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『逆境・ピンチ・困難を克服する「レジリエンス超鍛錬術」 ~折れない心を育む好循環サイクル~』第1章・無料全文公開

1月26日発売の書籍『逆境・ピンチ・困難を克服する「レジリエンス超鍛錬術」 ~折れない心を育む好循環サイクル~』より、第1章「なぜ今、レジリエンス「折れない心」が注目されるのか?」を全文公開!

「やる気後進国」になった日本 

日本という国は、長い歴史があり、伝統的な文化も隆盛し、努力と勤勉さ、マナーのよさ、相手に対する「おもてなし」精神、そして戦後を経て高度経済成長を成し遂げ、経済大国としての地位を固め、飛躍的な躍進を遂げてきました。「1億総中流社会」などと呼ばれ、人々の生活水準もアジアでは抜きん出たポジションを得てきたのです。しかし、ここ数年来、日本では不安要素が伺えるようなデータが次々と発表されています。
 
まず人口面では2016年に総務省が発表した「情報通信白書」によると、日本人の人口は2050年には1億人を切ってしまいます。もちろん、経済活動において重要な労働力となる労働生産人口は、どんどんと減少していきます。さらには、年金保障の問題も高齢化が進むことによって現役世代の負担が非常に大きく、現状において将来の年金支給はほぼ耐えられない状況になってきています。
 
最近、私はセミナーや研修で必ず紹介するデータがあります。1つ目は2019年2月の日経新聞に掲載された記事で、アメリカのギャラップ社が139か国1300万人の社員を対象に、熱意あふれる社員ということで「仕事に熱意をもってあたれているか」という質問をしました。日本は139か国中何番目だと思いますか。日本は全体の6%、132位でした。
 
2つ目は2019年に、アジア太平洋地域を対象とした「APAC就業実態・成長意識調査」が行われ「将来管理職になりたいか」また「自分の会社で出世したいか」というアンケートを実施していています。日本はどれぐらいの意識ポジションにいると思いますか。インド・ベトナム・フィリピンは80%以上が「管理職になりたい」と思う人がいるのに対し、日本は21.4%で14位、「出世したいか」の回答結果は、5段階評価で、2.9%という低い数字でした。
 
3つ目は2018年に、内閣府が我が国と諸外国の若者の意識調査を行った中で、「自分に満足しているか」「自分に長所があるか」という自己肯定感に関する質問項目で日本の若者の意識は、諸外国とどれぐらいの差があると思いますか。「自分に満足しているか」の質問に対し、欧米諸国は70~80%は満足している、日本は45.1%。となっています。

こうしてみると、日本の若者を中心とした社会を取り巻く環境・状況が全体的に「やろう!」という前向きな意欲を失っている、いわゆる「やる気後進国」になってしまった、そんな状況が垣間見えます。一方で学力面においてもOECDが実施している79か国15歳60万人を対象とした国際的学力調査の結果では、日本は世界トップレベルを維持しつつも、科学的応用力は5位、数学的応用力は6位、そして読解力は15位という結果でした。

まさに今の日本が経済面や教育面そしてメンタル面の観点において迷走している、光の見えないそんな暗闇の中をさまよい歩いているように感じられるのです。また2020年9月にはユニセフが発表した精神的幸福度の調査において、驚くべき数字が発表されました。38か国中日本は精神的幸福度が37位という結果です。
 
このようなデータ結果を「あー、そうなんだ」と受け止めるのか、いやいや「これから先どんどんと上位を目指す、いいきっかけになるんだ!」と受け止めるかは、皆さんの受け止め方次第です。データ結果をまさに結果として受け止めることで終わるのではなく、ここから何を学び、そして何をしていくことが今後の自分たち自身の幸福ある生活につながっていくのか、紹介したデータから読み取ることが大切だと思います。
 
1990年代前半バブル崩壊後、日本は失われた30年とよくいわれます。しかし、だからといって、このまま日本という国が坂を転げ落ちるように忍びない姿になっていくのか、それとも見事に回復力を発揮して新たな上昇気流に乗っていくのか、まさにコロナ禍の2年間で学んできたことを教訓にし、2022年という年は大きなエポックとなる年だと思います。そこへ2022年2月、ウクライナへのロシアによる侵攻が起こり、世界は冷戦以降としては大きな分断が進み、緊張感も高まっています。

おそらく私を含め読者の皆さまの多くは、今の日本がこのままの状態でいいとは誰もが思っていないでしょう。今後の日本は、さまざまな環境において逆境と困難な時代に突入し、そこから脱却するための、苦しいもがきの時代が続くことに気がついているはずです。
だからこそ今、どんな逆境や困難であっても、そこから這い上がり立ち直っていく回復力=レジリエンスが注目され、個々人においても、組織においても必要な力であると認知度が高まってきているのです。
それでは、そもそもこうして苦しい状況に日本が突入した社会的背景を、もう少し掘り下げて見ていきたいと思います。

バブル崩壊が日本社会混迷の扉だった

1945年8月15日、日本はポツダム宣言を受諾し、太平洋戦争の敗戦、そしてGHQの統治下に入りました。この後、日本は戦後復興とGHQ統治からの独立を目指し、民主国家としての道を歩むことになります。とくに1950年代朝鮮戦争をきっかけとした特需景気を足がかりに各産業の復興と発展、そして1960年から70年代には1964年の東京オリンピック開催をはさみ高度経済成長、さらなる経済発展に移行し、アメリカに次ぐ2番目の経済大国のポジションにまで上り詰めたのでした。
 
この時期の日本社会は、国民の意識も明るい未来がこの先にも続いていく、右肩上がりの拡大拡張路線の雰囲気に包まれていました。おそらく夢や希望に満ちた時代であったといえるでしょう。そしてそのピークを迎えたのがバブル景気であったといえます。
 
ここで簡単に、バブル景気について触れておきたいと思います。日本のバブル景気は、おおよそ1986年12月から1991年2月までの約5年間です。バブル景気とは、資産の価格が投資によって実体経済とは大幅にかけ離れて成長し、膨張する経済状況のことをいいます。きっかけは先進国の間でアメリカのドル高の是正を目指した、1985年9月のプラザ合意からです。これにより急激にドルが安くなり、1986年1月には1ドル200円を突破しました。公定歩合引き下げにより、日本国内では土地の売買が活発になり、土地の値段が急速に上がりはじめました。土地の取引売買を繰り返すだけで利益が得られるようになったのです。いわゆる財テクですね。
 
ところが1987年10月、ニューヨーク株式市場でブラックマンデーと呼ばれる株の大暴落が起こり、日本では本来、公定歩合引き上げをするべきでしたが見送ってしまいました。その結果、銀行に対する不動産購入をなるべく行なわないようにする、政府からの指導が入り、土地は売れなくなっていきます。しだいに土地の価格は下落に転じる状況となり、土地を担保にお金を貸していた銀行が、とてつもない不良債権を抱えることになっていきます。こうしてバブル経済が崩壊の一途に向かっていくのです。
 
バブル崩壊後、日本は「失われた20年」とか、現在も継続しているという観点で「失われた30年」と呼ばれる、先行き不透明な時代に突入していくのです。日本社会の混迷の扉がバブル崩壊によって開かれたと認識してもいいでしょう。1990年代に入ると、政治的にはそれまで自由民主党と社会党による55年体制が続きましたが、1993年衆議院選挙で自民党と社会党が敗北し、非自民党で結びついた細川連立内閣が誕生し、いわゆる55年体制が崩れます。
 
しかし、それも1年ちょっとで細川内閣が倒れ、新たに自社さ(自民党・社会党・新党さきがけ)連立というかたちで自民党が与党に復帰するも、不安定な政治情勢が続きます。一方で、野党もいくつかの小政党が結集し、新進党を結成。これが後の民主党に発展し、二大政党制の実現に向かっていくのです。社会的に見ると1995年1月阪神淡路大震災が起こります。関西都市部に起こった未曾有の震災により、多くの犠牲者とそして経済的な影響も非常に大きく影を落としました。それから2か月後には、オウム真理教による地下鉄サリン事件が発生します。このオウム真理教による一連の事件により、高学歴な若者たちが狂信的な宗教にのめり込んでいく、社会病理的な側面が大きな社会不安を生み出しました。
 
一方バブル崩壊により、日本経済は停滞状況に陥り、価格も下落傾向となり、デフレ社会になっていきます。雇用情勢も悪化し、新規卒業の新入社員の採用を控える企業が増える一方で、賃金を低く抑えられる非正規雇用の人たちを採用する企業が増えていきました。こうした経済の停滞状況の中で、企業の雇用体制も日本企業の伝統的な終身雇用制が崩れ、アメリカの成果主義を導入する企業が増えていきました。
 
スキルの高い人材をヘッドハンティングする、単なるデスクワークのような、それほどスキルを必要としない仕事については、派遣や非正規というかたちで採用していく、いわゆるジョブ型の雇用体制に移行し、このような雇用形態が定着するものと思われていました。しかし結果としては、日本企業の風土や雇用体制には合わず、現在も働き方に対する企業側の努力というものが続いています。
 
さらに、リストラも多くの企業で行なわれ、完全失業率も1991年が2.1%だったのに対し、2001年には5.4%に達するという、非常に高い数字まで跳ね上がりました。また若者も就職後3年で退職をする人たちが増え、3年で退職する離職率が30%を超えるというような結果も厚生労働省の調査で出ています。正規非正規問わず、働くことに対する意識意欲というものが非常に削がれてきた背景が、厚労省のデータなどからも垣間見えます。
その背景には、将来に対する見通しのできない不安、怒り、諦めというものが、このバブル崩壊後に蔓延増大していったといえるでしょう。さらに少子高齢化、そして女性活躍を推進しながらも変わらない社会状況、そして老後の年金に対する不安、教育にかかる資金増大や教育格差の問題など、数多くの社会生活に関する不安要因が大きくのしかかっています。
 
この失われた30年において早くから叫ばれながらも、ほとんど打ち手がその場しのぎの対応できてしまったのが、少子高齢化の問題ではないでしょうか。すでに1990年代から日本の少子高齢化は問題視され、マスコミなどでも大きく報道されてきました。ところが、待機児童の問題や夫の給与のみでの生活の難しさなどから、女性も共働きをせざるを得なくなり、家庭収入が減る中で出産したくても難しい環境が広がりました。結果として、女性の生涯出生率もどんどんと下がっていき、高齢化へのスピードが加速していきました。
 
厚労省や内閣府による人口推計から、2050年には日本の総人口が1億人を割るという試算が発表されています。そのうち15歳から64歳の労働生産人口は、どんどんと減少していくことになり、しいては年金を支える主たる現役世代も、この先どんどん減っていくという大きな問題が生じ、年金制度もこの先維持ができるのかどうか大変大きな議論になっています。
一方で、労働生産人口がどんどん減っていくということを念頭に、安倍政権下で女性活躍推進を進めることを表明しました。女性の管理職登用を促し積極的な女性採用と、夫も対象にした育休取得のスローガンを掲げましたが、結局子どもを預けられる保育所それから幼稚園を含めた施設対応が進まず、多くの待機児童を生むという問題が起こります。また男性が育休を取得することへの一種の偏見なども見られ、女性の働く機会というものも鈍化しています。翻ってみると、人手不足となっている大変な肉体労働を要する現場には、外国人労働者が登用されるという現実を目の当たりにしています。
 
少し先の将来に希望の光が見えることで、もちろん、若者も含めた社会全体が明るい雰囲気に向かって行くことができると思います。ただ現状は、日本社会全体がその先に見える希望の光を失っているように感じます。これからの社会は世界的にも働き方や経済、社会生活全般で大きな変化を余儀なくされるでしょう。
 
一人ひとりが今までどおりの価値観から変化を素直に受け止め、そこから自分自身の人生をどのように導き、幸福感を感じて仕事やプライベートに生かしていくか。苦難や逆境の中で自己の存在を大切に育てていく感情調節が大切かつ幸福感をもてる大きなヒントになっていきます。ところが、2020年の日本を含め世界的な新型コロナウイルス感染症のパンデミックが発生し、さらなる予測不能な時代に突入していくのです。

コロナ禍は逆境・困難を乗り越えるひとつの試金石

2019年12月1日に中国の湖北省武漢市で、最初の新型コロナ感染者が確認されて以降、瞬く間に未曽有のパンデミックとなり、世界各国が震撼する事態となりました。
日本国内では、2020年1月中旬に国内で初の感染者が確認されたが、まだそれほどの深刻さは感じられませんでした。1月30日にWHOが「国際的な緊急宣言」を発表。そして2月3日にクルーズ船が横浜に入港し、乗船者が下船できない状態が連日報道で伝えられ、船内での感染者数が増加するニュースと、2月中旬に国内で初めて感染者の死者が出て、2月27日に安部首相(当時)が全国すべての小中高校に臨時休校の要請を行ったことで、日本国内でも企業が在宅ワークやテレワークを推奨する動きが加速。そして3月29日に人気コメディアンの志村けんさんが新型コロナウイルスによって死去されたニュースは、大きなショックを日本国民に与えました。
 
4月7日に7都府県に対し「緊急事態宣言」、4月16日には「緊急事態宣言」を全国に拡大し、5月4日までが5月30日まで延期され、ビジネス街や繁華街では人の姿がほとんど見られず、社会生活や経済活動に大きな停滞を引き起こすことになります。2021年8月においては第5波が猛威を振るい、ワクチン接種がようやく進みながらも、「デルタ株」への置き換わりで、新規感染者数が全国で2万人を超える日もありました。とくに自宅療養を余儀なくされ入院も困難な「医療逼迫」状態となり、地域ごとの野戦病院、いわゆる地域ごとの大規模臨時医療施設の設置などが叫ばれている状況でした。2022年になると「オミクロン株」が猛威をふるい、現在も我々の社会生活に影響を与えています。
 
私自身も、この新型コロナウイルス感染の影響を当然受けることになりました。
2019年10月に、私はそれまで所属していた会社を退職し、セミナー講師として独立しました。2020年に入り、ようやく仕事の道筋が見えかけてきたとき、まさに新型コロナウイルスの感染が日本でも広がり、3月から5月に決まっていた研修セミナーがすべて中止延期になりました。まさに途方に暮れるというのはこのことです。一瞬目の前が暗くなりましたが、逆に発想の転換をしました。
 
どうせ時間ができるのなら、今までできなかったことにチャレンジすべきこと、そこに注力しようと思ったのです。そこからは、コロナ減少後でも人と接することが難しくなるのは必須と思い、オンラインでの研修が増えるはずと、ITスキルのない私もオンライン対応へのスキルを学んだり、これからは「逆境・困難」な社会状況が深刻化するとも思ったので、「レジリエンス」を深く学び、広めていきたい、そのためのカウンセラー資格も取得しました。そう考えると、私自身も先行きの見えない大きな不安の渦に落ちそうになりましたが、幸いにもあらためて「自分を整える」時間をもてたことが、次への行動を起こすきっかけにもなりました。
 
前節でバブル崩壊をきっかけとした、日本社会の混迷について触れてきました。それでなくともVUCAの時代に、まさに当てはまる日本。そこに全世界的なコロナ禍が暗雲のように覆っている現在。各世代から「これからの日本に楽しいことなど待っていない」「バブル時代が日本のピーク。我々は何の根拠もなく、ツケを払わされているだけ」「コロナの影響で仕事もプライベートも先行きが見えず不安しかない」という声が数多く聞こえてきます。
 
たしかに、こうした不安に傍観し、無関心で何も動かないのであれば、想像もしたくない社会に突入してしまうでしょう。しかしこのコロナ禍だからこそ、対応の仕方次第では今に即した社会システム構築へのつくり替えのチャンスにもなるでしょう。どんな環境でも発想の転換と人間力・行動実践で好機に転じる可能性が広がります。これまでも、社会の変化をチャンスと捉えて新しい取り組みをはじめられた例は、いくつもあります。
 
タイミング的なことも当然ありますが、2020年以降のコロナ禍というのは、あぶり出された日本の逆境・困難を今後乗り越えることができるのかどうか、大きな試金石になることは間違いないことと考えます。だからこそ、一人ひとりがレジリエンスとは何かを知り、レジリエンス力を高めることによって、一人ひとりの生活が真の意味での幸福に満たされる社会にたどり着く。これからの時代に必要な人間力の要素のひとつがレジリエンスだと、私は思っています。
 
今後の日本社会について、「働き方」「学校・教育」「家族生活」といった観点から少し考えてみましょう。

仕事・教育・家族間の不透明性と自分

「働き方」においては、コロナ禍で急速に進展したことが2点あります。1つは、DX(デジタルトランスフォーメーション)の企業への浸透。もう1つは、人との非接触が推奨される中でAIロボットやIoT技術の推進です。DXが急速に浸透する中で在宅ワーク・テレワークを導入する企業が増え、デジタルシステムを多く導入することによって、今までよりも効率的な業務や組織運営を行うようになりました。またAIやIoT技術が導入されることで、接客業やデータを組めるような業務は機械に取って代わられる動きが急速に進んでいます。
 
ただ大きな問題は、労働生産人口の減少という、どうにも隠せない現実です。将来的には現役世代だけではなく、65歳以上のシニア世代の労働力も必要になりますし、外国人労働者の労働力にも頼らざるを得なくなってきます。そして定年制に対する考え方もこれからは大きく変わってきます。人生100年時代と考えれば、会社勤めを終えた後でも、自分で自らのスキルで仕事をし続けることが可能になるでしょう。ある意味でいうと、組織に依存するような働き方では、これからは生き残っていくことが難しくなるのではないでしょうか。
 
次に「学校教育」についてです。元来日本の学校教育については、一律平均的な学習知識を生徒たちに求めるような、画一的なカリキュラム教育に対する限界を感じている声も多く聞かれます。そうした中、2020年は新学習指導要領の導入による、教育改革元年ともいわれていました。しかしコロナ禍によって、学習の機会均等がにわかに崩れてしまったという問題点も出てきました。それはオンライン授業を実施するにあたり、私立学校と公立学校では、その施設設備に大きな開きがありました。そこに教育の格差が如実にあらわれることを目の当たりにさせられたのです。学生間や教員とのコミュニケーションにおいても、大きな弊害となりました。
 
私見ですが、義務教育における基本的な学力をつけることを最低条件としながら、将来的には、それぞれの自治体レベルでその地域に根ざした教育施設の充実や、分野ごと(技術であったり、芸術であったり)の専門知識を高める学校施設の創造がなされてもよいのではないでしょうか。
また正解のない時代を生き抜くための、正解のない課題について考え、意見を交わしあうアクティブラーニング思考というものが強く求められるようになると思います。そして何よりも「学校に行かなければいけない」という既成概念も、それぞれの子どもたちに合った育て方を考えれば、疑問視される意見も俄然注目されるでしょう。
 
最後に、「家族生活」という観点で見ると、男女ともに晩婚化が進み、とくに女性の出産時期も高齢化しているという現実です。まさに少子高齢化の大きな一因と考えてよいでしょう。この問題は女性が生活する環境、それは結婚した場合の妻や母親となる女性に対する、社会的なバックアップ体制というものが今後しっかりと構築されないと、解決の糸口が見えず、ますます社会構造として非常に厳しい状態になっていきます。
 
それにはとにもかくにも、男性側の意識が変わらないことには、根本的な仕組みやシステムの変化につながりません。いまだに「家事は女性が行うもの」「職場では重要なポストは男性がつくもの」といったような意識は厳然としてあります。男性も女性も子育てや介護の問題について平等に考えていかないと、女性側の負担ばかりでは体力的精神的にも、とてももたないという現実を突つけられているのです。今後は晩婚化していく中で、いかに女性側、妻・母親の皆さんが元気に生活をできるかという観点で、子育ての環境やシステムを考えていくことが不可欠になるでしょう。とくにコロナ禍を機に、よりよきパートナーとして、家庭で過ごす時間を有意義に、リラックスしてお互いに癒しあえる関係を築くことです。
 
誰もが不安の中で模索しているコロナ禍によって、今までとは違う変化を余儀なくされる生活が、まだしばらくは続きそうな中で、何よりも大切なことは「自分」を今まで以上に大切にし、見つめ直す。そして「自分」こそが大切。「自分」がこの先いかに幸福感に包まれて生活していくことができるか、という感覚や感情をもって明日への一歩を進めることができるかが、社会全体の幸福につながっていくはずなのです。

自己肯定感と折れない心=レジリエンス

「最近の若者はキレやすい」「注意やアドバイスをすると、逆ギレする」など、若者が諦めやすく、落ち込みも激しい、反発しやすく、すぐに感情的になる。こうした声は、職場の年配者や上司、また一般論として、社会人の先輩が若者に対して評価する際に、よく出てくる常套句です。しかし、こうした傾向は果たして若者だけに見られることでしょうか。私は実際に経験したことも含めて、「キレやすい」「イライラ感」を漂わせている30~40代、シニア世代にも最近非常に多く見られるように感じています。
 
今は日本社会全体でイライラ感があちこちに蔓延しているように感じます。先の見えない不安の中で非常に苛立っている傾向は、年代問わず強く感じられるのです。とくに新型コロナウイルス感染拡大後の社会において、同調圧力とか自粛警察とか自分自身こそが正義であるという考えのもと、ターゲットを徹底的に批判し糾弾する風潮も非常に強まりました。コロナ以前にも、ネット社会では炎上という名目で特定個人を批判したり、時には言葉の暴力以上の攻撃を加えたりする問題がありました。
新型コロナウイルスの感染拡大によって、大きな社会変化が余儀なくされ、我々一人ひとりの感情も大きく揺さぶられ、イライラ感や絶望感、そして先行き不透明な状態に対するやり場のない怒り焦燥感、そういったものが今まさに社会全体を覆っている、そんな状況です。だからこそレジリエンス力を高めることが、今後の生き方への大きな地力につながると思います。もうひとつ重要な概念として、自分というものにあらためてフォーカスする「自己肯定感」も非常に大切であることを、ここで少し触れさせてください。
 
アメリカでは自尊心(セルフエスティーム)の研究が進んでいて、自己肯定感と同意語で訳されることがあります。しかし今では、アメリカでも自尊心に対する評価は極めて低く、日本で生み出された自己肯定感という言葉での研究が近年、非常に活発になってきているのが現状です。
 
とくに、日本の若者は、韓国などと並んで、自己肯定感が低い結果がいろいろな調査で散見されていて、教育界においても、知識を吸収することも大切ではあるが、非認知能力(数値化できない「生きていくために必要な能力」。自分を動機づける能力、自分を信じる能力、自分の感情をコントロールする能力など)を身につけることで、自己肯定感を引き上げることが何よりも大切である、という主張もされています。
 
相対的に自分のことをどう捉え、どう感じているかによって決まる、自分の価値や存在価値に関する感覚、「自分というものを肯定的に捉える感覚」「ありのままの自分を受け入れる感覚」、こうした自分を包括的に包み込む感情や感覚を自己肯定感に含まれる概念としています。他人のことを思うことも大切ですが、まずはじっくりと自分という存在そのものを見つめ直し、そして自分をしっかりと受け止める。このコロナ禍の非常に混沌とした状況の中で、もう一度自分自身を見つめ直す機会というものを、一人ひとりしっかりともつことが大切になってきます。
さらにいうと、自己肯定感が高まることでレジリエンス力も高まってくるのです。その意味では、自己肯定感を自ら高めていくことは今後非常に大切な要素になってくるでしょう。それではここで、自己肯定感が包括する自分自身を肯定する感情について、いくつかご紹介いたします。
 
①自尊感情
自分には価値があると思える感覚。自己肯定感・自尊心と同意語でもある。欧米と比べると、日本人は「自分に満足している」と感じている人の割合が少ないのです。
 
②自己受容感
ありのままの自分を認める感覚です。この自己受容感は、自分のよいことも悪いことも長所も短所も含めて、すべてを受け止めるという意味で、自己慈愛(セルフコンパッション)に近いものといえます。
 
③自己効力感
自分にはできると思える感覚。「自分はできる!」「やればできる!」という感覚を伸ばすには、自分の得意分野から研ぎ澄ますのが手っ取り早いでしょう。この感覚は、レジリエンスにとっても重要な要素になります。
 
④自己決定感
自分で決定できるという感覚。心理学の世界で、モチベーションという言葉は動機づけともいわれます。そして動機づけには大きく分けて、内発的動機づけと外発的動機づけの2種類があります。もちろん、内発的動機づけのほうが幸福感が高まり、モチベーションが向上することはいうまでもありません。
 
⑤自己有用感
自分は何かの役に立っているという感覚です。自分という存在が、周囲の人たちや関わるコミュニティで「役に立てている!」と感じられるのは、自分自身の存在を強く肯定的に捉えられます。「社会」の中の「自己」を感じられて、安心感がもてることになります。
 
 
レジリエンスを高めていくには、もちろん周囲の人々の親身なサポートも必要不可欠ではあるのですが、やはり一人ひとりが、しなやかでかつ、苦難困難に直面しても回復できる術を身につけられることが大切です。
第2章において、レジリエンスの具体的な心理プロセスや「こころの筋肉」の鍛え方などをご紹介していきます。

あらためて「自分を整える」ことの大切さ

我々の生活は高度経済成長を経て安定経済、そしてバブル時代をピークとし現在に至るまで経済発展という名のもとに、多くの自己犠牲を払ってきた時代ともいえるのではないでしょうか。
 
2020年以降は、新型コロナウイルス感染拡大により、社会の景色が大きく変わりました。私たちの働き方も変わらざるを得ない状況になりました。今まで会社勤めすることが至極当然という意識の中で働いていた我々が、大きく認識をあらためざるを得ない状況に置かれたのです。大企業などでは出勤停止、テレワーク、在宅ワークが義務づけられるようになる企業も出てきました。要は、組織から離れて自宅や自分に限られた空間で仕事をするようなスタイルになってきたのです。
 
このような状況になったことで、あらためて自分というものと向き合う時間が皆さんもきっと多くなったのではないでしょうか。今までの働き方をしてきた自分と比べて、これからの自分の働き方のシーンについて、生活様式や人生の歩み方を含めて自分と向き合うことが多くなったのではないでしょうか。そこで私が皆さんにお伝えしたいキーワードは「自分を整える」ことです。
整えるという言葉に「間に合うように用意する。乱れのないように形をきちんとする。点検して望ましい状態にしておく」などの意味があります。体調を整える、精神を整える、時間を整える、働き方を整える、人間関係を整える。非常に幅が広いですが、これらのことをあらためて自分という軸で整えてみることが大切だと思います。
 
電通のコピーライターである梅田聡さんの書籍『「言葉にできる」は武器なる。』(日本経済新聞出版社)を読んでいて共感したことがあります。それは「内なる言葉」という概念です。「内なる言葉」というのは、外に発する言葉と分けて、自分の頭の中に生まれていることを「内なる言葉」と表現しています。梅田さんは自分と対話すること、これは内なる言葉を用いて考えたり深めたりするのと同義であると述べています。自分の頭の中で出てきた言葉で、自分自身と対話する。そのことによって、自分自身の言葉の整理、そして心の整理がしっかりできるということだと思います。
 
自分と対話をするという意味では、とてもよい方法があります。それは日記でも構いませんし内省文でも構いません。
重要なのは「書く」「黙読する」「声に出して読む」「聞く」。これらの行動を繰り返し行なうことで自分自身に向き合い、自分と対話をすることが可能になります。また他の方法でいえば座禅の経験をするとか、また趣味でヨガをやられている方は瞑想を行うなど、レジリエンスの要素にもあるマインドフルネスの瞑想法になります。
 
おそらく今までの生活または職場の中において、皆さんにとって一番しんどかったことは人と比較をしてしまうということだったのではないかと思います。
 
職場の中においていえば、
「それほど仕事のスキルに差はないのに相手のほうが出世をする」
「自分は認められていないのではないか」
また友達との関係においても、
「自分は人よりも友達の数が少ない」
「親身になって話せる友人の数が少ない」
など、どうしても人と比較をしてしまい、自分を卑下することも多かったかもしれません。
しかし今後、人との接触の機会や方法も制限されたり、変化をともなう社会になってきます。そう考えると、人と比較をするというシーンもまた変わってくることでしょう。だからこそ自分というものを見つめ、そして整え、磨きをかけていくことが、ますます大切になってくるのではないでしょうか。
 
それぞれのやり方で自分と向き合い、そして心も身体も環境も含めて、あらためて自分を整えるということが非常に大切になってくる、今はまさにそんな時代、社会になってきています。そして自分を整えようとする意識が強まれば、しっかりとした自分軸も固まってくるはずです。
 
自分軸が固まった後の人生というのは、やはり困難や逆境が訪れても、大きく乱れることは少なくなるでしょう。気持ちの振れ幅がそれほど大きな振れ幅にはならない、まさにレジリエンス力が高まる、そんな状態になれているのではないでしょうか。読者の皆さんも、ぜひいろいろな場面で、もう一度自分を整えるという機会を得て、自分に磨きをかけていただきたいと思います。

【第1章のポイント】

◆近年の各種データから、日本の社会が「やろう!」という前向きな意欲を失っている「やる気後進国」になってしまったことがうかがえる。このデータの受け止め方次第ですが、ここから何を学び何をしていくことが今後の自分たち自身の幸福ある生活につながるか感じ取っていくことが大切です。
 
◆バブル崩壊後以後、日本社会が浸っていた「右肩上がりの幻想」に暗雲が広がります。経済不安、労働環境の変化、少子高齢化の問題など、先行きの見えない「不透明な30年」と叫ばれた中で、社会変化、価値観変化を感じながら、いかに自分の存在を大切に育てて幸福感をもてるようになるかがカギになります。
 
◆新型コロナの蔓延による心理的不安は大きな影響を与えている。ただ対応の仕方次第では、今に即した社会システム構築へのつくり替えのチャンスにもなるでしょう。2020年以降のコロナ禍というのは、社会システムを含めてあぶりだされた日本の逆境・困難を乗り越えることができるか、大きな試金石になることは間違いないでしょう。
 
◆仕事(働き方)・教育・家族という観点で見ると、すでに「既存システム崩壊」の岐路に立たされていると思います。一人ひとりの幸福感を導き出せる社会構築も大切ですし、自分がどう向き合うかも問われてきます。
 
◆日本社会で強く感じる「イライラ感、ギスギス感、焦燥感」。不安要素を含む空気感をぬぐっていくにはレジリエンス力を高めることが必要であり、さらに重要なことは「自分」というものにあらためてフォーカスすること。そして自己肯定感に含まれる、さまざまな感情に向き合うことで、よりレジリエンスが高まります。
 
◆コロナ禍以降、好むと好まざるを得ず、自分と向き合う機会が増える中で、あらためて「自分を整える」ことが大切になる。「内なる言葉」で自分と向き合い、自分という軸が固まることで、感情の振れ幅もネガティブには触れにくいレジリエンスが形成されていきます。

*   *   *

第1章はここまで!
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【目次】

第1章 なぜ今、レジリエンス「折れない心」が注目されるのか?
第2章 レジリエンスを知ろう!
第3章 折れない心を育む好循環サイクル「感情の質」
第4章 折れない心を育む好循環サイクル「思考の質」
第5章 折れない心を育む好循環サイクル「行動の質」

■著者プロフィール

木下芳隆

株式会社KINO.COM代表取締役
一般社団法人ポジティブ心理カウンセラー協会認定 ポジティブ新療法士®(特許庁公認)
レジリエンス・カウンセラー / ポジティブ心理・カウンセラー

大学卒業後、印刷会社営業職を続けながら、「日本史教員の夢」を捨てられず、仕事を続けながら大学院受験勉強を重ね、二度目で合格を果たし、念願の私立高校の日本史講師として夢を実現。13年間の講師生活で約4000名の生徒の進学とメンタルのコーチングを実施。その後、某外資系生命保険会社の外交員となるが、仕事に対する価値観のズレから退職。この後の転職活動で、ことごとく不採用を経験し、今までにない苦難を味わう。80社目近くで某教育研修事業会社の責任者に着任。以後、教育研修業界で約150の企業、団体、自治体の研修企画運営、自ら講師として登壇も果たす。2019年に起業独立。新型コロナ感染拡大により研修中止が相次ぎ逆境になるが、ここから「レジリエンス」を専門に、リーダーシップやチームワーク研修を中心に「日本を元気に!」の熱い思いを胸に講演や研修企画運営を年間100以上実施し、全国を奔走中。

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