見出し画像

綿矢りさ『意識のリボン』読書感想文

人間は「自分が出てくる作品」を好きになるのだろうか。

『勝手にふるえてろ』に出会って以来、綿矢りささんの作品が好きだ。綿矢さんの書く登場人物のリアリティ、面白くてわかりやすい比喩表現、そして「これは私のことを変えているのか?」と思わせる女主人公の心理描写に惹かれる。

『勝手にふるえてろ』でヨシカが抱くイチへの執着、『ウォーク・イン・クローゼット』で描かれる早希の服へのこだわりと恋愛観、『私をくいとめて』文庫版で金原ひとみさんが解説しているような「みつ子力」、などなど。名作・名文数多くある中で綿矢さんの作品に特に魅了されるのは、綺麗事じゃない自分に出会うことができるからだと思う。

『意識のリボン』でもやはり、自分に出会うことができた。短編「怒りの漂白剤」はここ1年くらいの脳みそスキミングされたんじゃないかと思うくらいのリアルさ。実際に怒って殴り書きしたらこんなに読みやすくわかりやすい文章になるわけないのに、まるで誰かの怒りに任せた思考回路をどこかに写しとったみたいで、衝撃的な作品だった。

太宰?芥川?どの作品か忘れたけど、「ある作家のファンが作家のところに「これは自分のことが書かれてる作品です」って言いに行ってあしらわれる話」があって、綿矢さんの作品を読むとそのファンの気持ちにさせられる。

支持者の中に「自分の中に登場人物や描写と同じものを感じる!」と思う人が一定層いるはずだし、特別だけど共感させる表現をするのがプロの技術だとわかっているけれど、それでも引き込まれる文章力に感動する。

まだ読んでない方はぜひ『意識のリボン』で自分事みたいな思考回路に出会ってほしいし、綿矢さんの文章力に圧倒されてほしい。


この記事が参加している募集

#読書感想文

188,902件

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?