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【後編】企業の人材育成の悩みをゼロにする『人材育成マネジメントの教科書』 ~社員も企業も成長する人事評価制度と人材育成面談のコツ~

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人材育成面談

人材育成面談の9つのコツ

人材育成面談のコツを9つ紹介します。

①人間は誰でも成長しようという力を持つと信じて関わる。

②面談の冒頭で上司は部下と信頼関係の構築を行なう。

③上司は部下(人)に興味をもち、出来事(事実や内容)だけではなく、そこで、その人が感じたこと、考えたこと、意味づけも含めた「経験」を部下に十分に話してもらう。

④上司は、部下の話をうなずいたり、あいづちを打ったり、相手が発したキーワードを繰り返しながら聞く。

⑤上司は部下の話の途中で自分の考えを言わない。上司は部下に話の要約と感想を伝え、部下自身に自己理解を促す。

⑥上司は部下に「ありたい自分」(成長の方向性)の確認を行なう。

⑦上司は個人へ組織として期待する役割・仕事レベル・能力を伝える。

⑧上司は部下に自分の「興味」「能力」「価値観」を軸にして「ありたい自分」に向かって、自分の仕事や生活の中で、どのように行動していくのかということを考えてもらう。

⑨上司は部下と「個人の行動計画」を設定した後、部下が実際に行動してみた感触を確認しフォローを行ないながら実施する。

人材育成面談の9つのコツは覚えてください。その中で重要となる面談のポイントは、社員に自己理解をしてもらったあとに、社員にキャリアプランを具体化してもらうことになります。

面談のポイント:社員の自己理解

 人間は、自分らしさ(興味・能力・価値観)と仕事がマッチングしていればしているほど、やる気を持って活き活きと働ける。これがドナルド・E・スーパーの理論になります。

「興味」とは、実際に何をやりたいのか、何にワクワクするかです。

「能力」(強み)とは、何が得意なのか、どんな能力を活かしたいと思うかです。

「価値観」とは、何をしている自分がいいと思うか、自分が大事にしているものになります。

人間は「自分らしさ」(興味・能力・価値観)が活かされているとき、モチベーションが高まり、生産性が上がります。この時、人間は主体性を持って働くことができ、やっていることに満足感や充実感を持ち、組織に役に立っている、勉強してキャリアアップを図り、もっと組織に貢献して行こうと考えるようになるのです。

<人材育成面談ポイント①>

「今までで最もやりがいや達成感を感じた仕事や出来事は何ですか?」「自分の過去を振り返ったとき、いつからですか? もっと詳しく教えてください」「その時はどのような感情でしたか?」と問いかけます。

上司は、部下(人)に興味を持ち、その人の話を傾聴し、話を深め、話し手の内省を深めていくことがポイントになります。

面談のポイント:社員のキャリアプランの具体化

 キャリアプランの目的は、仕事や能力開発に目的意識を持って取り組むことができるようになることです。

たとえば10年後どうなっていたいのか、キャリアビジョンを描いてもらう。そして、現在の仕事などの振り返りを行ない、どうすればキャリアビジョン(描いた将来像)に近づくことができるのかを考えて個人の行動計画を作成してもらうことになります。

<人材育成面談ポイント②>

組織が個人へ期待する役割・仕事レベル・能力を伝え、「先程出てきた興味、能力、価値観を軸にして、今後こういう仕事をしたい。こういう能力を伸ばしたいと思うことは何ですか?」と問いかけます。

社員が成長するための目標に向かうために、どういう行動をすればよいのか、組織と個人の成長の方向性を合わせたキャリアプランの作成支援を行なうことがポイントになります。

人材育成面談の実際の活用方法

若年層・ミドル層・シニア層のキャリア形成の留意点

 若年層(新卒社員~34歳)は、仕事をするうえでの基礎的な知識やスキルを習得する時期です。仕事をするとき、「自分に与えられた仕事や置かれた状況は全て自分の糧になると信じて前向きに取り組む」、「新しい仕事ができる機会を得たときに確実にモノにする準備をする」ことが大切な時期です。また、30代前半までは、自分の専門領域を見極めながらキャリア形成の方向性を模索し、ミドル層で活躍できるように準備をする時期になります。仕事をするとき、「キャリア形成の主体が自分自身である」ことを強く意識し、「自己分析を行ないながら適性や専門性を模索する」ことが大切です。

ミドル層(35歳~54歳)は、30歳代前半に見つけた自分の専門領域を深堀していき、仕事のプロフェッショナルとして、社外でも通用する知識やスキルを習得する時期です。仕事をするとき、自分の強みや弱み、今までの培ったスキルなど、今までの仕事経験を振り返りながら「自分の将来像をイメージして、それに向かうために、どんな行動を起こすのかを考える」ことが必要です。「企業と自分の双方にプラスとなる、キャリア目標とその課題を自分の頭で考える」ことが大切になります。

シニア層(55歳以降)は、これまで身に着けた専門性を活用しながら、組織の中で重要な役割を発揮し、人生において後輩たちのお手本として過ごす重要な時期です。仕事をするとき、人生100年時代を前提にして、「仕事や立場が変わっても働き続けることの大切さを自覚し、今までの経験と保有するスキルをブラッシュアップしてこれからのキャリア・生きがいを考える」ことが大切になります。

人材育成面談を行なうとき、若年層・ミドル層・シニア層の留意点を念頭に置き、人材育成面談のコツを活用し、社員と企業の成長の方向性を合わせることが非常に重要です。目標設定面談で社員と企業の成長の方向性を合わせた目標を設定します。そして、毎月の中間面談で進捗確認や悩みをフォローし、フィードバック面談ではメンバーに次期の課題や成長するための目標を明らかにする。人事評価制度の運用の中で、継続して計画的に人材を育成していきます。

目標設定面談の事例(32歳、男性、営業職、係長、独身のAさん)

 人材育成面談の9つのコツ、その中で重要となる人材育成面談の2つのポイントをお伝えしました。実際に管理職候補の方の目標設定面談の事例に沿って、それらを活用するための具体的な方法をお伝えしていきます。

上司:今日の面談は、Aさんが成長したい方向性を確認し、会社がAさんに期待する成長の方向性を伝え、Aさんと会社の成長の方向性を合わせた目標を設定する場です。ここでの話は守秘義務を守りますので、本音でお話を聞かせてください。

部下:はい、お願いします。

上司:Aさんが今までで最もやりがいや達成感を感じたときは何ですか?

部下:改善提案を遅くまで検討し頑張ったときです。

上司:そうなんですね。改善提案を遅くまで検討し頑張ったときなんですね。

→上司は、部下との信頼関係を構築するため、部下の話を「うなずく」「あいづちを打つ」「相手が発したキーワードを繰り返す」いわゆる「傾聴」をしながら聞きます。

部下:はい。

上司:そのときの話をもう少し聞かせてください。

部下:顧客の困っていることを聞き出し、改善提案を遅くまで検討し頑張った結果、それが実際にお客様の役に立ち、お客様から「ありがとう」と言われたときです。

上司:そのとき、どういう気持ちでしたか?

→上司は、出来事だけではなく部下が感じた「経験」を十分に話してもらいます。

部下: すごく嬉しかったです。

上司:そうなんだ。Aさんはお客様から喜んでもらうことが大切なんですね。

→上司は部下に話の要約と感想を伝え、部下に自己理解を促します。また、上司は部下に「ありたい自分」、成長の方向性の確認を行ないます。

部下:はい。その通りです。

上司:Aさんが大切にしている「お客様から喜んでもらうこと」を軸にして、今後こういう仕事をしたい。今後、こういう能力を伸ばしたい」と思うことは何ですか?

そのために、どういう行動をしたいと考えていますか?

→上司は部下に「ありたい自分」に向かって、自分の仕事や生活の中で、どのように行動していくのか考えることを促します。

部下:営業の仕事を通じて、お客様の役に立ち、お客様に喜んでもらう仕事をしていきたいと思います。でも、具体的にはイメージできません。

上司:Aさんには、今後、個人の営業成績よりも将来の管理職候補としてリーダーシップを発揮して欲しいと思っているんです。

部下:将来は管理職を目指したいです。チーム力を通じて多くのお客様の役に立ち、お客様に喜んでもらう仕事をしていきたいと思います。しかし、人の統率に元々自信がありません。リーダーシップ能力を伸ばして行きたいです。

上司:そうなんですね。それでは、どのように行動すればよいのか、個人の行動計画を作りましょうか?」

→Aさんの個人行動計画の中で、今後、目標設定や実践力向上、部下の育成や指導力向上のための勉強をすることが追加されました。また、日常の仕事の中で何に留意し、何に力を入れていくのかについても考えてもらいます。そして、メンバーとの時間を増やし、特にメンバーが困っていることを共有し何ができるかを検討していくことや上司からメンバーとのかかわり方についてフィードバックをもらいながら学ぶことについても考えることを促します。

上司は部下に自己理解を促し、成長の方向性の確認を行います。そして、上司は部下に企業が社員へ期待する役割・仕事レベル・能力を伝え、部下の興味・能力・価値観を軸にして、今後こういう仕事をしたい、こういう能力を伸ばしたいと思うことを確認します。そのあとに、その成長の方向性に向かうために、どういう行動をすればよいのか、企業と社員の成長の方向性を合わせたキャリアプランの作成支援を行なうことがポイントになります。

目標設定を行なったあとは、上司が部下に毎月1回の中間面談で実際に行動してみた感触を確認しながら、進捗管理、悩みのフォローを丁寧に繰り返し行なっていくことがポイントになります。そして、フィードバック面談でメンバーに次期の課題や成長するための目標を明らかにする。このように人事評価制度の運用サイクルを回すことで、継続して計画的に人材育成を行なっていきます。

最後に、社員も企業も成長する人事評価制度と人材育成面談のコツを活用することで、企業と社員の成長の方向性を合わせながら、社員が自発的に仕事や能力開発に取り組むように成長し、企業も成長できるように変容します。

著者プロフィール

竹下友浩

人材育成コンサルタント。「人事に強いキャリアオフィス」主宰。
社員と企業の成長にコミットする「人材育成」のプロとして活躍。企業の経営顧問として、90%以上の社員のモチベーションアップを図り、5年後の売上高目標を大幅アップに変容させた実績を持つ。慶應義塾大学法学部卒業後、主に三菱商事グループ会社で人事制度プロジェクトリーダー、リクルートグループ会社では、本社人事部マネージャー等の立場で、人事系の経験と新規事業の立ち上げまで「企業の中枢」で経験を積んできたことが大きな強み。現在は企業の経営顧問や、佐賀商工会議所セミナーでは、キャンセル待ちの人気講師を務め、佐賀経済同友会の競争力ある産業・人財づくり推進委員会他委員として活躍中。

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