙で手元に持っておきたい本だった…って後悔した。

別れと優先順位幸せで温かくて「これがこのまま続けばいいのいな」って思うものほど、終わりは突然に、あっけなくやってくる。ほんの些細な別れの予兆はあったかもしれないけれど、それはこの作品で描かれるように俯瞰しないかぎり見えないも

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